第116話 前兆「市街地戦」

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「どけぇ! 道を空けろ!」


 ブラウンさんが、普段とは違う大声を上げる。

 剣まで抜いている。

 悲鳴を上げながら避けていく人々。

 中には、止めようとする人が居るけど、剣を向けると避けていった。


 巡回している守衛が気が付いて呼び止めてきた。


「何をしている、止まれ!」


「付いてこい! 急げ!」


 ブラウンさんが叫ぶ、異常事態なのは伝わったが、ブラウンさんも私も私服だ、困惑している。


「まて、止まれ!」


 3番目の壁の入口で、守衛が槍を向けて制止をかけてくる。


「視察団だ、道を空けろ!」


「ダメだ、町中での抜刀は禁止されている、剣を離せ!」


 時間を取られている暇は無い。


「風で道を作ります」


 私はブラウンさんに合図する。


 発動している風魔術を多重化して、それを前方に叩き付ける。

 守衛か跳ね飛ばされて、門の壁に叩き付けられる。


 その横を駆け抜ける。


 壁を抜けて、見晴らしが良くなると、空の模様が見えた。

 その下の方で、黒いものが見える。

 不味い。

 場所が高い、5メート位か?


 後ろから守衛が追ってくるのが判る、今は戦力が増えるのは良い。



 悲鳴が聞こえてくる。


 キーキーキー

 キーキーキー


 ゴブリンが既に生まれている!?

 私もショートソードを抜く。


「黒い物から離れろ!」


 ブラウンさんが叫ぶ。


「いやぁぁぁ」

「何だよ! バケモノだ!」

「逃げろ!」


 不味い混乱している。

 近づけない!


「どけぇ!」


 私が火魔法を上空で弾けさせる。

 慌てて逃げるように場所を空ける人々。


 ゴブリンが人に取り付いて居るのが見える。

 男性が引き剥がそうとしていたり、木の棒のような物で殴ったりしている。


 数は判らない、目につく限り10匹以上は居る。


「マイ、兎に角ゴブリンを狩るぞ!」


「はい!」


 私は、ショートソードでゴブリンの首を落としていく。

 ブラウンさんも、手慣れた感じで同様に首を落とす。


 ようやく、守衛が追いついた、状況をみて困惑して硬直している。


「周りの人を避難させて! ゴブリンが居たら教えて!」


 私が叫ぶと、ようやく我に返って、周りで混乱している人達を誘導し始めた。


「他にゴブリンを見た人居ますか!

 ブラウンさん私は7匹倒しました、そちらは!」


「マイ、こっちは12だ、魔物の反応は?」


 探索魔術を魔物に特化して使用する。

 周囲には、無いが黒い何かに強い反応が有る。


「周囲は無いです! ですが、黒い何かから未だ来ます」


 私が返答したとと同時に、黒い何かから、ゴブリンがまた大量に落ちてくる。

 数は20匹以上。 しかも、広い範囲だ。

 その様子を見ていた人から、叫び声が上がる。

 サッサと逃げてよ!


「不味いです! ゴブリンの数が多い、上位種が出てくる可能性が高いです!」


「ああ、守衛が使えねぇ」


 落ちてきて、動き出そうとするゴブリンの首をブラウンさんと一緒に落としていく。

 増援が欲しい。


 ブラウンさんが苛立っている。

 守衛は、人を退避させようとしているが、見物する人を誘導できず一緒にオロオロして遠巻きに見ているだけで、役に立たない。

 私も苛立ちが出るが、当てにしてられない。


 ゴブリンが落ちるのが止まらない。


「マイ!」


 フミ!?

 何でここに?

 お店の影に隠れて居たのか。


「フミ、ここから離れて、急いで!」


「行くぞフミ」


「でも、マイが」


 タナヤさんが、肩を掴んで移動させようとするが、フミが離れたがらない、でも上位種が現れたら、守れる自信が無い。


「お願い、早く離れて!」


 1匹のゴブリンがフミの前に落ちる。

 私は、走り寄ってゴブリンの首を落とす。


「宿に戻って、戸締まりして下さい!」


 タナヤさんに向かって言ったあと、踵を返して落ちたゴブリンに向かう。


「マイ、気を付けてね」


 フミの声が聞こえて来るが、答えている暇が無い。

 このままだとジリ貧になってしまう。



「嬢ちゃん、来たぜ!」


 クルキさんのチームだ。 それに何人かの冒険者もいる。


「おじさん! 数が多い、上位種が来るかも!」


「判った、お前らゴブリンを相手しろ、バリイ! 黒いのの近くでゴブリンを捌きながら待機だ」


「おうよ」


 直ぐに理解してくれた。

 バリイさんは、本業は木こりをしている冒険者で元領軍の兵士だ、バトルアックスを使う実力者と紹介されたことが有る。


 まだゴブリンが落ち続ける。

 これが途切れた時、上位種が出てくるかもしれない。


「マイ君!」


 ギムさんだ、実力者が4人になった、黒い何かから出てくる途中を狙うなら、上位種1体で十分な戦力だ。

 それに、ハリスさんも居る。


「ギムさん! ハリスさんも、ハリスさん! あの黒いのに浄化魔法をお願いします!」


 ハリスさんが息を切らしながら、駆け寄ると、浄化魔法を行使する。

 浄化魔法は魔物に対して特効がある。 これで黒い何かが消えれば!


 浄化魔法の光が黒い何かの周りで輝く。

 以前聞いたことが有る、浄化魔法の効果が発揮している時は光り輝くそうだ。

 逆に大して効果が無い時は、良くてぼんやり光る程度とのこと。


 グオオオオオオオ!


 辺りに雄叫びが響く。



 パキィ


 黒い何かの辺りの空間が割れる。


「ハリスもう一回だ!」


「はい!」


 ギムさんが指示する。

 割れた空間から、オオカミのようなトカゲのような巨大な顔が3つ飛び出す。

 知らない、これは何という魔物の上位種か。


 ハリスさんの浄化魔法の光が更に輝く。


 グギャアアアア!


 苦しむ声が響く。

 苦しんでいるのは判るが、物理的に効いているのかは判らない。


 ズルリ


 1匹が滑り落ちるように地面に落ちる。

 手足が短くて太い尻尾が有る、巨大なトカゲの様な感じの魔物だ。


「うぉりゃゃゃゃ!」


 バリイさんがバトルアックスを振り下ろす、が、わずかに刺さるだけだ。

 バリイさんが斧をひくと同時にクルキさんが体重を乗せて剣を突き立てる、更に突き刺さる。


 ガギャャャ!


 叫びながら体をひねる。

 が、その時には2人は距離をとり、更に攻撃を続ける。

 動きが遅いのは、浄化魔法が効いているのか?


 1匹に時間が掛かりすぎている、どうする?


 ハリスさんの浄化魔法が更に行使される。

 今度は、上空の2匹の皮に焦げたような黒いアザと水膨れがボコボコと生まれる。


 ようやく、下の1匹の首が落ちる。

 黒い何かの所の魔物は動きが鈍っている、這い出ようとはしているが、まだ大丈夫そうだ。


 探索魔術を行使して、周囲を確認する。


 バキッ


 空間が大きく割れる、2匹がボトボト落ちるが、動きは殆ど無い。

 けど。 それよりも。

 巨大な両手の指が空間を割ろうとしている。

 空間の向こう側から、醜悪な形容しがたい顔の一部が見え割れ目から覗いてくる。


 背筋が凍る。

 あんなのが出てきたら、軍隊単位でないと対応出来ない。


「マイちゃん、どうしよう?」


 シーテさん、来てくれたんだ。

 なら、やることは一つだ。


「シーテさん、私をあの空間の所まで持ち上げて下さい。

 あれはこちらに出してはいけません」


 私の意図が伝わったのだろうか、土属性の魔術で私を地面毎持ち上げた。

 私の正面に魔物の顔が迫る、私の身長よりも大きい顔だ。


 たぶん今の私の心は恐怖に染まっているだろう。

 でも、感情を殺している今は、目の前の敵を見据えている。

 今夜は、ベッドでガチ泣きガクガクブルブル コースかなぁ。

 冷徹になっている自分は思う。


「マイ君!」


「嬢ちゃん!?」


 ギムさんと、クルキさんが叫ぶ。

 私は、両手を魔物の顔の前に突き出すと、熊の魔獣に行使した収納爆発を2連で打ち込む。


「こっち来るな!」


 一瞬、魔物と目が合った気がした。



 ドゴォォォォン!


 収納爆発の爆風が空間の向こう側に吸い込まれていく。

 手が外れ、巨大な魔物が空間の向こう側に倒れていく。

 私は、体ごと後ろに吹き飛ばされる。


「ハリスさん! もう一発!」


 ハリスさんがすかさず浄化魔法を使う。


 私は、落下しながら空間が閉じていくのが見えてホットする。

 着地どうしよう?


 と、シーテさんの風魔術で私の体が持ち上げられ、受け止められた。

 受け止めたのは、ジョムさんだ。


「遅れて済まん、大丈夫か?」


「ありがとうございます。 大丈夫です」


 ジョムさんのたくましい腕から降ろして貰う。

 落ちた残りの2匹の魔物は動きが遅く、首を切りつけられていても反撃できていない。


「ジョム、手伝ってくれ。 こいつ堅い」


 ギムさんが呼ぶ。


「行ってくる」


 ジョムさんが私の頭に手をポンと置くと、ギムさんのところに向かって行った。

 私は近くの箱に座り、一息つく。


「マイちゃん、大丈夫?」


「はい、シーテさん。 問題ないです。 あと周囲の探索魔術、お願いして良いですか?

 私も確認しましたが、念のため」


「もうやっているわ、ダンジョンのような反応は今は消えてる。

 あとは、そこの魔物だけど、反応がもう弱いから大丈夫でしょう」


 そのとき、1匹の首がジョムさんのバトルアックスで落とされる。

 もう1匹も、すでに動いていない。


「はぁーー」


 力が抜ける。

 ようやく終わった。


 辺りを見渡すと、冒険者と守衛が遠巻きに見ている。

 うん、後で考えよう。






「お腹空いた」

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