第111話 前兆「視察団の帰還」

 コウの町、町長の館の奥にある倉庫。


 町長のコウさん。

 ギルドマスターのゴシュさん。

 役場担当のコシンさん。

 冒険者ギルト担当のジェシカさん。

 クルキさんの冒険者チーム。 クルキさん、息子のオルキさん、シグルさん。

 そして、私マイ。


 倉庫の中で保管されているゴブリンに囲まれている。


「マイさん、言われた通り関係者を全員集めましたが、何なんでしょうか?

 それにクルキさん達も?」


 コウの町へ午前中のうちに帰還して、そのまま冒険者ギルトへ。

 そしてジェシカさんに関係者を倉庫へ集めるように依頼した。

 調整が上手くいったようで、午後の早い時間に直ぐに集まることが出来た。



「クルキさん達は今回の関係者なので、同席して貰いました。

 今から言うのは、事実ですが兎に角 聞いて下さい。

 まず。

 ゴブリンが見つかった場所には、何も無かったです。 ダンジョンも含めて。

 しかし、暫く調査していたら、森の様子が変わりました。

 魔物が生まれた時の様子に酷似しています。

 同時に探索魔法でダンジョンのような反応を検知しました。

 そして、ゴブリンが見つかった付近の空中に黒い何かの塊のような物が発生しました。

 その黒い何かは、ゴブリンを25匹を落としていきました。 これは即時討伐しました。

 そして、その黒い何かから、上位種が出てこようとしました。

 強力な個体で、クルキさん達が全力で戦って、出てくる途中を攻撃することで、被害を出さずに討伐できました。

 その後、ダンジョンのような反応が消え、森の様子が元に戻りました。

 翌日まで確認しましたが状況は変化しませんでした」


 私は話し終えると、クルキさんを見る。


「ああ、嬢ちゃんの言ったとおりだ間違いない。

 付け加えると、上位種の力は判らない。 堅いし力も強い。

 まともに相手をするのなら俺たちだと勝てない可能性が高いな。

 嬢ちゃんの判断と、上位種が黒いのから這い出る所を狙えたから倒せたんだ。

 運が良かった、それだけだな」


 私とクルキさんチーム以外の皆が愕然としている。

 クルキさんのチームの実力は私以上に知っているのだろう、その彼らが勝てないと言った。

 上位種といっても、ゴブリンの延長と考えているようだったから仕方ないか。


「あ、あと関係ないと思いますが、空の雲かな、変な模様になっていました。

 気が付いた人居ます?」


 私は、クルキさん達を見るが、全員首を振る。

 うーん、気にしすぎかな。



 私は、まず25匹のゴブリンを並べていく。

 そして、上位種を置く。


 改めて見ると、大きい。

 体長で3メートルを超えている。

 腕の太さは私の体よりも太い。

 赤黒い体躯は巨大なマッチョだ。


 上位種の姿に、更に驚く皆。


「あ、魔石を取っておかないと」


「あ、じゃ私はゴブリンを。 シグルさん上位種をお願いします」


 オルキさんが、ナイフを持ちだして、ゴブリンの方へ向かう。

 私達は、シグルさんが上位種の魔石を取り出すのを見る。


 大きい。


 大きな塊のような魔石が、分厚い体の胸の中心のほとんどを占めている。

 ん、内蔵のようなのがある。 ゴブリンには無かった物だ。

 これはゴブリンなどを食べることが出来ると言うことか。


 あの時、ゴブリンを食べようとしたのは何らかの回復なのかそれとも単なる飢餓からくるものなのか、判らないが、試すわけにもいかない。


 ふと見ると、ジェシカさんが椅子に座って頭を抑えている、顔色が悪い、ショックか気持ちが悪くなったか。

 コシンさんが水を用意しているのが見えた。

 私も、今の精神状態が切り替わったら、震えてしまうだろうな。


「この事について知っている者はどれだけでしょうか?」


 コウさんが聞いてくる。


「ここに居る人だけになります」


「それは、有りがたいです、口外しないようにお願いします。

 ですが、上位種についての発表は急ぎましょう。

 完全に出てきた場合は、複数のチームで対応する必要が出てきますから」


 町長の判断がこちらと同じで助かる。


「クルキ、上位種の特徴とどうやって倒したか、弱点とか兎に角まとめてくれ。

 マイにも頼めるか?」


 ギルドマスターが私とクルキさんに言う、私達は了解の意味で頷く。



■■■■



 宿屋タナヤに帰ってきた。

 少し気が重い。

 依頼の顛末をある程度は、話さない訳には行かないから。


 案の定、フミには涙目で怒られた。


「なんで、マイだけこんな目に遭うのよ」


「こればっかりは、状況次第だったので、運が悪かったかもしれません。

 ですけど、クルキさん達が居たので、私は全く戦っていません。 守って貰いました」


 ずるい言い方だ。

 私の役目は、戦闘職の3人に効率よく戦いに集中出来るように指示する立場だ。

 戦っていない、とは違う。

 勿論、上位種が発生した事は伏せている。


 でも、この説明で納得してくれたようで、機嫌を直してくれた。



 そして、帰ってきたのは私だけではない。

 視察団のチーム、ギムさん達が戻ってきた。


 夕食後に話をしたいと、伝えて了解を貰う。

 食後の飲み物を出して貰い、私とフミで配る。


 フミが不安そうにしている。 いけない。


「フミ、ギムさんが居ない間の事をちょっと話すだけですよ」


「うん、マイも遅くならないようにね」


「はい、フミ。 お休みなさい」


 フミが出ていき、階段を下りていく音を確認すると、ギムさんに向き合う。


「ふむ。 マイ君、その様子だと何かあったのだね」


「はい、明日には関係者が集まって打合せがあると思いますが、早めに知らせておいた方が良いと思ったので、時間を頂きました」


 私の言葉に、ギムさん達の気が張り詰めた感じになる。


「まず、発端は、ゴブリンが発生した事です。 これは無事討伐。

 その時、ダンジョンが見つかりませんでした」


 視察団のリーダーで元強力な冒険者チームの、ギムさんの眉毛がピクリと動く。


「私と、クルキさんのチームでダンジョンの探索のため、ゴブリンが見つかった場所に向かいました。

 最初は、その付近に何も無かったのですが、森の様子がおかしくなったのに気が付いて、探索魔術を行った所、ダンジョンのような反応が見つかりました。

 空中に。

 そして、そこに黒い何かがにじみ出てきたんです」


 ガタン

 私と同じ魔術師の、シーテさんが立ち上がる、顔色が悪い。

 たぶん、この事例は知っているのかな?


「シーテさん」


 教会所属の聖魔法使いの、ハリスさんが、静かに声を掛けて座らせる。


「続けます。

 その黒い何かから、ゴブリンが大量に25匹落ちてきました。 これを直ぐに討伐。

 そして、上位種と思われる魔物が、黒い何かを割るようにして出てきました。

 それは、3メートルを超える人形の強力な個体でした」


 ギムさんが、持っていたカップを音を立てて皿に置く。


「マイ君、何人の犠牲が出たのかね」


「ギムさん、最後まで。

 その上位種が黒い何かから出てくる途中、動きが制限されている所を、クルキさんのチームが攻撃して、全身が出るまでに、両腕と片足を落としました。

 あとは、まともに動けない上位種の首を何とか落としました。

 被害は出ていません」


 ハーッ


 全員が被害が出ていない事に安堵して息を吐く。


「死体は、町長の館の例の倉庫に保管済み。

 また、上位種の発生については、今日、関係者に共有していますが、公表は町長とギルドマスターに任せる事になっています」


 しゃべり終わると、お茶を飲んで一息つく。



「うむ。 ありがとう。

 最善の結果と対応だ、礼を言う」


 ギムさん軽く頭を下げる。


「ギム、この上位種はオーガではないでしょうか?

 精鋭の冒険者と視察団のチームが戦って6名の犠牲を出した個体ですよね」


「たぶん、まちがいないかな。

 死体を見ないと断言できないけど。

 それを、被害無しで倒せたんだ、凄いな」


 大盾とバトルアックスを使う、ジョムさんが上位種の個体名を教えてくれた、オーガらしいのか。

 それに、弓と斥候役の、ブラウンさんが補足する。



「その様子ですと、領内では同じ事例が発生して居るんですね」


 私は、ほぼ確信してギムさんを見る。


「うむ。 その通りだ。

 オーガは戦闘力に関しては今発生して居る上位種でもかなり高い、無事だったのは運が良かったのだろう。

 マイ君だから言っておこう。

 500年前の魔物の氾濫の時に現れた魔物の中では、オーガは中から下 程度だ」


 あの強力な個体より強い個体が居るのか。

 いや、10メートルの魔獣も居た、それを考えると、更に強い個体が居ても不思議じゃない。


 500年前の魔物の氾濫、まだ人が今の100倍以上居て、武器も技術も今より高品位だったのに、人口が100分の1にになってしまうほど消耗してしまった戦い。

 今の人が対応出来るのだろうか。


「詳しい話は、明日だな。 ありがとうマイ君」


 ギムさんが、礼を言い、場を締める。






 私は、言い知れぬ不安を抱えながら、部屋を出た。

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