第134話 氾濫「改良されたダンジョンコア」

「だ、大丈夫なんですか?」


 私は慌てる、虚偽の報告はもちろん、重要な情報を意図的に報告しないのも重大な義務違反だ。

 知られていないのは、ありがたいけど重罪を受ける危険までして隠してもらうのは違う気がする。


「うむ。 報告は、魔獣と魔物、そしてダンジョンや黒い雫に関してのみ、との指示を受けているから、取り敢えずは問題ない。

 だが、この混乱が落ち着いたら、詳細な報告はしなくてはいけない。

 大量の報告の中に、上手く入れ込んで目立たなくする程度は出来るが、全く報告しないというのは出来ない。

 しかし、我々は何度もマイ君に助けられた、そしてその力は切り札で隠しておきたいのであろう。

 だから、マイ君の意思を尊重する」


「ありがとうございます。

 無理の無い範囲で報告して貰って構いません」


 私は頭を下げる。

 今は魔物と黒い雫の対策の事を考えることにしよう。

 優先順位を間違えないようにしないと、コウの町を宿屋タナヤをフミを守る。



■■■■



 トサホウ王国、王都。


 王城の一室に宰相が居た。


「トアス第1王子、改良されたダンジョンコアについて判ったことが有りますので、報告します」


 トサホウ王国 第一王子トアスの執務室であった。

 トアスは、宰相の用意した資料を受け取り、目を落とす。

 室内には2人のみだ、本来居る護衛も付き人も居ない。


「王子のお力で禁書庫の閲覧の許可を頂き感謝します。

 まず、この改良されたダンジョンコアは、光や大気の魔力を取り込む事で動きます。

 そして特種な能力と思われる力を引き出すことが出来るのです。

 そして、その力で空の迷宮と呼ばれる空の迷宮を経由して様々な事が出来ます」


 トアス第一王子は、ピクリと眉を動かすと、宰相を見つめる。

 禁書庫、本来は王族でなければ閲覧出来ない書物を閲覧させた。

 1000年以上前の記録があるが、文章の表記が古すぎて別の言語のようになっている、読むためには専門の技能が必要となる。


「様々な事とはなんだ」


「離れた所に魔力を供給して魔道具を動かしたり、言葉や映像? をやり取りしたり、不可能とは思いますが、遠い場所と一瞬で人や物を行き来させたり出来たなどの記述がありました。

 魔力を受け取るための特別な魔道具を使用することで、都市でも町でも、いえ個人でもその力の恩恵を受けられたとのことです。

 素晴らしい力であると思います」


「ほう、有益なのだな」


 宰相は頭を振る。


「しかし、今は動かしてはいけません、動かすために必要な設備が全くありません。

 今の状態は、魔力を無作為に周囲に送り続けているだけです、その為に魔力が溜まった所に黒い雫が発生して居るようです。

 兎に角いまは厳重に保管するべきだと具申します」


「どの様に保管すれば良い?」


「現在、王都にある改良されたダンジョンコアは、未稼働状態で保管されていたと推測します。

 つまり、地下の地面の中。 光や大気が全く入らないようにするのが、最もよい保管方法でしょう」


「王が承諾するとは思えない方法だな。

 どうしたものか」


 トサホウ王国 国王ディアスの改良されたダンジョンコアへの執着は度を超えている。

 本来、多くの領主からの申し入れがあれば、何らかの対応が必要なのに全て無視している。

 そのため、各領主との関係が微妙になってしまっている。

 この関係を早急に何とかしなくてはいけない。


 宰相の顔色が良くない。

 まだ何か話すことがあるが、話すのを躊躇っているように見える。


「まだ何かあるのか?」


 宰相は、汗を拭き、深く頭を下げて告げる。


「記録のみですので、真偽は不明ですが、申し上げます。

 この改良されたダンジョンコアですが、兵器としても使用していた可能性があります。

 そして、過去に行われていた戦乱は、この改良されたダンジョンコアの施設の奪い合いが本来の目的だったと推測されます。

 何時しか目的が失われて、戦って国を広げることだけが残ったと愚考します」


 トアス第一王子は、宰相を睨み付けるように見つめる。

 手に力が入り、資料はへしゃげている。

 宰相が続けて吐くように言葉を紡ぐ。


「500年前の魔物の氾濫は、その残っていた改良されたダンジョンコアの施設に何かがあった為に発生したと思われます」


 魔物の氾濫、各国がまとまり魔物に立ち向かったトサホウ王国が生まれる戦い。

 その戦いの原因が、各国の戦っていた本来の目的が原因の可能性がある。

 そして、その原因が王城の前庭に無造作に置かれている。


「ご苦労であった、この事は私から王に伝える、そして関係者に箝口令を敷く。

 決して情報の漏洩が無いようにしろ、必要なら監禁も許可する」


「はっ。 箝口令、承りました。

 関係者一同、すでに守秘義務の契約を済ませておりので、現状での漏洩はありません」


 禁書庫の閲覧だ、閲覧した関係者は常に監視している。

 王都から一歩でも出れば、反逆罪で殺す用意すらしている。

 箝口令がしかれても、大した違いは無い。


 宰相は、深く頭を下げて退室していった。


 トサホウ王国 第一王子トアスは、握りしめていた資料を見つめて熟考する






「多少は強引にでも、保管する必要があるか」

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