第122話 氾濫「戦力強化」

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「まさか、500年前の魔物の氾濫の原因は、改良されたダンジョンコアにあった?」


 突拍子も無い思いつきだったと思う。

 でも、否定する材料も無い。


 頭の中が激しく動き出す、改良されたダンジョンコアとは何だ?

 ダンジョンコアはダンジョンの奥にある。

 ダンジョンの発生は不明だ。

 そして、ダンジョンは全て地中に生まれる。

 ダンジョンコアを取り除く、踏破する事でダンジョンは消滅する。


 考えろ。

 情報を基に検討しろ。


 改良されたダンジョンコア、何が改良されている?

 通常のダンジョンコアとは比較にならないほど大きなコア。

 もし普通にダンジョンとして生まれたなら、その規模は広大だろう。

 まるで伝説に伝わるような、大迷宮のようなダンジョン。

 空一面に浮かんだ迷路のような模様。


 空の迷路がダンジョン?

 なら空の迷宮から魔物が生まれるのは判る。


 魔物が生まれる?

 なんで魔物が生まれるのか。

 ダンジョンコアとは一体なんなのか?

 そうだ、何度か違和感を感じていたことがある……。


 何時しか、周りの声を全く遮断して思考の中に埋もれていた。



「マイちゃん?」


 肩を揺すられて、我に返る。


「ジェシカさん?」


 心配そうに、私の顔をのぞき込むジェシカさんが居た。

 どうしたんだろう?


「ちょと大丈夫? 声を掛けても返事しないんだもの。

 気分悪い?」


「あ、いえ、ちょっと考え込んでいただけです」


 私は、周りの人を思いっきり無視していた事に気が付いて、頭を下げる。

 いけない、今は現状への対応を考えるべきだった。


「いや。 マイ君、今は魔物の氾濫の原因を考えても意味が無いだろう。

 確かに重要な事だ、だが、我々が今 何をするべきなのかは見失ってはいかん」


 ギムさんから、言われてしまう。

 全くその通りだ、反省しないと。



「その黒い雫に対して何か有効な策はあるのでしょうか?」


 コシンさんが、片手を上げてギムさんに聞く。


「うむ。 黒い雫に攻撃すると、出てこようとする魔物に攻撃が当たる。

 なので、最初のゴブリンは出てきた所を処理して、その後の上位種が出る気配を察知した所で全力の遠距離攻撃を叩き込む。

 これで、出てくる上位種に対して最初にかなりの攻撃を与える事が出来る」


「つまりは、初動がより重要になってきますね。

 守衛の空の監視もより綿密に行わせる必要があるようです」


 コウさんが、呟く。


「ああ。 今の所は、上位種といっても、この前のリザード種よりも弱い固体が多い。

 また、黒い雫の大きさで出てくる魔物の数と質が変わるようだ」


 黒い雫の大きさで量と質が変わるのは判るけど、上位種が出てこない方が良いには決まっている。


「黒い雫を見て、強い上位種が出てくるかは判るのでしょうか?」


「判らん。 ある程度大きくなると上位種が出てくる、そこまでだな。

 今の所は、小規模な黒い雫が発生して居るだけで、大規模なものの情報は無い」


 ギムさんの持って居る情報はここまでのようだ。

 ここまでと言わんばかりに腕を組んで、深く椅子に座る。


 これは、すこし厄介だ。

 以前にもあった、ゴブリンの発生した時、ゴブリンの脆弱さに冒険者達の危機感が薄れてしまった。

 今回も、黒い雫の脅威が大したことはないとは思われてしまうと厄介だな。

 上位種のリザード種や、謎の巨大な魔物を見た人は大丈夫だろうけど。


「兎に角、戦える人手が足りないですね。

 ゴブリンなら兎も角、上位種に対して戦える人が圧倒的に足りていません」


 私が言った事は、以前から問題になっていた。

 今、コウの町は周囲の村を吸収して人の数自体は余っているが、そのほとんどは戦う事は出来ない子供や高齢者だ。


「それは知っての通り、専業冒険者になった者と守衛の新兵への訓練を始めている。

 とはいえ、成果が出るのはまだ先だろうな」


 ゴシュさんから、訓練の状況を伝えてきた。

 守衛が身に付けている基本となる武器の扱い方や集団戦闘の方法。

 冒険者が身に付けている、少人数での戦い方や生き延びるための知識。

 その交流が始まっている。

 だけど、その中から上位種を倒せるだけの人材が出てくるのかは未知数だ。

 優秀な人材を、ギムさんの視察団や、コウの町のベテラン冒険者チームが指導する予定になっているけど、まだ実施されていない。



「そこでだ、マイ。

 コウの町の魔術師と協力して、魔法使いに魔術を教えて貰えないか?」


 ゴシュさんが、私に切り出してきた。

 うん、魔術師の力は強力だ、今居る魔法使いが魔術師として活躍できるのなら大きな戦力になる。


 だけど、安易に魔術を教えるわけにはいかない。


「魔術師が魔法使いに魔術を教えてはいけない、という事を知っていて話されているのですね。

 理由までも知っていますか?」


「いや、魔法に関しては無知なのでな、だが、魔法と魔術では圧倒的に差があるのは知っている。

 いま、魔術を使える者が増える事は必要だと思ったのだが、駄目なのか?」


「魔術は危険なんです、簡単に自分の限界以上の力を引き出す事が出来てしまいます。

 良い事に思えるかもしれませんが、それは自分自身を壊すのと同じです。

 突然、剣と岩を切るだけの力を与えられて、切ったとします、切れるかもしれません、でもその剣と腕、いえ体は二度と剣を振るう事が出来なくなるでしょう。

 魔法なら、ある程度は自己防衛・自制が無意識に働きますが、魔術では魔力の制御を身に付けない限り働きません。

 安易に魔術を使うと、魔法が使えなくなるだけでなく、精神的にも致命的な影響が出ます」


 ゴシュさんが息を呑む。

 魔術を教えたくない訳じゃない、危険すぎて教えられないんだ。


「でも、基礎魔法なら大丈夫かと。

 魔法を効率よく使うための技術です。

 魔法学校では、基礎魔法を習得するのが魔術を学ぶための資格の一つでしたから。

 これは、魔法の威力も上がりますし、魔力の自制を身に付けることもできます。

 あと、魔法学校を中退した魔法使いの方々も基本的な習得方法は知っているはずです」


 基礎魔法。

 魔術を使う上で基礎となるもので、魔法の操作方法や調整方法などになる。

 例えば、温度の制御。 水を出す時、大抵の魔法使いは気にせず常温で水を出す、これは単純にイメージしやすいから、でも、その温度を正確制御できれば、氷も熱湯も指定できるし、明確に指定する事で消費する魔力も減る。

 温度以外にも、威力や範囲、形状、密度、距離などの特性、幾つもの基礎となる部分を習得する必要がある。

 そして、魔術師を志して魔法学校に入った人の半分はここで脱落してしまう。


「ああ、それで十分だ。

 魔術師ギルドにも協力を要請しよう」


 コウの町の魔術師ギルドは事実上 形式だけで存在している。

 そもそもの魔術師が私を入れても4人しか居ないし、魔法使いも玉石混淆ぎょくせきこんこうで攻撃に使える魔法使いはそもそもほとんど居ない、冒険者の依頼で町中の雑用をこなすのに便利な魔法使いばかりだ。

 なので、魔法使いのほとんどは個人で活動している。

 ギルドを組んでいるのは、色々な暴力や圧力から守るためで、実質は冒険者ギルトの一部署のような扱いかな。


 兎も角、戦力強化の為の計画に関わる事になってしまった。






 程なくして、黒い雫の事。

 魔法使いの強化計画が町長の命令として発令された。

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