第138話 戦「北の村の中」

 北の村の中に入る。


 予定では、村長の家の側にある来客用の宿泊施設が借りれることになっている。


 馬に乗って村に入ると、村の様子が目に留まる、予想外に荒らされているな。

 これは、魔物によるものなのか、それとも逃げる際のゴタゴタで荒れたのか判らない。

 でも、扉が壊されている家もあることから、火事場泥棒も居たのかもしれないかな?

 泥棒が発覚したら、かなり重い罰が下される。

 バレる可能性が低いと思ってやってしまったのかもしれないけど、たぶん村民の持ち物の確認とかされる。


 おそらくだけど、北の村の状況を伝えずに逃げてきた村民の調査が行われるんじゃないかな。

 コウの町の町長は穏やかな人だけど有能な人だ、この辺は厳密に対応するだろう。


 宿泊施設は特に被害を受けていなかった。

 宿泊施設に高価な物は無いし、村長の家を荒らすほどの度胸? がある人は居なかったようだ。


 先行して村の中の安全を確保してくれていた守衛の人が宿泊施設の準備も整えてくれていた。


「ご苦労様です、簡単ですが食事の準備も進めていますので、まずは部屋で休んでください」


 私達の対応を任された守衛さん、知らない顔だった。 たぶん、北の村の守りをしている守衛さんなのだろうな。


「うむ。 ご苦労、確認のための打合せをしてその後、そのまま食事としたい。

 場所はあるだろうか?」


「あ、はい。 食堂をそのままお使いください」


 多少緊張しているのだろうか、話し方が固い。

 視察団といえば領軍の遊撃部隊で、状況によっては町長よりも上の立場で動く事もあるから、緊張するのも判る。

 元冒険者で何度も一緒に行動しているので時々忘れてしまうけど、本来私は指示を受ける側なんだよなぁ。

 ギムさん達がそういうのを嫌がるので、同じ冒険者の先輩という感じで対応しているけど。


 宿泊施設の中は質素だけどしっかりとした作りになっていた。

 食堂は50人は1度に食事が取れるような広さだった。

 ある程度身分の高い人というよりは、応援で来る守衛や領軍の人達を迎えるための施設なのだろうな。

 あと、村人が集会を行う場所かもしれない。

 その一画、ちょっとだけ豪華な作りになっている場所に案内される。


「申し訳ありません、村長の家にもっと良い部屋があるのですが我々の権限では使用できないので、出来るだけ良い物を出させて頂きますので、ご了承願います」


 相変わらず固い。


「うむ。 問題ない、対応感謝する」


「はい」


 固くなっている守衛さんに向かって、かるく会釈と笑顔を見せる。

 ちょっとした事だけど、従軍していた時にこういう、こちら側も理解しているという対応をするのは、現地の領軍や守衛の人達と上手くやる秘訣だ。

 辺境師団は、その独立性の高さから、どうしても領軍や町の守衛の人達と溝が出来てしまう。

 彼らの印象を良くする、というのも現地にいる王国軍の兵士に求められる、特に私の居た輸送部隊は現地の人達との交渉する機会は多いからね。


 守衛さんが、少し驚いて私を見る。

 今の私はただの冒険者なので、まぁ良いかな?


「確認する事は少ないので、簡潔に。

 発見された魔物は、死体か死にかけが3体のみ、死体のみならまだ見つかると思います。

 マイとシーテの探索魔術では死体は見つけられませんからね。

 また、ダンジョンの反応、黒い雫の反応も無かったとのことで、北の村の安全は確認されたと言って良いでしょうね」


 ブラウンさんが、席に着いた私達を見渡して、席を立って話してくれる。

 この手順も事前に決めてある。

 いちいち、だれが何をするのかその場で決めることはほとんど無い。


 ブラウンさんがまとめ役をするというわけではなく、持ち回りだそうだ。

 重要な案件はもちろん、ギムさんがまとめるけどね。


「うむ。 では、予定通り我々は一晩宿泊し、明日の昼にはコウの町へ帰還する。

 何か懸念点があるものは居るかな?」


 うーん、懸念点については遊水地で合流して休息している時に細かい事を確認していたから特に無いかな?

 北の村の復興計画とか気になるけど、私が関わることじゃないし、あるとしたら物資の輸送依頼が来るかもしれない程度かな。

 それも今、確認する事じゃ無い。


「無いようだな。 食事取った後、各自ゆっくり休むように」


「「「はい」」」


 その様子を、控えていた守衛さんが聞いている。

 北の村の安全が確認されたことに安堵しているように思う。

 奥の誰かに声を掛けている。


 あ、食事が運ばれてきた。

 準備を済ませていたんだね。 夕食にはちょっと早いけど、昼食も簡単に済ませていたのでお腹は空いている。



 食事は、まぁ、頑張ったんだろうな。

 肉も沢山入っているけど、うん、大雑把な男性の料理という感じだ。


 皆も、特に文句なく食べているけど、普段はタナヤさんの食事を食べているので舌が肥えてしまっている。

 もちろん、私もだ。


 とはいえ、量もたっぷりで贅沢な食事と言って良いな。

 お腹いっぱい食べれるというのは、それだけで十分な贅沢だ。


 食事のお礼を言って、各自部屋に入る。

 2人部屋を3部屋。

 シーテさんと私の女性部屋と、男性部屋2つ。


「タナヤさんの料理の味に慣れてしまうのも問題ね」


 さっそくシーテさんが食事の感想を言う。


「まぁ、ここは区別しないと。

 さっきの食事も贅沢にお肉とか使っていますし、香辛料も使っていますね。

 料理を専門にしている人が居ないようなので、これでも十分ですよ」


「確かにね。

 先行して村の安全を確保してくれていた守衛の人達に感謝しないと。

 そういえば、マイちゃん台所の方で何かしてなかった?」


「あれ? 連絡が来ていませんでしたか。

 守衛の人達への援助物資の輸送を頼まれていたんですけど。

 主に食料ですね」


 時空魔術師が行くのだから、ついでに輸送して貰おうというのは当然だと思う。

 食料が足りなくて、村に残されている物資を勝手に使うのは駄目だからね。

 村の警護をする守衛の物資も、村を放棄する決定をした時にできる限り持ち出しているから備蓄が心許ないと聞いていたし。


「私達は聞いてないわね。

 帰ったら言っておかないと。

 マイちゃんが輸送すること自体は問題ないけど連絡が来ていないのは駄目ね。

 輸送分の報酬は貰ってるよね」


「もちろんです、報酬は輸送分多くなっていますね」


「なら良いんだけど、まとめて払って誤魔化すこともあるから注意ね。

 特に今は町も余裕が無いから、予算を少なく済ませようとするかもしれないからね」


「ええ、その辺は大変なのは判っていますが、善意ややる気を利用して安く働かされるのは違いますから」


 ベッドに横になって考える。

 北の村を復興される事を即断したのは、町に余裕が無いからかな?

 多分、町で保護し続ける負担よりも北の村を復興させる方が良いと判断したと思う。


 でも、魔物が黒い雫から落ちてくる日々の中、分散させるのは守る上で良い判断とは言えない。

 守る人の数を制限する……そんな可能性もあるけど、どうかな。


 漫然とした不安はある。

 起きていることが、過去の資料に載っていない事ばかりで、その時々で判断するしか無い。

 私でも戸惑うのだから、町長やギルドマスターはもっと苦慮していることだろうな。






 睡魔が襲ってくる。

 シーテさんに、お休みの挨拶をしてベッドに潜り込むと眠りに落ちた。

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