第154話 戦「綱渡り」
弄んでいるのか?
私は、オーガ種の攻撃を見て思う。
今、オーガ種は中位種が中心で単純に数で押してくるだけだ。
尾根伝いに移動しているおかげで、相手の数の有利を生かせない状況を生み出せている。
そして、尾根に対して行う収納爆発で、相手を近寄らせない戦術が効果を出している。
でも、それをもう数時間続けている。
少しでも知能があれば、戦い方を変えるはずだ、それなのに変えない。
そして、超上位種のオーガも巨人も発生した場所から動かない。
私が退避しながら攻撃しているのを、ただ見ているだけだ。
相手の意図が読めない。
そもそも、あの魔物達はこの世界に現れて何がしたいのだろう?
この世界を食い潰すのなら、もっと単純でも良いはず。
知能がある魔物、おそらく人間とは全く違う思考体系を持っていると思う、同じ方がおかしい。
でも、笑った。
そうだ、感情がある。
知能があって感情がある、この世界とは異なる世界の生物。
……?
あれ、また何か引っかかった。
トン。
背中に岩が当たる。
振り向くと3メートルの崖がある、普通なら行き止まりだ。
でも躊躇無く風属性の魔術を使用して崖の上に体を打ち上げて移動する。
ごく短距離なら、魔力消費も少ない、連発しても問題ない。
辺りを確認する、今はまだ前方にしかオーガの群れは居ない。
回り込まれないように、かといって離され過ぎないように。
注意しながら、後退する方向の尾根を確認する。
ベテランの冒険者と守衛と合流する場所は、頂上としてある。
まだ距離がある。
問題は、そろそろ日が落ちる。
空の迷宮の光があるのと、幸い天候が良いことから夜間移動は注意すれば何とかなりそうだ。
ドゴン!
何度目か数えるのも止めた収納爆発を行使する。
魔力の残量も少ない、それに空腹と眠気が時折襲ってくる。
ベテランの冒険者と守衛に合流して、交代で休むつもりでいたけど、無理そうだ。
気力が尽きた所が私の最後かな?
収納から、水袋を出して数口飲み、乾燥肉を口に頬張りかじる。
噛んでいる事で、眠気を追い出す。
オオオオオ
巨人が何か声を出した。
耳にはただの一音にしか聞こえないが、肌に感じる振動から、幾つもの意味が含まれている可能性が推測できる。
ピタリ。
私へ向かってきたオーガ種が止まる。
何だ?
そのまま踵を返して戻って行く。
動けないオーガは見捨てたままだ。
巨人を中心とした場所に集まる、尾根から見るその数は、かなり減らしたはずなのに減っている感じが全くしない。
夜間の攻撃を止めた? 何故?
ドスン
巨人が座る。
そして、周囲の中位種のオーガが何かを運んでくる、遠隔視覚を行使して確認する。
イノシシやオオカミ、それにシカやクマまでいる。
それをぞんざいに摘み、口に放り込む。
音は聞こえないが、咀嚼している様子が見える。
他の上位種のオーガは、木を食べている、中位種のオーガもだ。
瞬く間に周囲の植物が食い尽くされ、土がむき出しになっていく。
これが、この世界のあらゆる者を食い潰すということか?
私は、尾根の上の小さい平地に腰を落として、一息つく。
頭の回転が悪い、疲れている証拠だ。
オーガたちから見えない場所に移動して、自分の収納空間に入る。
体がダルい、予想以上に疲れている。
タナヤさんが作ってくれた保存食を用意して、食べる。
うん、美味しい。 果実で味付けされた水が体にしみこむ。
まだ、美味しいと感じるだけの余裕がある。
まだ戦える。
食事が終わると、強烈な睡魔が襲ってきた、私はそれに耐えきれず収納空間内で眠りについた。
■■■■
コウの町に夜がやってきた。
守衛は北の森の巨人の監視を重点的に行っている。
動かない、そして日が沈む頃に座り込んだらしい。
巨人からはコウの町が見えているはずだが、全くこちらを気にしている様子が無い。
それは、マイとベテランの冒険者と守衛が注意を引いてくれているからだろう。
そして、マイが戦っている音が日が沈む頃に止んだ。
考えられる事は、判っている、でもそれでも巨人がまだ動かないのだ、生きている可能性を否定できない。
コウの町の東の牧場に仮設のテントが大量に作られている。
その中には、戦闘に参加した冒険者と守衛が休んでいる。
治療が必要な者は、教会の施設とその周辺に作られた仮設の治療所で治療を受けている。
町長の館の一室に、コウの町の関係者が集まっていた、マイを除いて。
その空気は重い。
視察団も全員居る。
「日が暮れる頃に、マイさんの収納爆発の音が途切れたそうです。
オーガ種の巨人ですが、発生した場所から動いていません」
コシンが、守衛からの報告を告げる。
コシンの疲労も酷い、大量の怪我人と死者、そして疲弊した冒険者と守衛。
その対応に、役場も冒険者ギルドも教会も全力で対応している。
「ギムさん、本音で言って下さい。
あの巨人に勝てますか?」
コウの町の町長コウは、疲れ切った顔を隠そうともせずにギムに聞いた。
そのギムも両腕に包帯を巻いている。
「無理だ。 もし東の大きな黒い雫が無く、全戦力を当てる事ができたとしても、だ。
紅牙からの報告は聞いてるな、オーガ種を中心とした魔物の群れ。
そして、中位種が数千近く、上位種も数百。
そして、武装した超上位種が10匹にあの巨人だ。
明らかに意思をもって行動している。
こちらの数十倍の数に超上位種と巨人だ、どうしようも無い。
だが、今動かない理由が判らないが、マイが関係している可能性は高い。
そして、あそこに未だマイが居る可能性もある」
「マイさんは未だ生きていると?」
「うむ。 根拠など無い。
ただ、そう思うだけだ」
ギムは、マイが ただ何もできずに死んだりしないと漠然と思っていた、それは確信に近い。
「でも、現状は何が出来るんだ?」
冒険者ギルトのギルドマスター ゴシュが聞く。
絶望的すぎる状況に、ヤケクソ気味になっている。
「不可能に近いですが、コウの町での防衛戦にするしかないでしょう」
「ちょっと待ってよブラウン!
それって、マイちゃん達を見捨てろって言うの?」
ブラウンの提案にシーテが反論する。
でも、そのシーテも代案が有る訳じゃない。
「何か無いの?
マイちゃん達は、山の上で私達が助けに来るのを信じてオーガを引きつけているのよ?」
そうだ、オーガの軍団が動かないのは、マイ達が何している可能性が高い。
でなければ、オーガがコウの町に興味を示さない理由がない。
「ねえ、シーテさん。
マイさんは、時空魔術師として非常に優秀な方です、何か手段を持っていないんでしょうか?」
ジェシカがシーテに問う。
マイの冒険者としての功績は、時空魔術師というには異質なものばかりだ。
もしかしたら、何か特別な能力があるのではないか?
そんなもの有るはずが無い。
シーテは、顔を背けて回答を拒んだ。
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