第125話 氾濫「防衛戦」
黒い雫が5粒、空の迷宮からゆっくり落ちてくる。
発生する魔物を想定する。
ゴブリン級の低位種がおそらく1粒で10~30匹程度、そして上位種が1匹かな?
5粒なら、その5倍。
かなり厳しい、クルキさんのチームは3人だ、それに数人の冒険者と守衛、数が足りない。
幾つか考えがある、試してみるしかないかな。
私とシーテさんが到着した時には、最初の黒い雫が地面に落ちて、地上1メートル位に黒い球体で浮かんでいる、そこからゴブリンがボトボトと落ちてくる。
すでに戦闘が始まっている。
黒い雫は風に流されているのか、散らばって落ちてくる、戦力を分散しないといけない。
「おじさん、応援に来たよ!
黒い雫は全部で5!」
「嬢ちゃんか、助かる! って、5つもあるのかよ!」
クルキさんは危なげなくゴブリンの首を切り落としていく。
そして、空を見て顔を曇らせる。
「シーテさん、黒い雫に攻撃は効果があったんですよね?」
「ええ、理由は判らないけど、中の魔物に攻撃は通っていたわ、何か考えているの?」
「収納爆発を黒い雫に打ち込みます、何処まで効果があるのか判りませんが、上手くいけば上位種が出てくる前にダメージを与えられます」
そうだ、以前も空中に黒い何かが滲み出た時も、攻撃した矢が魔物に当たっていた。
視察団からの情報でも効果があった事は聞いている。
「おじさん! 黒い雫に魔法を打ち込むから、場所を何とかして!」
「おう、デカいのが出てきたら無理せず下がれよ」
「うん、判ってる」
クルキさんとその息子のオルキさん、そしてシグルさんが剣の速度を上げて、一気にゴブリンを刈り取る。
「いまだ、嬢ちゃん!」
「はい」
念のため、魔法を行使する方向に誰も居ないのを確認して、黒い雫の側に接近する。
そして、未だに完成していない収納爆発を行使する、今回は40キロの石を使用した物だ。
ドゴン!
鈍い爆発音がするが、黒い雫には何も変化が無い、衝撃は全て吸い込まれたようだ。
で、私は吹っ飛ばされる。
受け身を取ろうとしたら、クルキさんが ひょいと受け止めてくれた。
「凄い爆発音だったが、効果は無かったみたいだな?」
「魔物の方に効果があれば良いのですけど、あと、降ろして下さい」
収納爆発は、今の所の私の切り札で、かつ周知されているので、気兼ねなく練度を上げる事が出来た。
まだ反動を消す事は出来ないけど、体へのダメージは殆ど無くなっている。
「デカいのが出てきたぞ!」
シグルさんが槍を構える、オルキさんも剣を構えている。
クルキさんが、私を降ろす。
「嬢ちゃん、下がってな」
上位種の耐久力の高さは、オルキさんもよく知っている。
が、予想外のいや、良い方向に裏切られた。
出てきたのは、リザード種だが2足歩行する大型のものだ、だが、全身がボコボコになって手足も折れていた。
ダメージが通っていたのだ。
ズシンと、崩れるように地面に落ちて倒れる。
「一気に首を落とすぞ!
でかした嬢ちゃん!」
「マイちゃん、やったね」
クルキさんとオルキさんが、まともに動けないリザード種の首を切りつける、オルキさんは斧を持ってきたのか、持ち替えて叩き付けている。
何度かたたき切っていると動きが止まり、そして首が落ちた。
周囲のゴブリンも他の冒険者4人とと守衛5人が倒して、上位種を見ている。
リザード種を吐き出した黒い雫は、粉々になって消えていった。
「やったぞ、倒したぞ!」
「凄いな」
「勝てるぞ!」
冒険者や守衛が色めき立つ。
いや、見ている暇無いよ。
「他の黒い雫は!?
注意して!」
私が周囲を見渡す、残り4粒がほとんど同時に落ちて、ゴブリンが大量に生まれ落ちてきていた。
数は数十匹、応援はまだか?
「おじさん! 他の人を先導してゴブリンを倒して、私とシーテさんが黒い雫に攻撃していきます」
不味い、ゴブリンは強くは無いが数で圧倒してくる。
動きも遅いし、体も脆い、でも引きずる力は強い、体にまとわりつかれると動けなくなる。
「マイちゃん、私は単独でゴブリンと黒い雫をやるわ。
マイちゃんは、クルキさん達と行動して」
「シーテさん! 冒険者と守衛を連れて行って下さい。
2組で対応しましょう!」
「……判ったわ、無理しないでね」
少なくても上位種が出る前に、残り4つの黒い雫に攻撃を与えないといけない、間に合うのか。
私とクルキさんのチーム、それとシーテさんと冒険者と守衛、2つに分かれて黒い雫に向かって行った。
ゴブリンは後回しには出来る、でも、上位種は完全な状態で出てくると対処が難しくなる。
「嬢ちゃん、道を作るから黒い雫に向かってくれ、俺たちに構うな、上位種を無傷で出させるな」
「判ってる、けど、無理はしないでよ」
「応援が来るまでは、少し無茶させて貰うよ」
まったく、孫も居るのにいちいち格好付けるなぁ。
わざとらしいのは、わざとかな?
クルキさんとオルキさんが私の前でゴブリンを切り払っていく、私の後ろでシグルさんが残っているゴブリンで向かってくるのに槍で処理していく。
2つめの黒い雫にたどり着く。
全員、息が上がっている。
私が2度目の収納爆発を行使する。
ドゴン!
収納爆発の音がして衝撃は黒い雫に吸い込まれる。
吹き飛ばされた私は今度は自力で着地する。
少しして、上位種、同じリザード種の2足歩行するタイプだ。
同様にボロボロになって黒い雫から崩れ落ちるように出てくる。
すかさず、クルキさんとオルキさんが首を落とすために切りつける。
私とシグルさんが周囲を警戒して、寄ってくるゴブリンを切り落としている。
討ち漏らしているゴブリンの数が多い。
遠目で、シーテさんの方を見る。
シーテさんの強力な複合魔術が行使されるのが見える。
向こうも順調かな。
心配だけど、いまやる事に集中しないと。
上位種リザード種の首が落ちた。2匹目だ。
討ち漏らしているゴブリンが気になるけど、3つめの黒い雫に向かう。
クルキさんのチームも全員疲労が溜まっている。
私も、魔力は大丈夫だけど、足が付いてこなくなっている。
何とか、3つめの黒い雫にたどり着く。
が、上位種の腕が出てきていた。
不味い、悲鳴を上げ始めた体に鞭を入れて近づく。
「嬢ちゃん! 無理だ離れろ!」
クルキさんが叫ぶが、まとわりつくゴブリンの処理で近づけない。
出てくる前に兎に角ダメージを与えないと。
私は、3回目になる収納爆発を行使する。
ドゴン!
バキン、黒い雫にヒビ? が入った。 なんだ?
吹っ飛ばされ、地面に体を転がしながら受け身を取る、痛い。
上位種リザード種が出てくるが、腕がもげてボロボロになって出てきた。
だが、仕留めきれなかった。
グガァァァァ
リザード種が叫び声を上げる。
「嬢ちゃん、下がれ!」
「ごめん、ダメージを与えきれなかった」
「十分過ぎるぜ、体力を回復させてな」
シグルさんの槍が傷ついた部分に的確に打ち込まれる、クルキさんとオルキさんが足を狙って切りつける。
私は、周囲のゴブリンを警戒する。
息が上がる、周囲は十数匹のゴブリンが近寄ってくる。
ショートソードを抜いて、構える。
冷静になれ、疲労は思考を鈍らせる。
「きゃぁぁ!」
シーテさんの叫び声と、冒険者と守衛の悲鳴が上がる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます