第131話 氾濫「北の村」
カンカンカンカン!
役場の鐘楼からけたたましい鐘の音が鳴り響く。
これも日常の一部になりつつある。
鐘の音を確認する。
東、距離は近い、外壁付近かな、規模は小さい。
今、私は西の2番目の壁になる守衛の詰め所で待機している。
この場所からは東の様子は分からない。
壁の上に上がり、東の空の上、空の迷宮を見るけど遠すぎて目視では判らないなぁ。
遠隔視覚を発動させたいけど、何人かの冒険者も居るので、隠しておきたいので使えない。
詰め所に戻り、また待機する。
さっきまで、仮眠を取っていたり、雑談をしていた冒険者達もソワソワしている。
私は、気を落ち着かせながら、周囲の様子をうかがう。
「マイ、俺たちも応援に行った方が良いかな?」
冒険者の一人が話し掛けてきた。
まだ若い、といっても私より年上だけど、戦闘の教訓で指導していた関係で目上の人として扱われることは多い。
特別扱いは好きじゃ無いんだけどね。
「いえ、応援要請の鐘が鳴らない限り待機ですね。
気を張り詰めすぎても良くないですよ、森の中で休んでいるのをイメージして下さい。
周囲の空気を感じて、安全を確認しながら休む、今はそんな感じですね。
何時でも動けるようにしながら、気持ちと体を休ませる、場所が違うだけですね」
彼は、正職が狩人で一人で森に何日は入って狩りをする、腕の立つ人だ。
冒険者としては、日が浅いけど、飲み込みも早く実践の戦力として期待されている。
「ああ、そうする。
しかし、よく落ち着いていられるな、俺は慣れそうにないよ」
「直ぐに慣れますよ、あ、終わったようです」
役場の鐘楼からの、終了の合図の鐘の音が鳴る。
詰め所の中の雰囲気が緩むのが判る。
私も表情に出さないけど、ホットする。
翌日、連絡が回ってきた。
黒い雫が1粒、中くらいのが落ちた、中位種と思われる魔物が出たが、問題な行く対応出来たようで軽傷者が出ただけだそうだ。
良かった。
コウの町の冒険者と守衛が町を守っている。
今日も、西の2番目の壁の詰め所で待機している。
無事に魔物の討伐が出来たことから、明るい雰囲気が包まれている。
と、詰め所に役所の職員さんが入ってくる。
「マイさんはいらっしゃいますか?」
待機していた冒険者と守衛が、一斉に職員さんを見る。
「あ、はい、私がマイです」
私が立ち上がる。
詰め所の中で比較的入口に近い場所に座っていた私は、職員さんに答える。
「すいません、役場まで来て頂けないでしょうか?
交代に準待機の魔法使いの方々が間もなく来ます」
「判りました」
私は、周りの人の視線に対して、判らないという態度を取る。
けど、なんで呼ばれたかは聞かない。
職員さんが理由を言わないと言うことは、ここでは言えない事なのかもしれない。
詰め所の外に出ると、小型の馬車が用意されていた。
それに乗り込む。
乗り込んだのを確認した御者が直ぐに馬車を動かす。
「理由はここでは話せないことですか?」
「私も知らされていません、なのでお答えできないです」
「判りました。 急いだ方が良さそうですね」
役場に着く。
案内されたのは、町長の館の中にある、打合せ部屋だ。
ここに入るのは久しぶりかな。
町長のコウさん。
ギルドマスターのゴシュさん。
役場担当のコシンさん。
ギルド担当のジェシカさん。
そして、視察団団長のギムさん。
総メンバーだ。
「何があったんですか?」
私は入って直ぐに聞く。
この部屋なの中では、上下関係は問わない事になっている。
ぶしつけな質問も、ここでは問題ない。
「うむ。 北の村が壊滅した」
ギムさんが、一言。
私は、座ることも出来ずに立ち尽くす。
汗が、頬を伝って顎から落ちた。
コウの町は、元々、要塞都市の後を再利用した町。
その要塞を守るように東西南北に砦があった。
北の村は、その砦跡を利用して作られた村で、コウの町ほどではないけど、防壁もあり守りは十分なはずだ。
だから、周囲の更に小さい村々を吸収して維持できている。
私が改良されたダンジョンコア、当時は謎の塊を収納しに行った時にも見たけど、そうそう壊滅するとは考えにくい。
ジェシカさんに促されて、椅子に座る。
動揺してしまっている。 心臓の音がうるさい。
「マイ君。 取り敢えず説明する。
5日前、北の村の貯水池付近に黒い雫が発生した。
中規模が3粒と大規模と思われるのが1粒。
北の村の戦力では全ての撃退が出来なかった。
村長はコウの町への避難を決定し、村人を移動させながら、撤退戦を行っている状況だ」
私が了解したと頷く。
考える、検証しよう。
貯水池付近、まさに改良されたダンジョンコアが発見された場所だ。 関連が有ると思って良い。
大規模な黒い雫、私も未経験だし、おそらく無傷で上位種が出現してしまっている。
ん?
上位種が出現した後、黒い雫はどうなるのだろう。
今までは、上位種が発生した後、黒い雫は消えてしまった。 確認する。
次だ、避難民は多分直ぐにでもコウの町に来るかな?
受け入れは兎も角として、おそらく魔物も追ってくる。
防衛戦になる。
コウの町の北側は遊水地や川が多くて大人数で迎え撃つには、その更に先の平原まで行かないといけない。
コウの町から離れすぎる。
かといって、コウの町の外壁まで魔物を引き寄せるのは良くない。 これも確認。
「北の村の生き残りの人達が避難してくるのですよね?
護衛と受け入れですか。
魔物も追ってくる可能性が高いので、どう戦うかはも必要になります。
なにより,今、黒い雫がどうなっているのか、が一番気になります」
私が、思いついたことを、並べてみる。
「町への受け入れ準備は進めています、何とかなるかと思います。
軽傷者や家財を持って逃げている人が多いので、その対応が難しいですね。
護衛については、守衛が担当します。
予程では明日の昼には町に、最初の人達が到着する予程です」
これは、コウさん。
となると、この状況は明日の昼以降には、町の人達にも広まるのかな。
「追撃してくるのは今の所は低位種のみのようだ、北の平野部で冒険者に防衛のための簡易陣地を冒険者に作らせる、土属性の魔法を使える魔法使いを全動員だな。
取り敢えずは、簡易陣地で止める戦いになる。
黒い雫が現在どうなっているのかは、斥候で何名かで監視中だ」
ゴシュさんが、冒険者ギルトの対応を説明してくれた。
うん、みなさん優秀です。
すでに手を打っている。
あれ、なんで私が呼ばれたのだろう?
ちがう、ゴシュさんは、監視中と言った。
「黒い雫が、上位種を出した後も存在しているんですか?」
「ああ、なんでも空の迷宮と紐のようなもので繋がっていているそうだ。
低位種だが魔物を生み出している。 中上位種が出る可能性はもちろん有る。
紐の切断を試みたが、上位種が居座っていて近寄れず失敗した」
ゴシュさんが言う。
そして。
「マイ、君に視察団と共同で、今も存在している黒い雫とその周囲に居る上位種の討伐を依頼したい」
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