第130話 氾濫「新たな日常」
コウの町に黒い雫が落ちてから、10日が経過した。
この間、コウの町では1度だけ黒い雫が落ちた。
幸い、小さいのが1粒だったので、出てきたのは低位種のゴブリンだけだった。
待機していた冒険者と守衛のみで対応出来た。
他の領でも同じらしい、この辺は領軍の直轄部隊になる視察団のギムさんチームから情報が入るのでありがたい。
町の冒険者と守衛の技術が上がっていた。
町中で魔物が発生したことによる危機感も、効いたんだろうなぁ。
一番大きいのは、コウの町に住んでいる魔術師の兄妹の2人の威力向上したこと、凄い。
光属性の兄と、影属性の妹の魔術が実戦に通用するほどになった。 魔術師は伊達じゃ無かったよ。
これで、視察団のチームのシーテさん、私、そして魔術師の兄妹が、黒い雫に対して強いダメージを与えられる魔術師が4人となった。
他に、魔物に特効のある聖魔法の使い手のハリスさん。
そして、他の魔法使いも複数人で対応することで何とか出来る程にはなった。
戦闘面においても、視察団のチームと冒険者チーム2つが共同して訓練した冒険者と守衛がその成果を出し始めている。
実戦経験こそ少ないけど、一応の防衛体制は維持できるようになった。
おかげで、コウの町も歪ながら何とか平穏を築いている。
私、マイは完全復活している。
まぁ、10日も経っているし、疲れていただけだけどね。
そして、普段から冒険者としての服装をするようになっている。
装備も、魔物に対応した装備を考えて変更している、温かくなったので服装もやや軽装になった。
機能重視で兵士の服を元に仕立てたら、フミやタナヤさんからは不評だったなぁ。
で、冒険者の服装も少し女性っぽく意匠を加えられている。
うん、本当は性別が分かり難くしたいと思わせたいのだけどなぁ。
「フミ、本当にこんな服装で良いのかな?」
フリルは全力で遠慮したけど、女の子である事が判る程度の服装になっている。
……ちょっと可愛い。
「うんマイ、良いよ。 オシャレだね」
「えっと、装備にオシャレは必要ないんだけど」
「必要だよ、マイ」
「うーん、機能性はあるのでいいのかなぁ?」
フミのリクエストで、クルッと回ってみる。
ヒラヒラした所は無いな、動きを阻害しそうな所も無い。
ちょっと腰回りが窮屈なのは、太めのベルトのせいだと思う。
太ってないよね?
髪の毛も、ナイフで適当にて切っていたショートカットから、少し長めに調えられた、女子度が少し上がった気がする。
とはいえ、長い髪は手入れが手間なので、これ以上は伸ばす気は無い。
「じゃ、今日は中央の待機なので、そろそろ行きますね」
「うん、今日も何も無ければ良いね」
「ええ、そうだね」
フミと分かれると、タナヤさんとオリウさんに挨拶をして、冒険者ギルドに向かった。
■■■■
「おや、マイちゃんおはよう」
「おはようございます」
すっかり町の人に顔を覚えられた。
行きがけに挨拶する人は多い。 私も笑顔で挨拶する。
町中での依頼や、魔物の討伐も大きいけど、宿屋タナヤの店員としても知られていることも大きい。
そして、町を守る要となっている、数少ない魔術師というのもあるのかな?
「これを持っていきな。 美味しいよ。
それと、似合っているね」
「え、あ、ありがとうございます」
露店で果物を売っているお婆さんに、果実を貰う。
このお婆さんも、宿屋タナヤの買い付けで色々買っている人だ。
まだ着慣れていない新しい服だけど、褒められると嬉しい。
他にも、精肉店のおじさん、古着を買いに行く服屋さん、雑貨屋さん。
みんな、顔見知りになった。
コウの町の西側から北側にある、付き合いのある人達はみんな癖があるけど、親しくなった。
知り合いが増えることは、良いことだ。
町中での安全性が格段に上がる。 それに、困ったことがあると助けて貰える。
勿論、私もやり過ぎない範囲で手伝ったりしている。
最初は損得勘定をしていたけど、今はもう気にしていない。
そんなやり取りをしていると、居心地が良くなる。
この気持ちが良い場所を守っている。
ちがうな、私はコウの町の人達に受け入れられて助けられている、これを失いたくないんだ。
冒険者ギルトに着いた。
中に居る人達も、ほとんどが顔を知っている。
村から来ている人達も時々は町の依頼を受けているので全く知らないことはない。
知り合いという程、親しくは無いけど、何となく余所者とそうじゃ無い人の区別が付く。
始めて来た時は、タナヤさんに連れられて宿屋タナヤの店員としての指名依頼を受けた時だったかな。
懐かしい。 この時にコウの町の住人としての登録もしたし、冒険者としての登録もした。
その時は、私は正に余所者だったから、値踏みした目で見られていたのかなぁ。
ほとんど覚えていないけど。
「おじさん、おはよう」
「おう、嬢ちゃん、今日はこっちかい」
「うん、何かあった?」
「いや、特に何も無かったな。
仮眠も取れるし、大変なのは空を監視している連中だな」
クルキさんのチームが、打合せ場所でまったり休んでいる。
夜に黒い雫が発生したという情報は無いけど、それでも警戒のため、中央の冒険者ギルトで、1チーム待機している。
発生したら、馬車で急行する手はずになっている。 夜だから出来る事だね。
あとは、守衛が各詰め所に居るので、最初の低位種への対応は彼らに期待している。
私は、奥の打合せ部屋に行く。
部屋には冒険者ギルトの職員のジェシカさんが居た。
何か事務仕事をしているみたい。
「あ、おはようございます、マイさん」
「おはようございます、ジェシカさん」
「今日は、冒険者ギルトで待機ですね。
何か気になることはありますか?」
「うーん、新しい情報も無いですし、やはりこの状況が何時まで続くのか、不安に思っている人が多いですね。
私に話し掛けて、何となく様子をうかがってる感じがします」
うん。
以前に比べて話し掛けられる事が多くなった。
それは、受け入れられたから、とも思うけど、それ以外に不安から何か知りたいというのも有るのだろうな。
「正直、判らないので何とも。
町長からは、町の守りが出来ていることを発表しているので、落ち着いているとは思うのですが。
それに、視察団の方々やクルキさんのチームなどに、安心できるように町中では気楽に振る舞って貰っているのも大きいかと」
うん、私が挨拶されるとき、笑顔で挨拶を返しているのも、半分は町の人達を安心させるためだったりするのだけど、残り半分は、挨拶してくれるのが嬉しいから笑っているんだ。
「今の状況で、慣れるて貰うしかないのでしょうか?」
「変化がない限り、そうなるでしょうね」
変化、それが怖い。
空の迷宮が無くなって元通りになってくれれば良いけど、そうなるとは思えない。
私も漠然とした不安が胸を締め付けていることを感じている。
別の日常が緩やかに始まっていた。
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