第112話 前兆「専業冒険者」

 翌日。


 ギムさんちた視察団のチームがコウの町へ戻った事で、改めて関係者が集まって打合せが儲けられた。

 今回の討伐情報の共有、オーガの検分を済ませて、今は町長の館の一室に集まっている。



「うむ。

 オーガを被害無しで討伐出来たのは、良かった。

 しかし、同じ運が良い状況になることは無いだろう。

 そこでだ、今、領内で起きている事を共有する」


 町長のコウさん、ギルドマスターのゴシュさんが、息を呑む。

 二人にとって一番欲しい情報なんだろうな。


「魔獣の発生は微増のままだが、強い個体が多くなっている傾向がある。

 魔物は、確実に増加している。 だが、ダンジョンは増えていない。

 そして、ここからは機密だ。

 発生の分布が王都を中心に広がっている節がある。

 王都への問い合わせでは、否定されたが、周辺の領の被害状況から推測された」


 コウの町の魔物の発生と同じ事はやはり、他の場所でも起きていた。

 しかも、国……いや王都を中心として?


 なぜ、発生の中心が王都なんだろう?



「ギムさん、コウの町は他と比べてどうなんでしょうか?」


 ギムさんが、腕を組んで私を見る。


「マイ君、コウの町だが君の思ったとおり、他より多い傾向にある。

 しかし、なぜそう思ったのかね?」


「ギムさん達が駐留しているのが一番の理由ですね。

 あとは、単純に比較したいというのと、他の場所との相違点を知りたかったのですが。

 判らなくなりました。

 何か原因となるものが何か……何か。

 もしかして、領都でも増えていませんか?」


 ギムさんは、私を見て何も言わない。

 私の次の言葉を待っている感じだ。


「もしも、ですが。

 あの不思議な塊、ギムさんは知っていますか?

 コウの町の近くの村で見つかったものです。

 収納して、コウの町、そして領都へ運ばれています。

 その後は、何処に行ったのかは知らないですけど」


 そうだ、魔物が現れたのは北の森、謎の塊は北の村だ。


「あと、あの塊が見つかった村は、コウの町から北西側、今回の魔物が発生した場所から近いです」


 今、思いつくのはあの不思議な塊だ。

 可能性の一つとして、確認しておこう。


 暫く、沈黙が部屋を包んだ。

 ギムさんが、体を前のめりにして、吐くように言った。


「マイ君。 今、それは王都にある」


 ザワッ


 一転して、室内に動揺が走る。


「ギムさん、あの塊がなんだか判りますか?

 情報が足りません、もし原因がアレだったとしても、何なのか判らないと対策が取れないです」


 私は、必要な情報を求める。


「その情報は、一切伝わってきていない」


 くっ。

 私は椅子に深く座り、天井を仰ぐ。

 情報が無い、これほど不利な条件ではどうすればいい?


「王都の正式な発表では、王都を中心に発生して居るのは偶然。

 そもそも王都周辺では魔物は発生して居ない。

 そして、塊は原因では無いとなっている。

 これ以上、確認する事は出来ない」


 ギムさんが、苦渋の顔だ。

 権力者が強力な権限を持つこの国では、その言葉は絶対だ。

 ましてや、正式な発表ならば、口を出す事は出来ない。


「ギムさん、我々はこれからどうすれば良いのでしょうか?」


 コウさんが訪ねる。

 そうだ、今できる事を考えよう。


「領主様より幾つかの指示が出ている。

 一つは、守りが弱い優先度が低い村を廃棄して統廃合または町へ吸収する。

 一つは、町の外に出るのには、戦える者かもしくは護衛を付ける事。

 一つは、魔獣・魔物の討伐が可能な、専業冒険者を正式な職として認定する事」


 コウさんと、ゴシュさんが、身を乗り出して驚く。


「本気ですか?

 まるで、戦争の準備をしろと言っているように聞こえます」


 コウさんが、汗を流して聞く。


「領主様は、魔物の氾濫、魔物との戦争を考慮されてる」


 コウさんが、愕然とした表情で椅子に深く座り項垂れる。


「専業冒険者ですか、今居る冒険者としての活動を主としている者を指定する事は可能ですが、どの程度の人数、チームが必要となるのでしょうか?」


 ゴシュさんが、悩む。


 コウの町は小さい、本格的に戦える冒険者チームとなると、クルキおじさんのチームともう一つ位だ。

 個人では、狩人の人が数名と、私か。


「うむ。 他に何か無いか?」


 他に、何かあるかな。

 喉の奥に引っかかるような何かがある、何だっけ。



「空の模様ーー」



 ぼそっと、口にする。


「マイ、それを何処で聞いた!? 誰からだ?」


 ブラウンさんが立ち上がり、何時もの静かな感じとは異なる、問い詰めるような言い方をしてきた。


「ブラウン!」


 シーテさんが、ブラウンさんを抑える。


「すまない、マイ、その情報は何処から入手したのかな」


 改めて、丁寧に言い直してきた。

 しかし、目が怖い。 普段の優しい目ではない。


「黒い何かが空中に出来た時、空に不思議な模様が見えたんです。

 ただ、それが何かは判らなかったのですが、見間違いにしては気になっていました。

 何かあるんですね」


 逆にブラウンさんに問う。


「そのダンジョンがないのに魔物が発生した場所でも何カ所かで同じ、空に模様が浮かんだとの情報が有る。

 これは、視察団でもまだ確認出来ていないし、極秘中の極秘扱いになってる」



 見間違いではなかった。

 だとすると、魔物の発生を事前に見つける事が出来ないか?

 秘密にする必要が判らない。


「なぜ秘密なんですか?

 空を監視する事で、魔物の発生場所を発見できる可能性があるのでは。

 それに、空に浮かぶものです、直ぐに気が付く人が出てくると思いますけど」


「王都の上空が最も頻度が高い、だが、それを認めると関係が無いと言った事と矛盾する。

 だから、このことを公にすることは控えられている」


 まずい。

 上の対応がこのままだと、状況の悪化する可能性がある。

 何とかする方法はないか?


「不思議な雲とか、別の表現にして回避することは可能でしょうか?

 後手に回るとしても、対応は早くできた方が良いです」


「うむ。 いずれは判る事だしな、考えてみよう」



 これが今は精一杯か、後は。


「あの黒い何かですが、潰す事は可能ですか?

 上位種が表れる前に潰せれば、運しだいですが戦いを回避できます。

 ただ、弓を打ち込む程度では、取り込まれてしまうだけです」


 そうだ、あの黒い何か、あれを何とか出来ればもっと楽になる。

 あ、まただ。

 何かを見落としてる。 何だろう出てこない。



「可能性だけですが、浄化魔法が有効かもしれません」


 聖魔法使いのハリスさんが言う。

 そうか、浄化魔法は魔物に対して特効がある。


「そうですね、魔物への効果が高いのなら、可能性は高そうです。

 ただ、誰でも出来るものではないのが問題ですか」


 例外魔法の一つである聖魔法を使える者は、非常に少ない。

 教会で育成しては居るが、全く足りていないだろう。


 仕方が無いか。


「あと、マイさん。

 王都では、聖魔術師が王都全体に対して、浄化魔法を定期的に使っているのですよ」






 私は、ハリスさんの言葉に硬直する。

 王都を中心に発生する魔物、だけど、王都には魔物は発生しない。

 その理由を聞かされたと感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る