第128話 氾濫「少しの秘密」

「それでね、マイちゃん。 あの魔術は何?

 ゴブリンを倒したの風の魔術じゃないよね」


 あー、やっぱり聞いてくるよね。

 想定していた通りの対応でいこう。


「シーテさん、時空魔術で収納する時の方法って知ってます?」


「え、そういえば知らないかな? マイちゃんだと触って収納してるよね」


「はい、でも触る必要は必ず必要とは限らないんです。

 手で触れた方がイメージしやすいだけですね。

 限度はありますけど、近い距離なら触らなくても収納出来ます」


 私は、部屋の隅にあったショートソードを指さして、収納してみせる。

 そして、また離れた所に取り出す。


「ん、それは判ったけど、それと何が……あ、取り出し!」


「はい、武器を取り出すのを攻撃に使ったんです。

 ゴブリンの首程度なら何とかなる程度の威力ですが、私は時空魔術師です、取り出し位置と方向を精密に制御するのは得意なんですよ」


 シーテさんが、驚いている。

 時空魔術で攻撃が収納爆発以外にも有るなんて思わないよね普通。


「でも、なんで秘密にしているの?

 凄い武器だと思うんだけど」


「まず、離れた所の物を収納できるというのは、印象が良くないです。

 犯罪行為が出来ますし、疑われやすいです。

 そして、取り出すだけなので、威力が低いです、浅く切り裂くか突き刺すのが精一杯ですね。

 不意打ちが理想な使い方です。

 なので、隠していました、すいません」


 うん、こんな所かな?


「あれ? マイちゃんそれなら収納爆発を離れても使えない?」


「あ、気が付きましたか、試しましたが爆発の威力が相手に行かないで広がってしまうんです。

 色々工夫はしていますが、今は駄目ですね」


 遠隔の取り出し位置は固定されるが、強固に固定はされない。

 私自身では動かす事は出来ないけど、外から押されれば簡単に動いてしまうので、収納爆発を柄かかた反動で移動してしまい使えなかった。


 ジーー


 シーテさんが私を見ている。

 何だろう、居心地が悪い。


「マイちゃん。 他にも色々隠してない?」


 ぎっくう


 いや、今までの事を考えると、そう考えるかな?

 収納爆発の件も今回の遠隔攻撃も後出しで話したし。


「の、ノーコメントで」


 ここは、無いとは言えない。 シーテさんは、ほとんど確信を持って私に聞いている。

 なので、話せません。 としか対応出来ない。

 追求されるかな? おずおずとシーテさんを見る。

 呆れるような顔をしているけど、特に怒っていないようだ。


「うん、まぁ、仕方が無いか。

 でも、使う時は躊躇しないでね、特に自分の身を守る時には。

 マイちゃん、自分の事を後回しにすること多いから、心配なのよ」


「はい、ありがとうございます。

 なかなか難しいですね、兵役中に身に付いた物なので」


「うーん、私は冒険者出だから判らないけど,王国軍の兵士ってそうなの?」


「そう言われると、難しいですね。

 私は、徴用兵ですから、5年間かけて最前線で教えて貰いました、なので正規の兵士とは違うと思います。

 上官や同僚、護衛の兵士、色々な仲間からです」


 シーテさんが、何とも微妙な表情をする。

 何だろう?


「シーテさん?」


「えっと、その、輸送部隊の同僚と護衛の兵士は判るんだけど、上官からも?」


 ん? 話を変えたの、まあ、いいけど。


「ええ、時空魔術師は重要な物を運ぶことも多くて士官と一緒に居ることも多いです。

 あと、これは内密で、輸送部隊の部隊長から目をかけて貰っていたようで、指揮官としての指導も受けていました」


「それって凄いんじゃない!

 指揮官教育って、輸送部隊は実戦だけじゃなくて輜重しちょう部隊の運用もね。

 あれ、そうなると、輸送目的になる作戦についても?」


「あははは、そのへんも内密に」


 そこまで思い浮かぶのか、凄いなぁ。


「なんか、マイちゃんが何で作戦立案や指揮運用まで出来るのか不思議だったけど納得ね。

 ふーん、それがマイちゃんの秘密かぁ」


 ウンウンと納得したのか頷いている、シーテさん。

 まぁ、この辺はバレても構わない、王国軍に戻れる可能性は無いし、冒険者としても余り意味の無い能力だ、今の状況で丁度必要だっただけかな。


「でも、マイちゃんが最初から関わってくれたおかげで、コウの町が助かったのね」


「それは言い過ぎですよ。

 軍隊は、結局は組織としての強さなので、私一人がどうこうしても、大したこと出来ませんよ。

 それに、コウの町の人達が居なかった何も出来ませんでした」


 シーテさんが、私の頭をクシャクシャと撫でる。

 うん? 何だろう。

 訳も判らず、何か気持ちよくて身を任せる。


「私はそうは思わないわ。

 もうちょっとは、自分を褒めてあげても良いんじゃないかな?」


 そうだろうか、そうだと良いな。

 だけど、コウの町の人達に助けられてきたのも本当だ、私は切っ掛けぐらいにはなれたかもしれない。



 シーテさんが少し考え込んでから、顔を近づけてきて小声で言った。


「私からも、秘密ね。

 王都にある、改良されたダンジョンコアだけど、空の迷宮の原因とうちの領主は断定したみたい。

 今、王都で光り輝いているそうよ。

 それで、この領が原因の責任を負わされないように、周辺の領主と停止と廃棄を願い出るようね」


 うーん、そうなっているのか。

 そうなると、ん?


 ちょっとまって、領主とはいえ、国王に対して公式に申し入れをするの?

 しかも、複数の領主と連名で。


 嫌な汗が流れる。






「もしかして、各領と王国が対立しはじめてる?」

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