第126話 氾濫「遠隔攻撃」
「きゃぁぁ!」
「わぁぁぁ」
「もう駄目だぁ」
シーテさんの叫び声と、冒険者と守衛の悲鳴が上がる。
私は、思わず見る。
完全な状態で出た上位種のリザード種が冒険者と守衛を跳ね飛ばし、一人が胴体を喰われて振り回されている。
シーテさんもゴブリンがまとわりついて動けなくなっている。
何してるんだ?
シーテさんをゴブリンから守らないといけない冒険者と守衛がバラバラになってしまっている。
クルキさんを見る、傷ついたリザード種が倒れ、その首に攻撃を始めた所だ、まだ時間が掛かる。
だけど私だけなら離れる事が出来る。
「シグルさん、ここを任せます」
「マイ!? 無茶だ!」
シグルさんが止めるが、そんな余裕は無い。
もう足は走れるほどの力が無い。
風の魔術を行使して、自分の体をシーテさんの方向に吹き飛ばす。
空中からシーテさんにまとわりつくゴブリンを見る、やるしかない。
私は、遠隔収納の取り出しを利用した、遠隔攻撃を行使する。
ゴブリンの首を連続して遠隔攻撃で切り落としていく。
風の魔術でも似た事が出来るけど、精度が甘いので使えない。
遠隔攻撃なら、ミリ単位で制御出来る。
風の魔術を使って着地の衝撃を和らげながら転がる。
転がった所で、首が落ちたゴブリンを振り払っているシーテさんの無事を確認する。
「シーテさん!」
「マイちゃん!? 一体どうやって?」
「今は、リザード種の対応です、ゴブリンは私が近づけなくするので、魔法で攻撃して下さい」
シーテさんは、突然、まとわりついていたゴブリンの首が切れて落ちる事に混乱していたが、直ぐに持ち直した。
冒険者と守衛は戦意を無くして、ゴブリンからも逃げ回っている。
そして、私の周りに20匹以上のゴブリンと、何だ頭でっかちの犬なのか後ろ足が変な方向に曲がっていて大きい変なのが居る、動きに注意しないと。
リザード種は、逃げ惑う冒険者と守衛を見て、そしてこちらを見る。
ガァァァァァ!
こちらに向かってきた、私達が動かないからか? 歩く速度は遅いが重い。
シーテさんが複合魔術の行使を始めた。
私は、近づくゴブリン複数に風の魔術で攻撃し、雑に切り落としていく。
複数相手なら風の魔術の方が使い勝手が良い。
変な頭でっかちの魔物は、跳ねるように飛びかかってきた。
が、堅さはゴブリンと変わらないらしく、風の魔術でもサクサクと切れていく。
討ち漏らした個体は確実に制御出来る遠隔攻撃で首を落としていく。
何とか立ち上がる。
もう、足が言う事を聞かない、ぷるぷる震えている。
シーテさんに、遠隔でゴブリンの首を落としているのを見られているが、気にしている余裕は無い。
風の魔術と誤魔化せるかもしれない。
後回し、いまはゴブリンに集中しないと。
シーテさんの複合魔術が行使され、リザード種が炎に包まれる。
ドオオオオ!
凄まじい威力だ。
青白い高温と赤白い液体のように熱せられた液状化した土がまとわりついてダメージが入っていく。
熱せられた土と炎で目が見えないのだろう、無茶苦茶に体を振り回して周囲のゴブリンごと吹き飛ばしている。
これ以上近づくようなら、収納爆発か。
遠隔攻撃は止めている。
魔力はまだ大丈夫。
「シーテさん、魔力は?」
「かなり厳しいわ。 マイちゃんは?」
「私はまだ大丈夫です。 でも体の方が限界ですね」
シーテさんも肩で息をしている。
「嬢ちゃん、シーテさん、大丈夫か?」
クルキさんのチームが、ゴブリンを処理しながら私達を守るように囲ってくる。
でも、満身創痍だ。
大きな怪我はしていないようだけど、兎に角数が多い。
「お前ら! ゴブリンにビビってるんじゃねぇ、さっさと倒せ!」
クルキさんが、冒険者と守衛に活を入れる。
でも、彼らも動きは緩慢だ。
何が出来る?
考えろ、手はあるはずだ。
「クルキさん、収納爆発を使います、私が接近できるように切っ掛けを作れますか?」
「無茶だ、マイも立つのがやっとじゃないか。
シーテさんの魔法は?」
「シーテさんは魔力が限界です。
無茶でも、今効果があるのはそれしか無いです。
風の魔術で、私をぶつけて収納爆発を行使します」
正直、歩くのも難しい。
風の魔術の後に直ぐに収納爆発を使えるのか? 賭けだ。
今できるのはこれしかないか。
クルキさん達も息を呑む。
まだ暴れている魔物のところに、生身で飛び込むのだから当然だ。
「やります」
私が風の魔術を行使しようとする。
シーテさんが、私の肩に手を掛ける。
「マイちゃん」
私は頷く。
魔力を練り上げて、風の魔術の行使を準備する。
多少の怪我は覚悟するしかない。
「マイ!」
シーテさんが私の肩を強く握って止める。
なに?
「うぉぉりゃぁぁ!」
ギムさんの声だ!
ドスン!
太い槍がリザード種の体を貫く。
リザード種が
見ると、複数人の冒険者と守衛を乗せた荷馬車が数台走ってきている。
そこから、何人かが飛び降りて、こちらに駆けてくる。
「皆さん、回復魔法を使います」
ハリスさんが息を切らせながら、来て回復魔法を行使しようとしてくれる。
「ハリスさん、怪我は無いので、浄化魔法を魔物に」
ハリスさんは、少し考えると、頷いてギムさんの方へ向かって行った。
他の冒険者も合流すると一気にゴブリンを刈っていく。
そして、ギムさんを含む強力な冒険者がリザード種を囲んで切りつけていく。
コウの町からの応援が到着した事で形勢は一気に変わった。
助かった。
力が抜けてへたり込む。
シーテさんも、一緒に座り込んで私に抱きついてくる。
程なくして、最後のリザード種が倒れ、低位種の魔物の討伐も完了した事が告げられた。
私にもたれ掛かったいるシーテさんが私の耳元で呟いた。
「マイちゃん、後で色々聞かせて」
あー、誤魔化せないかなぁ。
この後の事を考えて、ため息をついた。
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