第119話 前兆「エピローグ」

 コウの町、視察団の一同は、宿屋タナヤの一室で報告会を行っていた。


「うむ。 やはり、あの最後の魔物の情報は得られなかったか」


 視察団団長のギムは、腕を組みながら、深く息を吐く。



 東の町に駐留している他の視察団チームに魔物の専門家が居たので、早馬で問い合わせた。

 その結果を机に置く。


 コウの町の中で発生した魔物。 ゴブリンは良いとして。

 上位種、名前の断定は未だだが、リザードの一種と思われている。

 リザード種は、表皮が硬く動きも速い、討伐が難しい個体が多く資料では多くの被害が出ていたとのことだ。

 今回のように早い段階で浄化魔法による弱体化出来たことは、体制が整っていたとしても数少ない聖魔法の使い手であるハリスが居たことが大きい。


 しかし、最後に現れた魔物、これは全くの未知だった。



「オーガの上位種、と推測される。 とありますが、そんな生易しい物じゃないですね。

 正直、あれとは戦いたくないです」


 ハリスが弱音を吐く。

 が、だれも責めない。 同じ思いだから。


「魔物は基本討伐ですが、マイの行動が最善だったで良いですか?

 結果論になってしまいますが」


「そうでしょう、あの戦いを避けた判断は正しいだろろう」


 ブラウンの言葉に、ジョムが賛同する。


「とはいえ、本当に無茶ばかりするんだから。

 どう考えれば、あんな判断出来るのやら」


 シーテが、マイの行動に若干の非難をする、空間のヒビ割れに近づいてゼロ距離攻撃なんて、一歩間違えればどうなっていたか判らない。


「だが。 今回の件で、コウの町の脅威度が上がった、また、領都もだ。

 例の謎の塊、あれが原因の可能性を置いて行動する必要がある」


 ギムが、まとめる。

 以前、謎の塊についても情報を求めたが、これについては何も情報が無い。

 王に献上したのでもう関係が無いとのばかりの回答だった。



 トタタタタ


「マイ、どうしたんだ?」

「マイ?」

「後です!」


 階段を駆け上がってくる音がする。

 マイらしい、だが、様子がおかしい。

 全員が入口の扉に注意が向く。


 バン!


「ギムさん! 空!」


 マイがノックもせずに飛び込んできた。

 で、第一声が、ギムと空だ、全員が意味が判らず困惑する。


 マイがそのまま部屋の中を突っ切り、格子窓を開けて振り返る。


「空に、上空に模様が出ています!」


 全員が窓に殺到する。


 魔物が発生する前兆、その模様ならこんな行動はしない、既にどう対応するのか決めてあるからだ。

 そして、こういう時に冷静な対応をマイがすることを全員が知っている。

 なら、想定外が発生して居るのだ。


 窓に一番近かったギムが空を見上げる。


「なんなのだアレは!?」


 ギムが叫ぶ。

 既に気が付いた人が居るのか、町中でも空を気にして騒がしくなっている。


 コウの町のいや、見渡す限り、空一面に迷路のような模様が夕日に照らされているように赤く青く光っている。



「あれが何だか判りますか?」


 マイが、ギムの言葉を聞いて他の4人に訪ねる。


 全員が、首を振る。




 想定外の何かが起きている。

 その事に、全員が空を見上げて、息を呑んだ。



■■■■



「わっははははは、凄いぞ! 凄いぞ!」



 トサホウ王国の王、国王ディアスは、狂気とも取れるほどの笑いをあげていた。


 目の前には、献上された『改良されたダンジョンコア』が光り輝いている。

 幻想的な光が細い筋となって、空に伸びている。


「王よ、危険です離れて下さい!」


 家臣の誰かが声を掛けるが、全く聞こえていない。


「素晴らしい、なんという神秘的な輝きなのか!

 一体何なんだろうな! 不思議だ、素晴らしい!」


 王城の前庭は、夕暮れの中、不思議な光に照らされていた。

 王都の住民も、遠くの正門から、覗こうとたむろしている。


「とにかく、あれが、あの『改良されたダンジョンコア』が何なのか直ぐに調べるのだ!」


 王から後回しにされていた調査をようやく、やや強引に始めた。

 何人もの研究者、魔道具の作成者、鑑定魔術の使い手が『改良されたダンジョンコア』に群がる。


 王都は、王城から空に伸びる光の話題で持ちきりとなっていた。






 前庭に、国王の笑い声がただ、響き渡っていた。

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