第157話 戦「オーガの猛追」

 収納空間の中で目が覚める。


 どれ位、寝ていたのかな?

 魔力はほぼ回復、体は……まだ疲れが残っているか。

 ゆっくりしている暇は無い、私が居ないと判ればオーガはどう動くのか予想が出来ない。

 大急ぎで、食事を済ませてる。

 外の様子を収納空間内から伺う、太陽が昇り始めた所だ、遠目にオーガ達が巨人を中心に固まっているのが見える。

 よかった、まだ動き出していない。


 状況を整理する。

 今はコウの町から北北東にある山の尾根だ。

 この山は、南側、コウの町側が崖になっている。

 これは自然に出来た崖では無い、採石によって出来た人工の崖だ、つまり採石場跡。

 そして、北側は急な斜面だが普通の山の斜面だ。

 崖は、山頂手前付近まで続いている。


 この崖を含む近辺の山から切り出した石を使って、コウの町の建造物は出来ている。

 もっとも、その採石する知識も技術も、その石を運ぶための手段も、今のコウの町にはない。

 採石技術を持つ集団は都市部など大きな町に残っていて必要に応じて採石するために移動する。

 それほど技術者が、この世界の人口が減っているのだ。

 この崖も、採石を止めた後から数百年すぎてる、もうほとんど自然の崖と見分けが付かない、この事を知ったのは、町長の館で見せられた詳細地形地図のおかげだ。


 横道に逸れた。

 昨日は、オーガ達は真っ直ぐ此方に向かってきた、おかげで、ここの岩、縦に割れやすい性質を持つ岩を収納爆発で崩すことで、効率よくオーガを潰す事が出来た。

 今日も同じだと良いが。

 それに山頂が近い。

 つまり崖の終わりも近い。

 回り込まれるのも北側を気にすれば良かったが、これからは両方とも注意しないといけない。

 そして、山頂方向を見る。

 人影は見えない。

 見えるような事はするはずが無いので、山頂に着いているのか判断は出来ないけど、合流してからの対応が難しい。


 コウの町と東側を見る、森に隠れているので判らないが、戦闘が行われ居る形跡は無い、オーガ種がコウの町へ向かっていないと言うことだろう。

 そして、オーガ種と戦うための戦力が来るのもおそらく早くても今日の午後。

 十分に休養できていない人員だ、何処まで戦えるのか判らない。

 視察団のチームと2つの強力な冒険者チーム、そして2人の魔法使いを含むチーム、おそらく東の大きな黒い雫の魔物とは全力で戦っている、来れるだろうか?


 私なら、戦力が整わないのなら、コウの町での防衛戦を選択する。

 防衛戦なら、少ない人員でもそれなにり戦うことが出来る。

 もっとも、巨人と超上位種が相手だと、コウの町の壁がどれだけ役に立つか判らないが。


 私達が時間稼ぎをする時間は、助けが来るのなら午後まで、町の防衛なら終わりは無い。

 もう一つ、ここから離れる手段だ、オーガ達を引き連れて、国内最大戦力の一つ、辺境師団まで誘導すること。

 東の町でもなく領都でもない、辺境師団だ、その軍事力ならあの巨人であろうと大丈夫だろう。

 しかし、これは事実上不可能だ。

 領都に居る可能性が高い東方辺境師団にたどり着くだけでも20~30日、いや、森の中を突っ切るのならそれ以上か、体力も気力も持たない。


 少なくても超上位種のオーガは倒しておきたい。

 生き残れる可能性は、助けが来るまで生き残ることしかない、なら超上位種を減らせれば山頂でもおそらく睨み合いの膠着状態を作り出せる可能性がある。

 出来るだろうか? おそらく超上位種は収納爆発でも倒すことは出来ない、方法が思いつかない。


 グズグズしている暇は無い。

 兎に角、山頂へ移動しよう。



 収納空間から出る。 周りは岩に囲まれているので視界は前方のオーガの群れだけだ。

 探索魔術を行使する。


 ザワッ!


 冷や汗が吹き出る、魔物の反応が自分の場所、つまり真上に出た。

 顔を上げると、超上位種のオーガが、ニタリと笑いながら武器をつちゆっくり振り上げる所だ。


 私は、練習してきた動作を反射的に行う。

 オーガの背後に取り出し位置を指定して時空転移を行使!


 オーガの背後に出るのと同時に、私が居た場所にオーガの武器が振り下ろされ岩が吹き飛ぶ。


 ドゴン!


 岩の破片が吹き飛ぶ中、体制を整えてオーガの背に落ちる、そしてその首元に剣5本を使った収納爆発での打ち出しを行使する。

 剣は、北方辺境師団に居た頃に収納した廃棄予定で倉庫に保管されていた物だ。


 ドザシュ。 カン。


 鎧の隙間に上手く入り込んだ3本が首に深く刺さる。


 ガァァァ、ァ!


 オーガの叫び声が山に響き渡る。

 私は、突き刺さった剣の握りに捕まって、オーガの背にしがみつく。

 そして、その剣に向かって収納爆発を行使する。


 ドゴン!


 グギャァァァ!


 剣が首の中で弾け飛ぶ。

 超上位種のオーガが叫び声を上げながら崖を落ちていく。

 私は時空転移を更に行使して、オーガの背から崖の上に移動する。

 すかさず、地面に向かって、大きな収納爆発を行使する。


 ドゴォォォン!


 岩が壁が剥がれるように割れて、オーガに向かって落ちる。

 私は巻き込まれないように必死に尾根を伝って移動する。


 ドオオオォォン!


 岩が超上位種のオーガを潰した。

 遠隔視覚を使って確認する。

 首が半分吹き飛んでいる、そして、腰から下は岩で完全に潰されている。



「ふーっ」


 焦った、夜の間に1体の超上位種のオーガが移動していたのか。

 収納空間内に居たので気が付くことが出来なかった、いや、隠密性に自信があったのかもしれない。

 だが、安心は出来ない。

 恐ろしいほどの殺気を含む視線がこちらに向かっている。


 巨人がいつの間にか立ち上がり、こちらを凝視している。

 私も、恐怖を押さえ込んで、睨み返す。

 ん?

 凝視しているのは、超上位種のオーガへだ。


 グォォ


 何か喋っている、周囲の超上位種のオーガが慌てている、それに他の上位種・中位種のオーガも巨人を見ている。

 何が起きている?


 ドジャ!


 巨人が1体の超上位種のオーガを腕一本で叩き潰した、仲間割れ?

 いや、巨人にとって、私への不意打ちは知らない事だったのか。

 部下? の超上位種のオーガが先走って私を潰しに来たことに怒っている?

 他の超上位種のオーガが両膝を突いて、必死に謝罪しているのか命乞いをしているのか。


 私は、その状況を呆然となってしまって見入ってしまった。

 ハッとなり、振りかえり背後の山頂への尾根伝いの道を確認する。

 道は荒れているが、進む事に問題は無さそうだ。


 ズン!

 ズン!


 その地響きに、振り返る。

 巨人が更にもう1体の超上位種のオーガを踏み潰し、他のオーガ達を全く無視して踏み潰しながらこっちへ向かって来た。

 慌てて、尾根伝いに移動を開始する。


 時折後ろを確認すると、オーガ達も慌てて付いてきている。

 そして、私が幾つかの岩を越えた所で、巨人が潰されたオーガの所に着いた。

 あっという間だ。

 大きく腕を振り上げる。

 その巨人の顔には怒りが見える。


 ズドオオオオン!


 潰されたオーガを更に叩き潰す、その衝撃が凄まじく、私の体が浮くほどだ。

 山の崖がガラガラと崩れる、四つん這いになって必死に足場を伝い、移動する。

 巨人は腕を振り下ろした後、しばらく動かない。


 何とか移動した所で、体を起こして振り返る。

 巨人がゆっくりと体を起こす。

 目線が、私と今度は完全に交わる。


 目が合った。


 巨人の顔が、怒りから今度は歓喜だろうか? 変わっていく。

 体が動かない。


 ガハハハハハ!


 巨人と始めて対峙したときの笑い声だ。

 両腕を広げて、笑い続ける。

 何なんだ一体。


 巨人が、笑うのを止めると、私を指さしてオーガ達に何かを命令した。

 意味は判らないが、内容は分かる。


 オオオオ


 グオォォォ!






 全てのオーガが、私に向かって全力で走り出した、全力攻撃だ。

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