第135話 氾濫「エピローグ」

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「あと少しだ!」


 守衛の指揮官とおぼしき者が周りに鼓舞する、その自分も剣を杖代わりに何とか立っている。

 事実、あと少しだ、魔物も低位種がほとんど刈り取られている。

 しかし中位種のリザード種が十数体残っている。


 冒険者も守衛も満身創痍だ、あと少しがものすごく遠い。


「うりゃあああ!」


 クルキが体ごと体当たりするようにリザード種を切り裂く。

 立ち上がるのも苦労しながら、辺りを見る。

 北の村の黒い雫と上位種オーガは討伐された、あと目の前の魔物さえ倒せば終わる。

 しかし、体がもう言う事を聞かない。


「ちっ。 嬢ちゃんの苦労を無駄にしちまいそうだ」


 ドゴン!


 聞き覚えの有る音が鳴る、ひしゃげたリザード種が宙に舞う。

 強力な炎の魔術がリザード種を包み灰にしていく。


 2人の魔術師がリザード種を吹き飛ばしていく。

 マイの収納爆発と、シーテの炎の魔術だ。


 最後の後もう少しが、来た。


「おりゃぁぁぁあああ!」


 強力な剣とバトルアックスで残りのリザード種が簡単に切り裂かれていく。

 2人の戦士が残りのリザード種を駆逐していく。


「最後まで良いとこ持っていかれちまったな。

 後もう少しだ、皆! きばれ!」


 周囲の冒険者と守衛は、その勢いに力を貰い、残りの魔物を討伐した。


 コウの町防衛戦は幕を閉じた。

 最低限の人員を残して、傷ついた者は治療に、それ以外は簡単な食事をして帰宅した。




「ただいま」


 少女は宿屋に、まるで自宅に帰るように入っていく。


「おかえり」


 少女より頭一つ背が高い娘が出迎える、その後ろに娘の両親が優しく見つめる。

 少女は優しく笑うと、娘に抱きつくように崩れ落ちた。


 くー


「マイ? 寝ちゃった」


 娘の腕の中で、少女は眠りについた。

 役場の鐘楼から、外出禁止令の解除を伝える鐘の音が優しく響いてきた。



■■■■



 トサホウ王国、王都。


 その王城で、王族を守る近衛兵同士が揉み合っている。


 王都で、改良されたダンジョンコアを地下の倉庫に収納することが決まった。

 第一王子トアスが、施政を行う役職と共に、強行して可決した。

 当然、ディアス国王は反対したが、討議の場で反対する者もおらず、止めることが出来なかった。


 直ぐに改良されたダンジョンコアの封印。

 王城の地下倉庫に運び入れる作業に入ったが、王は自分の私兵になる近衛兵に命じてそれを阻止しよううとする。

 封印を行うための作業の妨害を排除するため、第一王子トアスの指揮する王城の近衛兵がそれを防ぐ。


 剣こそ抜いていないが、お互い命じられたことを遂行するため、揉み合い殴り合いが始まってしまった。


 その異様な光景を、王城に居る者が不安そうに見つめている。

 門が閉じられているので、王城の外からは見えないが、近衛兵同士が争う喧騒は外に漏れ出している。

 王都の民は何が起きているのか不安になるが、支配階級の最上位に位置する王の居る場所だ、不用意に詮索することもできない。


「父上は、何でここまで執着されるのか。

 王の近衛兵達よ! これは王国の総意で決められたことである、この場を引け!」


 第一王子トアスが声を張りあげるが、聞き入れられない。

 国王の近衛兵は、国王の為にのみ存在し、ディアス国王の命令以外は聞かない。

 そして、王を守護する国内最高峰の兵士達である、王城の近衛兵よりも一段格上だ、数に劣っても強力で、圧倒している。


 ついに、移動作業している作業員に、王の近衛兵が到達する。


「国王の命である、作業を中止し元の位置戻せ!」


 王の近衛兵隊長が作業員に命ずる。


「王国の命である、作業を進めよ!」


 第一王子トアスの声が飛ぶ。

 作業員達は困惑し、作業を止めるが、王国としての命令で動いている、どうしたら良いのか判らず狼狽える。


 作業を止めた場所が悪かった、改良されたダンジョンコアは、台座から台車に移されたばかりで固定されていなかった。



 パキ



 小さな音がした。

 初めはゆっくり、そして段々速度を上げながら、改良されたダンジョンコアが倒れていく。


 気が付いた時には手遅れだ。

 その場に居た全員が、声を止め動きも止め、倒れていく様子を呆然と眺める。


 ゴン、バキン


 改良されたダンジョンコアが地面に倒れ、割れる。


「あ」


 誰かが、声を発した。

 それと同時に、改良されたダンジョンコアから強烈な光が空に昇り、空の迷宮が強く光り輝く。






 輝きを失った、改良されたダンジョンコア。

 何が起きたのか誰も判らない、ただ、異様に輝く空の迷宮を眺めるしかなかった。

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