第123話 氾濫「魔法強化」

「シーテさん、どうしましょう?」


「マイちゃん、どうしようかな?」


 私とシーテさんは、冒険者ギルトの打合せ室で頭を悩ませていた。


「まさか、ここまで人材不足だったなんてねぇ」


 シーテさんが、頬をつきながら、ため息交じりに言う。

 私も同じ気持ちだ。


「で、でも、紅牙のハルのようにやる気のある人も何人か……はぁ」


 私が何とかフォローしようとして諦めた。


 何でかというと、つい先ほどまで、少しでも戦える可能性のある魔法使いを集めて、最初の訓練を行っていた、その結果が散々だったからだ。


 まず、コウの町に以前から居た魔術師が3人、の1人は高齢でまもとに動く事も出来なかった。

 すでに隠居していて、ほとんど家から動いていない。

 残り2人は、光の属性と影の属性の通常魔術を得意としている、中年の兄妹だった。

 この2人、通常魔術がそれぞれ、この属性しか使えないけど、威力は凄いという偏った能力の持ち主で、基礎魔法が全く出来てなかった。


 普通、魔術師なら大抵は通常魔術の6属性のうら、私のように例外魔術とか偏った学習をしなければ、2~3種類は普通に使える物なのだけど、偏った学習をしていたらしい。


 なんで魔術師になれたんだろうかと、聞いたら、このコウシャンの領の魔法学校は個人の特徴を延ばす方針だったらしく、強い光を出せる兄と、漆黒の影を作り出せる妹のその威力だけで卒業をすることができたらしい。


 普段は、植物の育成に活躍しているとの事。

 日照が足りなかったら、兄の光で広い範囲を照らし、逆に晴れが続いたら、妹が空の光を遮光すると。


 問題なのは、長くその仕事をしていたため、他の事をすっかり忘れていたんだよぉ。


 光の直進性や屈折、熱を持たせられる事、光の種類についても、すっかり忘れていて指摘するまで思い出せなかった。

 影の属性は、もともと使い道が限られていて不遇属性なんて言われているが、使い方次第では、相手の視力を奪ったり、影で自分を隠したり色々出来るのだけど。


 そして、魔法学校を中退し、魔法使いを名のっている人。

 全部で10人居た、本当はもっと居るはずだけど、戦いに向いている魔法使いとして参加したのがこれだけだったんだ。

 その10人も、基礎魔法の段階で挫折した組で、一応やり方は覚えているけど、その理由までは全く理解しておらず教えるということに関しては、自分のやってきた事を伝える以上のことは出来なかった。

 取り敢えず、復習として基礎魔法を訓練して貰っているけど、一度折れたので意欲は低い。


 そして、魔法学校に入れなかった魔法使い。

 総勢30名。

 やる気は有った、でも、自己流で使ってきた魔法がこんどは足枷になってしまい、教えると威力が落ちてしまい、直ぐに自分のやり方に戻してしまう。

 基礎魔法の使い方を覚えようとすると、何となく使ってきた想像力を大きく変える必要があり、その過程で威力が一時的に落ちるのはよくある事なんだけど、伝わらない。

 むしろ、馬鹿にしてくる始末だ。


 仕方が無いとは思う。


 そもそも、使える魔術師や魔法使いなら、領軍か王国軍、もしくは何らかの要職に就いているのが普通だから、コウの町で活動しているというだけで、その実力は察しなくてはいけなかった。


 やる気のある人も居る、中でも紅牙のハルは、真面目に基礎魔法を学んで成果も出ている。

 でも、魔法学校に入れなかった程の魔力量だったので、今までよりもマシになった程度だったりする。



「結局の所、魔法使いの人達は、得意な魔法の基礎魔法に絞って訓練して貰って効率と威力の向上をお願いするしか無いでしょう。

 期待していた魔術師の2人ですが、地力はあると思うんですが、いかんせん使い方を理解してません、細かい制御の方法を忘れているのも痛いですね」


 私は、もうどうしたら良いのか判らなくなって、ぼやく。


 攻撃に関わらない魔法なら、結構使える魔法使いは多い。

 以前の、熊の魔獣の討伐戦の時に土属性と水属性を得意とする魔法使いはかなり活躍した。

 ただ、魔法使いの魔法は大雑把なんだよ、攻撃に使うには味方も攻撃してしまう可能性が高くて危ない。


「そうするしかないようね。

 所で、マイちゃんの方はどうなの?

 あの収納爆発とかもそうだけど、通常魔術の方は進んでる?」


 シーテさん、ほとんど諦めてるなぁ。

 私の方は、元々、時空魔術に偏った学習をしてきたので、通常魔術の方が疎かだった。

 光と影の兄妹 魔術師の事を馬鹿に出来ないんだけどね。


「ええ、今は20メートル範囲内での制御を上げる事を中心にしています、威力の方はそれに合わせてですね。

 今の切り札が収納爆発なので、近距離での手数を増やす方向で訓練しています。

 ショートソードの戦い方も、けっこう使えるようになってきたと思います」


「うん、他の人もマイちゃんみたいに訓練してくれれば良いんだけどね。

 私も、マイちゃんのおかげで、苦手だった光と水の属性が大分使えるようになったよ。

 影は相変わらず全然だけど」


 私とシーテさんの、魔術の訓練も続けている。

 知識の私と、実技のシーテさんの組み合わせは相性が良くて、お互いに高め合うことが出来ている。

 私の通常魔術も、その属性での魔術師を名乗れる位にはなってきている。

 その反面、時空魔術の検証が進んでいないのだけど。


 シーテさんの方は、驚くほど成長した。

 得意としている風と火と土の属性の魔術は、私が教えた複合と並列さらに重複させて魔術の行使を行う技術を身に付けたら、その破壊力が凄まじい物になった。

 100メース離れた岩を爆砕して、その破片は高熱で溶解しているとか、王国軍の魔法部隊にも滅多に居ない実力だ。


 まぁ、その実力を見て、他の魔術師や魔法使いのやる気が消えてしまったのもあるんだけどね。



 シーテさんと話ながら、隠している時空魔術について、話す機会を失したことを考える。

 視察団の皆は、信頼できる良い人達だ。

 でも、組織に所属している彼らが私の、特殊な時空魔術を知って報告しない訳がない。

 職務に忠実なのも知っているので、当然の事だろう。






 そんな訳で、魔術師、魔法使いの強化策は遅々として進まない状況になってしまっていた。

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