第110話 前兆「上位種」
何も無い所で魔物が生まれた。
余りの状況に、全員が硬直する。
混乱する、いや冷静になれ。
周囲の確認、探索魔術を行使。
目の前にダンジョンに似た反応と、魔物の反応。
他には、いや空に変な模様が。
関係があるのかたまたまそんな雲が出来ていたのか。 後回しだ。
落ちたゴブリンは、ピクピクしている。
決断する。
「おじさん、一撃離脱でゴブリンの首を落として!
絶対に黒い何かに触らないように!」
「おうよ」
私の指示が出たら、行動は早い。
一瞬で距離を詰めると、サクっと首を落として距離を取る。
黒い何かは、まだ動いている。
「気を付けて、ダンジョンと似た反応がある、まだ魔物が出てくる可能性が高い。
シグルさん、弓で攻撃してみて下さい。
念のため、打ったら直ぐに場所を移動して下さい」
「ああ、判った」
シグルさんが、弓を引き絞る。
黒い何かは、形が一定しない、慎重に狙って打つ。
ドッ
と当たるがそのまま中に吸収されていく。
なんだ?
これはまるで……。
ボトボトボト
ゴブリンがどんどん落ちてくる。
最初に落ちたゴブリンの頭には矢が刺さってる。
「おじさん、オルキさん!」
「判ってる! オルキ! ゴブリンを狩るぞ!
黒いのには近づくな!」
2人がかりで一気に接近してゴブリンの首を落としていく。
ボトボト
まずい、この数が出てくると言うことは、ギムさんから聞いているダンジョンの場合と重ねると。
「ゴブリンが落ちるのに変化があったら合図するから残っていても離れて!」
「ああ」
「判った」
ザシュ、ザシュ
落ちてくるゴブリンを器用に空中で首を落としていく。
無駄の無い剣筋は、正規の訓練を受けているかな?
ゴブリンが落ちてくるのが止まる。
「離れて!」
2人が離れる。
「シグルさん、弓の準備を!」
パキッェ
黒い何かが柔らかくうごめいているはずなのに、薄氷が割れるのような音を立ててヒビ割れが走る。
ボシュ!
突き破るように赤黒い腕が飛び出る、右腕だ、来る。
「たぶん上位種が来る、おじさん、完全に出てくる前に攻撃して!
黒いのには注意!
シグルさん、黒いのに弓を打ち込んで!」
「何とかやってみる」
「打つぞ、クルキ頭を下げろ」
弓が打ち出される、クルキさんが低い態勢で接近して腕を切る。
が、半分も切れていない。
矢は、さっきと同じで黒い何かに刺さって吸収されていく。
「ちっ」
返す刀で、更に2度切り込んで腕を切り落とす。
ガァァァァガァ!
雄叫びを上げながら、頭と首下が現れる、黒い何かから這い出るように身体をよじる。
左腕が身体を引き出すように出てくる。
「シグル、頭だ」
クルキさんが指示を出す。
「判ってる!」
連続して矢が打ち出される、が、弾かれる。
クルキさんが首を狙って斬激を放つが、首の皮を切り裂くのが精一杯だ。
それでも何度も切りつける。
オルキさんは、どうしたら良いのか迷っている。
「オルキさん、周囲の警戒と反対側に回って!
腕を狙って!」
「あ、ああ、わ、判った」
オルキさんが回り込んで、左腕を切りつけるが、浅い。
何度も打ち込んでいるけど、動きを止められない。
首を切りつけてくるクルキさんを睨んで吠える魔物。
更に身体をよじって上半身が出てくる。
胸に矢が刺さっている、動きが遅いのはその為かな?
空間が割れるようにして、残った腕で更に身体を引き出そうとする。
タイミングを合わせて、シグルさんの弓が放たれる。
今度は1つが目に当たる。
ギャャャャャガァァァ!
痛覚があるのだろうか、目に当たった矢を抜こうとする。
「させるかよ!」
クルキさんが、刺さった矢を剣の腹を使って更に深く打ち込む。
ガアアアア!
接近したクルキさんを、魔物の腕が襲う、が、オルキさんが左肘に向かって突きを放ち、深手を与えた。
左腕も肘からブラリと力が入らない。
両腕を潰した。
ギロ
魔物がオルキさんを睨むと、左腕を振る、肘から先が本来曲がらない方向にしなる。
避けきれず、剣で受けて後ろに飛ばされた。
なんてやつだ。
オルキさんにはダメージは無いようだが、迂闊に近づけなくなった。
バキン
ついに片足が出てくる。左足だ。
腕が使えないので、もがくように身体をくねらしている。
「おじさん、足を!」
「おう、シグル、頭を兎に角狙え!」
クルキさんの斬激が出てきた足を襲う、流石だ膝を裏から砕いている。
これが獣なら間違いなく弱点を突いている。
ギャオオオオ!
吠えて身体を激しく揺する。
体がまだ黒い何かに挟まっていているためか、腕を振ってもクルキさんに届かない。
クルキさんは体勢を低くして足を完全に切り落とそうと何度も打ち込む。
オルキさんも合わせて反対側から切りつける。
左足が膝から切り落とされる。
シグルさんの矢が口の中に打ち込まれた、大口を開けて叫んでいたからか。
ついに全身が現れる。
だが、両腕と左足を無効化しているのだ、まともに立てないで、ドオッと倒れる。
それでも、未だ激しく動く。
ん、ゴブリンを食べようとしている。
しまった、ゴブリンを食べることで回復される可能性がある。
回収しておくんだった。
「ゴブリンを喰わせないで!
私も接近します」
「嬢ちゃん! 来るな!」
ぐっ、クルキさんの言葉で足が止まる。
クルキさんは首を落とそうと全力で振り下ろして何度も切りつける。
少しして、魔物の動きが止まる。
クルキさんとオルキさんが2人して首を切り落とすために交互に切りつける。
その間、シグルさんは周囲の警戒をしている。
私も探索魔術を行使して周囲を確認する、目の前の魔物の反応が弱くなっていく。
そしてついに、首が落ちる。
上位種を倒した。
私は、直ぐに探索魔術を行使して、改めて周囲を確認する。
魔物の反応も、ダンジョンのような反応も全て無くなっていた。
空も、普通の空だ、見間違いだったのか?
「お疲れ様です、周囲に敵対と思われる反応は無いです。
あと、森の様子が元に戻りました」
私は、笑いかける。
「おう、良い指示だったぜ、嬢ちゃん」
「おじさんこそ、こんなに凄腕だったなんて知らなかったよ。
シグルさんオルキさんも、凄かったです」
「で、嬢ちゃんなんで近づこうとしたんだ?」
「この魔物、ゴブリンを食べようとしていたんです。
もし食べていたら傷を回復されている可能性があったので、収納してしまおうと思ったんですね」
あと、収納爆発を使って頭を吹き飛ばせればとも思った。
「なるほどな、取り敢えず、こいつらを全部収納してくれ」
「ええ、判っていますよ」
私は、ゴブリン25匹と大型の魔物1匹を収納した。
収納の時は、念のため生き物は通さない設定にしたが無事に収納出来た。
収納空間でも動いている様子は無い。
少し離れた所に移動して、休む。
軽食を出して、ようやく一息ついた。
「しかし、どう報告するのかね」
「どうもないですよ、事実をそのままですね」
クルキさんおじさんの、ぼやきに私は答える。
「今でも信じられないです。
それに上位種ですか、もし万全の状態で出てこられたら私では太刀打ちできなかったです」
オルキさんは、効果的な攻撃がほとんど出来なかったことに、驚いている。
「矢が通らないのは困ったな」
「でも、黒い何かの中に居る状態なら刺さるようですね。
そのおかげで、動きがかなり制限できましたし」
シグルさんが、矢の力不足を嘆くが、上位種の胸への攻撃は効果的だった可能性が高い。
「何処に当たるのか判らないのがなぁ。
今の弓より強いのにする必要があるな」
少しして、拠点場所に移動した。
夕食は頑張った皆さんへ、少し頑張って、スープとパン、チーズ、果実を料理し振る舞った。
夜の番は、私が最初、一番疲れていないのと、ゆっくり寝れるからと。
次がシグルさん、クルキさん、オルキさん、の順番で夜の番をした。
翌日。
どうにも不安だったので、朝食前に魔物が現れた場所を念入りに探索する。
昨日の空の模様を思い出して、空を見上げるが、やっぱり普通の空だ。
うーん、何だったんだろう?
恐る恐る、木の枝を使って、黒い何かが発生した空間を探ったりしたけど、何も無かった。
推論は出来るが、出来ればギムさんの視察団に会いたい。
彼らなら情報が有るだろう。
朝食を食べながら、私はみんなに話す。
「すいません、今回の件は冒険者ギルトと町が公表を決めるまで、内密にして貰えませんか?」
「うん、それは良いが、訳ありなのか?
出来れば早く情報の共有をしたいんだが」
「おじさん、危険な上位種が居ると判れば、また混乱する可能性が高いです。
直ぐに共有されると思いますが、発表の仕方とタイミングを考えた方が良いと思います。
それをするのは、ギルドマスターと町長でしょう」
「そうだな、だが次が起きる前には、なんとかする必要があるな」
「私もそう思います」
「とにかく、今回は、おじさん達のチームが来てくれて本当に助かりました」
私はペコリと頭を下げる。
私一人では、ゴブリンは兎も角、上位種に対処できたか判らない。
「感謝してくれ。 まぁ、嬢ちゃんなら自力で何とかしてしまいそうだがな」
クルキさんは、豪快に笑う。
私一人で何とかなっただろうか。
ゴブリンは、数が多いが何とかなっただろう、でもこの上位種は?
ショートソードに先鋭化の付与を付けても切れただろうか。
難しい所だ。
どちらにせよ、簡単ではないだろう。
「それは、どうでしょう? 全力で戦ってどうなるかは判りませんね」
「出来ないとは言わないのが、嬢ちゃんらしいな」
笑いが起こる。
今は、全員が無事を喜ぼう。
私達は、コウの町への帰路についた。
その空に、うっすら模様が浮かんで消えた。
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