第127話 氾濫「休息日」

 コウの町の西で発生した、黒い雫による被害は、リザード種に噛み付かれた冒険者が1名死亡した。

 他に、重軽傷者が十数名。



 ギムさんによると、対策と対応が上手くいったとのこと。

 死者が出てしまったのは残念だけど、それでも被害は少なかったと慰めてくれた。


 コウの町で、魔獣・魔物による死傷者は出ているけど、やっばり自分の参加した戦いで死人が出るのは堪える。


 今回の対応で、一応の成果が出た事で監視体制については現状維持になった。

 だけど、戦力不足に関しては、今訓練している冒険者と守衛の成長に期待するしかないという、心許ない状況なのが心配。


 関係者、町長や冒険者ギルトの方でも色々考えているようだけど、難しいみたい。

 領軍に応援を頼もうにも、領地全体が同じ状況なので、さほど重要で無いコウの町に応援は期待出来ない。


 現状、上位種の魔物や強力な魔獣と戦える最大戦力は、ギムさん率いる視察団のチーム。

 ただ、上位指揮権は領主にあるので、いつ指示が来て移動してしまうのか判らない。


 クルキさんのチームともう一つのチームが、コウの町の冒険者チームの中で戦力として期待出来る。

 私は、もう一つのチームと直接話した事は無い。

 どうも、クルキさんのチームとは、あまり仲が良くないらしくて距離を取っているそうだ。

 5人組のチームで、ギムさんのチームのように役割分担が明確なチームとのこと、遠目に見た感じもそうだった。


 そして、個人の戦力。狩人をしている人を含めて元兵士で別の職に就いている人が十名ちょっと。

 と、私。

 コウの町を守る戦力としては、圧倒的に足りていない。


 今回、最初に戦いに参加した人達には、翌日の完全休養が指示された。

 全員が立つ事も出来ないほど疲弊したのだから仕方が無い。



「はい、あーん」


 などと、そんな事を現実逃避気味に考えているのは、目の前に差し出されたスプーンにある。

 そのスプーンの上には、タナヤさん特製のシチューのお肉が乗っている。


 うん、現実を見よう。


 戦いの後、疲労と怪我で動けなくなった私達は、冒険者と守衛が乗ってきた荷馬車に乗せられてコウの町へ帰還した。

 私は、別に怪我をしていた訳じゃないので、そのまま解散し、私は宿屋タナヤに帰った。

 で、フミが盛大に心配して、体を確認ついでに洗われて、そのまま部屋のベッドに放り込まれた。

 そして、トイレ以外ではベッドから出る事を許されず、今も夕食をフミの手から食べている状況だったりする。


 ハムッ


 諦めて、スプーンを口に入れる。

 美味しい、んだけど、私をかいがいしく看病? しているフミが妙に機嫌が良いのは何なんだろう?

 ウキウキしているのが不可解で、ちょっと怖いよ。


「あの、フミ。

 疲れているだけで、別に怪我もしてないし、自分で食べられ「マイ……」はい。

 パンをシチューに浸して下さい」


 フミの圧力に負けました、駄目です、勝てません。

 涙目で見つめられたら何も反論出来ません。

 結局、いつもより多い夕食を食べた後は、睡魔にも負けて、熟睡してしまいました。



■■■■



 翌日。

 私は休養のため、朝起きてもベッドから出ていない、というか、フミが出してくれなかった。

 朝食も、フミの手から食べた。

 顔を拭くのまでやるのは、やり過ぎだと思うよ。


 酷使した体は疲労が残っているけど、それだけかな?

 驚いた事に、魔力はかなり余裕があった、収納爆発は収納空間の調整だけで発生するので、魔力の使用量が少ないのも大きい。


 見慣れた天井を何となく眺める。

 今後の対応を決めないと。

 遠隔攻撃をシーテさんに見せてしまった。

 風属性の魔法とは言い訳出来ないだろうな、シーテさんを誤魔化せるとは思えない。


 遠隔収納・取り出しは明かす必要があるか。

 収納空間に私自身が入れる事は隠さないといけない。 それに関連する時空魔術の時空転移と遠隔視覚も隠す必要がある。


 チクリ


 やはり隠し事をするのは罪悪感がある。 胸が痛い。

 でも、こればかりは、私が魔導師になるための切り札でもある、今はまだ秘密にしておきたい。


 気が抜けたのか、朝食でお腹が膨れたのか、温かい陽気のためなのか、まぶたが重くなってきた。

 休養だし、寝ても良いよね。



「ふへっ」


 変な声が出た。

 寝てたようだ、よだれが出てるよ、恥ずかしいなぁ。


 あ。 体が固まる。

 シーテさんが私の枕元に座っている。


「クスクス、おはよう、かな?」


 シーテさんが、口に手を当てて笑いながら、微笑みかけてくる。

 うん、こうして見ると大人な美人さんだなぁ。

 服装も、大人な女性が似合うような私服を着ている。


 室内着のままの私は、うん、どうしよう。


「えっと、取り敢えず着替えたいです」


「フミちゃんから、ベッドから出さないように厳命されているの、諦めて」


「フミ~」


 私は、ガックリとして体を起こすと、肩掛けの布を羽織る。



「マイちゃん、取り敢えず昨日の件。 ギムからの現状報告ね。

 上位種のリザード種、以前のリザード種よりも強い個体だったそう。 これが5匹。

 ゴブリンと別種の低位種が82匹。

 黒い雫は、全部で5粒。 同時に複数落ちたのは、前例が1件あったそう。 連絡漏れね。

 大きな粒で、危険な上位種が出てこなかったのは、良かったかもしれないって。

 死者は2人、重傷だった1人が駄目だった。 重軽傷者は多数。

 この規模なら十分に少ない被害よ」


 死者が増えてしまった。 うん、判っている。

 危険な戦いだったんだ、被害が無しで終わるとは限らない。


「ゴブリンと別種の低位種ですか?」


「ええ、コボルドと呼称している、頭の口が大きな魔物よ、飛びかかる動きが速いのと噛み付く力が強いのが特長で、その対応に時間が取られて1つめの黒い雫に攻撃するのに時間が掛かってしまったの」


 それでか、シーテさんの攻撃魔術なら、私の収納爆発よりも強力で上位種のリザード種でも苦戦する可能性は低いと思っていた。

 コボルド? の対応に時間が掛かったから、2つめの黒い雫で、無傷のリザード種を出現させてしまったのか。


「マイちゃんが居たおかげよ。

 黒い雫への攻撃で上位種への先制攻撃が有効なのが証明出来たし、私とマイちゃんでリザード種に大きなダメージを与えられなかったら、もっと酷い事になってたよ」


 シーテさんが慰めてくれるが、気分は良くない。

 なにより、私とシーテさんが居なかった場合。 例えば今、黒い雫が発生したら?

 黒い雫への対策が、少なくても私とシーテさん以外でも出来るようにしないといけない。

 強力な魔法攻撃は無理だけど、数で補えるはずだ。


 私が考え込んでしまったのを、シーテさんが勘違いしたのかな?

 私の頭を抱え込んで来た。


「大切な事を言うの忘れてたわ。

 助けてくれてありがとう」


「いえ、怪我が無くて良かったです」


 うん、私はわたしの出来る範囲でやるしかない。






「それでね、マイちゃん。 あの魔術は何?」


 シーテさんが、聞いてきた

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