第132話 氾濫「コウの町防衛戦1」
北の村にある、黒い雫と上位種の討伐。
ギルドマスターのゴシュさんは、私と視察団にそれを依頼してきた。
「なんで、私なんですか?」
少し感情的になってしまう。
理由は推定できる、でも、コウの町に危険が迫っている時に離れるのは避けたい。
コウの町には、タナヤさんたちが、フミが居る。
「それは、今、コウの町に居るチームで一番強いのが視察団のチームだ。
だが、視察団とはいえ、黒い雫と上位種を同時に相手するのには無理がある。
そこで、マイ、おまえさんだ。
視察団との連携も取れるし、強力な魔術も使える。
コウの町の防衛戦力を出来るだけ削りたくない、ならこの組み合わせしかないと皆で決定した」
皆じゃない、私は決めていない。
心がざわつく。
「マイさん、勝手に決めてしまったことは謝罪します。
しかし、少数精鋭で北の村に向かえるのは、マイさんと視察団だけだと思っています。
そして、黒い雫にも上位種にも確実に対応出来ると」
コウさんが、頭を下げる。
いくら上下関係は黙認する場とはいえ、町長が支配階級に居る人が頭を下げるのは異例だ。
頭を手で掴み、自分を抑える。
ゴシュさんの言っていることも、コウさんが言っていることも判っている。
ただ、納得できないだけだ。
コウの町の人と認められていないように感じてしまう。
合理的に判断したはず、でも、心がざわつく。
冷静になれ。 ここで我が儘を言っても何も変わらない。
思考を戦場の状況に持っていけ。
はーー
大きく息を吐く。
感情が消えていくのが判る。 思考がクリアになっていく。
横に座ってるジェシカさんが息を呑んでいるのが判る。
いや、この部屋に居る人達が私が変化したことに気が付いている。
「了解しました、急いだ方が良いですね。
移動は西側から回り込みますか?」
自分でも、ゾッとするくらい冷徹な言葉が出てくる。
東側から北の村に向かうには山越えになる、現実的では無い。
西側の森を回り込むように移動すれば北の村に向かえるはず。
「あ、ああ、そうなるな」
ゴシュさんを見る、ゴシュさんが狼狽える。
なんで? そういう話になっていたのでは無いのか。
「上位種の特長は判っていますか、場合によっては武器も調達する必要があります」
「オーガ種だと思われます、斥候も魔物に詳しい訳ではないので、報告からの特長になりますが」
ジェシカさんが答える。
「ギムさん、槍が有った方が良いですね、小型の破城槌があれば理想ですが」
「うむ、そうだなマイ君が時空魔術師なのだから、大型の武器も用意しよう」
「ええ、今回は私が荷物を全て収納して、移動速度を重視ですね。
コシンさん、西と北の村の辺りの地図を、もっと具体的な場所を知りたいです。
攻撃するための位置も仮で決めましょう」
「はい、地図は用意してあります。 こちらを。
北の村は、西の門から出て、荷馬車なら半日程度の所、この辺りから北の村へ通ずる農道があります。
この道なら魔物達を回避して北の村へ向かえます。
馬なら、半日で北の村まで行けるはずです」
「夜の戦闘は避けたいですね、ギムさんどうしますか?」
北の村へのチームのリーダーはギムさんで良いだろう、どうするかの決定をして貰わないと。
「うむ。 武器の準備も含めると、危険だが今夜移動して、早朝に攻撃を仕掛けたい。
ゴシュ、斥候に道案内を依頼できるか? 戦闘中の馬の面倒も見て貰いたい」
「判った、監視の交代に案内させる」
「では、皆さんお願いします。
役所も冒険者ギルトも可能な限りバックアップしますので、北の村をそしてコウの町をお願いします」
コウさんと、ゴシュさん、コシンさん、そしてジェシカさんが、私とギムさんに頭を下げる。
本気で、コウの町と北の村を救いたいという気持ちが伝わってくる。
それを、私は何の感情も無く見ている。
少し、自分がこの状態でいることを不快に思った。
「うむ。 全力を尽くす」
「私も、万全を尽くします」
せめて、自分に出来る事をやりきって、北の村を取り戻そう。
■■■■
宿屋タナヤの私の部屋。
打合せの後、私は幾つかの買い物をして、帰ってきた。
けど、挨拶をせずに部屋に戻った。
今の私は、従軍中の状態だ、この姿はフミに見せたくない。
部屋に置いておいた装備を取り出して確認する。
収納空間に収納せずに部屋に置いておく物も増えたな。
今回の作戦、私達が失敗すると黒い雫から魔物が生まれなくなるまで続く。
そして上位種との戦いも。
おそらくコウの町の戦力では防衛戦で精一杯だ上位種が来たら損害は大きい。 失敗は出来ない。
私の時空魔術も出し惜しみは出来ないな。
コンコン
「マイ、帰ってたんだ。
もうすぐ夕食だよ。
……マイ?」
フミが入ってきた。 また、この姿を見せてしまう。
顔を伏せて見えないようにする。
「フミ、夕食は要りません。
これから緊急で出ます。 2~3日は掛かると思われます」
「マイ!」
フミが駆け寄ってくる。
私は思わずフミを抱きしめた、顔を見られたくない。
フミの首元に顔を沈める。
「フミ、北の村が壊滅しました。
魔物の群れが この町に向かってきています」
「マイが戦いに出るの?」
「いえ、北の村には黒い雫が現存して、今も魔物を生んでいます。
それを潰しに行きます。 潰さないと戦いは終わりません」
フミが私の頭を抱きしめる。
「なんで、マイがこんな危険な事をしないといけないの?」
「私にそれが出来る力が有りますから、今は人手が足りません。
戦える人は全員、戦います。 私だけじゃありません」
私だけじゃ無い、明日になれば、コウの町の全冒険者と守衛に動員が掛かるだろう。
「でも、マイは十分戦ったじゃん、もう良いでしょ?」
「私は嫌です」
「マイ?」
「フミ達が危険にさらされるのは我慢できません。
私は戦う
自分でも驚くほど冷たい目をしていると思う、でも今必要なのは冷徹な心だ。
フミを抱きしめる力を強くする。
「行ってきます」
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