第155話 戦「元・辺境師団兵」

 打合せは、早々に切り上げられた。

 視察団のチーム全員が疲労でまともに動けないのだ、最大戦力の彼らの回復が急務だ。

 視察団のチームは、そのまま町長の館の客室に入って休息を取った。



 ほぼ同じ時刻。

 東の門の付近に作られた簡易テント群の一つ。


 クルキ達、無事だった冒険者と守衛達が休んでいた。


 クルキのチーム。

 剣士のクルキをリーダーに、斥候のシグル、盾役のクルキの妻。

 クルキの息子夫婦は子供と共にコウの町の防衛に着いている。


 彼らも、酷い状況で動くのもやっとだ。

 それでも何とか全員生きている。


 もう一つのコウの町の強力な冒険者チームは、仲間の1人が死んだらしい。

 最後の超上位種のリザードと相打ちになったとクルキは伝え聞いた。


 テントの中で、多くの冒険者達も一緒に休んでいる。

 クルキは体を拭き、支給された新しい剣と、防具の手入れをしている。

 その体は、傷とアザだらけだ、無事な所を探すのが難しい。

 その前に水と食事だけは、潤沢に提供された、それは次の戦いに備えろという意味だろうか?

 気が重い、いやテントの中の冒険者と守衛全員が戦意を失っている。


 コウの町へ戻る途中で見えた、北の方に立つ巨人、あれと戦う方法など有るのか。

 紅牙の若い冒険者が言った、今回の戦いより大量の魔物の群れ。

 この情報も全員に共有されている。


 とはいえ、戦わない選択肢は無い。



「なあ、クルキ。

 北の森に行ったマイって冒険者と仲いいだろ?

 何者なんだ、時空魔術師って荷運び魔法くらいしか使えない非戦闘職じゃなかったのか?

 なのになんで、あんな所で戦っていられるんだ?」


 聞いてきたのは、クルキと中の良いベテランの冒険者だ。


「おれも知らない。

 ただ、知っているのは辺境師団に居たらしい、位だな」


「あのバケモノ共の?

 ならそうなのか?」


 一人納得する。

 だが、クルキはその言葉にカチンときた。


「嬢ちゃんはバケモンじゃねぇ。

 訂正しろ」


「あ、済まない。

 そう言う意味じゃなくてな、辺境師団ってバケモノじみた強い連中が集まっている軍だろ」


「だが、マイは時空魔術師だ、非戦闘職だ」


「だから、辺境師団は全員がバケ……ものすごい戦闘能力を持つ人間の集まりなんだよ。

 それこそ、後衛や支援職、非戦闘職に居たるまで全部」


「どういうことだよ」


 クルキは訳が分からない。

 確かにマイの収納爆発は強力な魔術だが、それ以外は守衛の中でも下の方の戦闘力だろう。


「おれは、東の国境付近まで護衛依頼で行ったことがある。

 その時、隣の国からやってきた盗賊団と戦いになったことがあるんだよ。

 装備なんて、ここの領軍の兵士より立派でな、しかも50人以上居た。

 俺たちは荷物を捨てて逃げるしかないと覚悟したんだ」


「で、それが何なんだ?」


「まてよ、その時、東方辺境師団がそこの領主に頼まれて盗賊団の討伐に来ていたんだ。

 数は全部で25人くらいだったか?

 その辺境師団が助けというか盗賊団に攻撃をしたんだ。

 数で劣っているのに、一方的な戦闘で勝っちまったよ」


「だから、それとマイが何の関係がある?」


「その辺境師団の25人のうち純粋な戦闘職は15人であとは支援や輸送部隊、そうマイのような時空魔術師の混成だったんだ。

 乱戦になった戦いの最中に痛んだ武器を交換しに行ったり、援護攻撃したり、自分たちも身を守るために戦ったり、前線で戦う兵士を常に支援をしていた。

 非戦闘職も全員が一流の戦士だったよ」


 クルキは考え込む。

 マイはまだ成人していない少女だ、だが5年もの間、辺境師団に従軍していた。

 とはいえ、違和感がある。


「なぁ、辺境師団の連中は、みんな指揮や作戦立案したりするのか?」


 そう、マイの違和感は一兵士とは思えない考え方をしていることだ。

 まるで士官のようだ、辺境師団の兵士は皆、指揮ができるのか?


「さあな。 でも、ろくに指揮が無いのに全体が一つになって動いていた、全員が何をするべきか理解しているんだろうな」


「そうか、マイは自分が兵士として何をするべきか自分で判断して行動しているのか」


 少し判った気がした。

 戦闘に入った時に、一切の躊躇無く作戦を指示し戦闘を行う。

 マイとは数回、依頼を一緒にしたことがあるが、判断も行動も少女のそれとは違いすぎて違和感があった。

 それが解消された気がする。


 つまり、辺境師団の中で成長したのか。

 行動理念や考え方、非常時での行動、そういうものを実戦の中で身につけていた。

 本人も意識せずに。

 その能力を評価されたからこそ、町のお偉いさん達と一緒に行動するわけだ。


 そのマイなら、この絶望的な状況を何とか出来るだろうか?

 元・北方方面辺境師団 所属だった時空魔術師に。



 夜に入り、マイの攻撃していた音が途絶えたとの話が回ってきた。

 だが、オーガどもは動かない。

 それは、まだマイが健在だという証拠にならないか。

 クルキは淡い期待と不思議な確信を持って、簡易ベッドに潜り込む。


 今は体力を回復させて、少しでも早く嬢ちゃんの所へ応援にいかないとな。

 直ぐに疲労からくる睡魔に身を任せて眠りにつく。






 まだ、冒険者や守衛にはコウの町での防衛戦は伝えられていない。

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