第137話 戦「北の村」

 北の村へ向かう街道を6頭の馬が走る。


 空は雲が多く薄日が差している。

 温かいが、ヌメッとした湿度のある風はやや不快だ。


 私は、あの後に冒険者ギルトで正式に指名依頼を受けて、ギムさん達と詳しい打合せをした。

 宿屋タナヤに帰ってきて、仕事の話をすると、やはりフミが心配してくれた。

 とはいえ、町長からの指名依頼だし、私が関わった北の村の後始末だ、やっておきたい。



「ギムさん、黒い雫が雲を突き抜けて落ちてきた事例はありますか?」


 私は、空をチラリと見て、懸念していることを確認する。

 今の所、コウの町では無かったが、雨や曇りの日がどうなのかも判らない。


「うむ。 今の所は空が見える時にのみ落ちてきているようだ。

 だが、今日のような天気では、判らないとしか言えない」


 夜に降ってきた事例はあったそうだ。

 そうなると、空の迷宮と地面の間に雲か霧のような物があると落ちて来れない可能性がある、希望的な推測だけどね。


「夜の場合は明かりの確保が課題ですね。

 その点は、コウの町には光属性の魔術師が居るので助かります」


 ブラウンさんが補足してくれた。

 コウの町で夜に魔物の戦闘があったのは北の村からの魔物を防衛した時が初めてだった。

 その時に、光属性の魔術師の兄が明かりを確保してくれて、そしてその光で出来た影を利用した影属性の魔術師の妹が攻撃を仕掛けていた。

 途中で魔力切れしていたけど。


 兄妹の組み合わせは、お互いの欠点を補い長所を伸ばす事ができていた。

 私やシーテさんの威力には届かないけど広範囲への攻撃を行使することが出来るようになって、コウの町の重要な戦力になっている。

 ほんと、最初は農業に特化した使い方をしていてそれ以外が全くだったので、どうなるのか不安だったんだよなぁ。



 1度の昼休憩を入れて移動し、程なくして、北の村が見えてくる。


 コウの町の元要塞都市を守る砦の跡を利用した村。

 元々の建築物は解体され建材に再転用されている石造りのしっかりとした壁、何カ所か崩れているけど壁が村を囲っている、これらは砦の塀や施設を解体した建材で作られている。

 牧畜を主な産業にしているので、砦では手狭だったのだろう、戦いには向かないけど野生の獣が入り込めない程度の高さの壁というか塀が作り直されている。

 その内側には広い牧草地と畑がある。


 特長のなのは、砦の跡かな見張りの塔が1本だけ立ってる、あそこが村の中心かな。



 馬の速度を落とす。

 事前に示し合わせた通り、北の村を先行偵察している守衛に馬上から挨拶をして直ぐに探索を始める。


 私は、大盾使いのジョムさんと、弓と剣を使うブラウンさんに守られながら村の周囲を探索魔術で探索しながら回っていく。

 シーテさんは、リーダーでロングソードを使うギムさんと、聖属性魔法を使う教会から出向できているハリスさんが守りについて、私と反対方向に村を回っていく。


 かなり離れている所に居るはずのシーテさんの探索魔術が私にも感じ取れる。

 北の村の中の探索もついでに済ませてしまうつもりなのかな。


「ジョムさん、ハリスさん、今の所反応は有りません。

 獣の気配があるので、ダンジョンが発生してる可能性も低そうです」


「了解した、このまま北側の貯水池付近で合流出来そうだな」


「うん、森の気配も何時もと変わらない感じだ」


 ジョムさんの言う通り、コウの町から北にあるこの村の更に北側には貯水池がある。

 そして、その貯水池が例の改良されたダンジョンコアが見つかった場所だ。


 なんで、地中深くに有ったのだろう?

 判らない、けど地中深くに埋めることに意味があるのかもしれない。


「あ、前方20メートル、微弱ですが魔物の反応です」


 私の探索魔術では見通しが良くても実用範囲は50メートルが限界だ、ここはまだ研鑽が足りない。

 目視と大差ないので、ブラウンさんなら簡単に発見できるだろう。

 でも、草むらに潜んでいるのであれば私の探索魔術の方が若干発見は早い。


 ブラウンさんが馬を下りて弓を構えて慎重に近づく。

 草むらがかすかに風とは違う動きをしている。

 ブラウさんの矢が正確にその場所を狙い続ける。


 ゴブリンが1匹居た。

 だけど、皮膚の色が黒ずんでいる、倒れて手足をかすかに動かしているだけだ。


「うん、寿命かな」


 ブラウンさんは腰のナイフを取り出し、ゴブリンの首を落とし魔石を回収する。


「ゴブリンの体は、道沿いに置いておいて、後で回収して貰おうか」


 ブラウンさんが、ゴブリンの体を移動させると、馬にひらりと乗り込む。

 私とジョムさんが周囲の警戒を続ける。


 うん、周囲の様子も探索魔術の反応も問題ない。

 念のため、獣も探索してみているが、大きな反応は無いな。


「では移動しましょう」


 ジョムさんの声で、移動を再開する。

 その後は特に問題なく進む事が出来た。

 ただ、所々に喰われたのか判らないが不自然に植物が無い場所が幾つかあった。

 魔物は、この世界のあらゆる生きている物を喰らう、らしい。

 これもその一部なのかな。



 遊水地。


 私が来た時には拡張するために空堀にして水が無かったけど、今は満水状態だ。

 うん? 雨の年の今、満水にするのは良くないんじゃ? よく知らないけど。


「あ、マイちゃんお疲れ~」


「シーテさん、お疲れ様です」


 既にシーテさん達は休息していた。

 特に何も無かったのかな?


「うむ。 こちらは死んだゴブリンが2匹居ただけだな、そちらはどうだったか?」


「はい、死にかけのゴブリン1匹ですね、処理済みで道沿いに置いてあります」


「では。 守衛に取りに行かせよう」


 ギムさんとブラウンさんが情報を共有している。

 どうやら、問題は無さそうだね。


「シーテさん、村の中の探索も済ませてしまったんですよね」


「うん、判っちゃった? 広めに探索魔術を使ったから村の中の安全も確認済みよ。

 多分、魔物の死体はあるでしょうけど」


 うんうん、順調に進んで良いな。

 1泊して明日には戻れる。


「ええ、浄化の魔術を使う必要もありませんでした」


 ハリスさんが、飲み物を持ってきてくれた。

 お礼を言って受け取る。

 冷やしてあるのかな、果実水が美味しい。


「所で、遊水地ですけど、満水で良いんですか?

 雨降ったら適度に流れる仕組みがあるとかなら良いんですが」


 気になっていたこと聞いてみる。


「良くないな、調べてきたが水門を手動で動作させる仕組みだった。

 漏水して水が水門以外から漏れ出したら決壊する危険がある。

 だが、村の設備だ関係者以外が無断で操作する訳にはいかない」


 うん? 駄目なのかな。

 確かに水門を開けること自体は難しくない。

 でも、その先がどうなっているのか確認するには時間が掛かる。

 それに満水の今、何処まで水門を開けても大丈夫なのかも判らない。


「マイ。 それについては既に守衛が貯水池の管理者を迎えに向かっている、順調なら明日には来る。

 心配は要らない」


 あ、対応済みだったんですね。






「さて、村に行って夕食にしましょ。

 今日は早めに寝たいわ」


 シーテさんの提案に全員が頷いた。

 朝から動きっぱなしだったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る