第151話 戦「竜討伐」

 コウの町の東側、大きな黒い雫の落ちた場所は、戦いが続き、血と魔物の体液が大地を濡らしていた。

 大量の魔物の死体と人の死体。


 その中でも、ひときわ激しい戦いが行われている。

 コウの町の強力な冒険者チーム2つは、超上位種を2体倒し、さらに次の超上位種のリザード種を相手に戦っている、しかし満身創痍だ。

 ギムたち視察団もドラゴンに肉薄し、攻撃を仕掛けている。

 そして、彼らをそこへ行かせるために盾となった冒険者と守衛はその多くの数が戦う力を失っていた。


 何人死んだのか?

 ギムはドラゴンと対峙しながら、この場所へ来るまでに体ごと上位種のリザード種を押しとどめ攻撃していった者達を思い起こす。


「うむ。 全員状況を知らせよ」


 ギムは自分のチームの全員に状況報告を求める。


「体力はともかく、盾がそろそろ持たないぞ」


 ジョムがドラゴンの炎をその魔法の盾を使い打ち逸らす。

 それも限界に来ている。


「大きな魔術はあと3回」


 シーテは肩で息をしながら、魔法効果を底上げする魔導具に魔力を注ぐ。

 マイとの訓練で魔術を使う効率が上がっているが、それでも最初から魔術を行使していたため、魔力の残りは少ない。


「矢はあと12本、魔力を込められるのは5本が限界だ」


 ブラウンは、魔弓を構えて隙をうかがう。

 魔弓は矢に魔力を付加させたり、1本の矢を複数に分割したりする能力がある。

 威力は低いが、その面攻撃は有効でドラゴンを含め多くの魔物に攻撃を当てている。


「すいません、魔力はほぼ使い果たしました」


 ハリスが、魔力の使いすぎによって青い顔で両膝をついている。

 戦闘開始当初から、この辺り一帯を聖魔法の浄化で魔物に対して負の効果を与えている。

 彼の魔法がなければ、冒険者と守衛達が善戦することはできなかっただろう。


 ギムは考える。

 ドラゴンは、幾つかの攻撃を受けているが致命傷にはほど遠い。

 それなのにその場を動こうとしない、飛べないのか?

 口からの魔法を帯びた炎がやっかいだ、ジョムの防御を当てには出来ない。

 尻尾とかぎ爪の攻撃は動作がわかりやすい、しかし、当たれば一撃で動けなくなる強力な威力がある。


 さらに、全員の体力がもう持たない。

 その背後からは、冒険者の戦いの音が聞こえる。



「どおりゃぁぁぁぁぁぁ!」


 クルキの超上位種への攻撃。


 ガキン!


 手に持っている武器で受け止められる。

 鍔迫り合いになっている隙に、シグルの死角から攻撃が入る。


 グアアア!


 バトルアックスの攻撃を受け、胴体が上下半分になる。

 崩れ落ちる、超上位種の喉に向け、剣が突き刺さり、動きが止まる。


 しかし、とどめを刺した後も胴体を分断したが、体力が尽きて起き上がれない。

 超上位種はあと2体。

 視察団に向かわせてはいけない、が体が動かない。


「くそおぉぉ」


 声を張り上げて、クルキは頭を持ち上げる。

 あちこちで乱戦になっている。


 上位種のリザード種に槍を突き立てる者、頭を噛み付かれ悲鳴と骨の折れる音を出しながら振り回される者。

 最初にこの場所に来た総員の中でどれだけが動けるのか?


 盾役のクルキの妻が肩を貸してくれて起き上がる。


「いけるか?」


「盾がもう駄目だね、あんたを支えるのが精一さ」


 ニッカリと笑う。

 盾を持っていた方の腕は力なく垂れたがっている。

 最後まで一緒だ、そういう意思が伝わる。



 ヴゴォォォ!


 ドラゴンの雄叫びが上がる。

 その巨体を浮かせるように羽がユックリ大きく羽ばたく。

 体が地面から浮く。


「まじぃ、飛ばれたからどうしようも無いぞ」



 そこに一本の光の矢が空に向かって放たれ、上空で数百に分かれる、そして雨のようにドラゴンに降り注ぐ。

 ブラウンの魔弓の奥の手だ。

 空に弓を向けたブラウンは、そのまま膝をつく。


「どうだい、一本の矢は弱くても、束になれば強力ですよ」


 そこへ、強力な白い炎がドラゴンの顔を覆う。

 輻射熱だけで肌が焼ける。

 シーテの得意とする炎の魔術の、炎としては最上位にあたる白い炎、マイとともに訓練して習得した、未完成ながらシーテのどの攻撃魔術より強力な術式だ。


「強力な一撃こそ攻撃魔術師のロマン、なんてね」


 近くの岩に体を預けて、意識を保つのに必死になる。

 瞬間魔力使用量が多いこの名前も無い魔術は、魔術師への負担が大きい。

 頭痛がひどい。

 マイが転移を使ったときも、こんな痛みを感じていたかな?

 シーテがボンヤリと、白い炎に包まれたドラゴンを見ながら他人事のように見る。


 ドラゴンが、再び地面に落ちる。

 地響きが上がる中、2つの影がドラゴンに襲いかかる。

 上からは、大剣を振りかざすギムが。

 下からは、盾を捨て両手でバトルアックスを振りかざすジョムが。


 ギムの大剣が、赤い魔力をまとい数倍の大きさに見える。

 ジョムのバトルアックスが、白い魔力をまとい大きなハンマーのように見える。


「おおおおおおおおお!」

「うりぁぁぁぁぁぁぁ!」


 同時にドラゴンの首に攻撃が当たる。


 ドン!


 爆発したかのような音が響く。

 爆風がドラゴンを覆い隠す。

 冒険者と守衛、いや魔物までもが、その様子を見て動きを止める。


 土煙の中から、塊が飛び出す。 ドラゴンの首だ。

 吹き飛んだドラゴンの首が、残った超上位種のリザード種に向かって落ちてきて潰した。


 残りの超上位種も冒険者によって両腕を失い、トドメが刺されているところだ。


 守衛の誰かが叫ぶ。


「ドラゴンと超上位種のリザードも討伐した、あと少しだぞ!」


「「「おおおお」」」


 この戦いの終わりが見えてきた。

 残った気力を引き絞り、立ち上がる冒険者と守衛達。

 ドラゴンの死体に体を預けながら、その様子を見てギムは今後のことを考え始めていた。


 北の巨大な雫はどうなったのだろう?

 そのギムにシーテが声を掛けてきた、その声は戦いに勝ったとは思えない、か弱い物だ。


「ねぇ、ギム。

 あれって幻だよね? ね?」


 シーテが西の方、コウの町の北側を見て指を指す。

 その手は震えている。






 巨人の姿が、巨大な黒い雫が落ちた場所に現れているのが、離れたこの場所からも見える。


「あれは。 なんなのだ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る