第106話 流転「エピローグ」
熊の魔獣がゆっくりと倒れていく様子を、まるで夢を見ているかのような気分で見ていた。
私、アンはギルドマスターの一人娘で、色々あって未だに家の敷地から出して貰えない。
でも、魔獣がコウの町に向かっているということで、慌ただしくなっている中を利用して、こっそり抜け出した。
2番目の壁から、父の遠眼鏡を使って見る。
私は、この時まで、私でも魔獣と戦うことぐらいは、武器さえ有れば出来ると思い込んでいた。
西の門を砕いて出てきた、その熊の魔獣は、私がへたり込むには十分なほど凶暴な気配を放っていた。
熊の魔獣に対して、コウの町のほとんどの守衛と冒険者達が全力で戦っている。
それでも倒せない。
ついに、門の内側に築いた防壁を崩して、出てきた。
怖い。
恐怖が身体を硬直させる、煙をまとって、ゆっくり動く魔獣。
近くの守衛と冒険者達は、逃げ出してしまっている。
私も逃げないと、そう思った時、一人の冒険者? 兵士みたいな子供が魔獣に向かって行った。
信じられない、よく見ると、マイだ。
私より年下なのに一人で活動している冒険者、父、ギルドマスターと何度か話をしている謎の子。
勝てるわけが無い、このまま魔獣に殺されて喰われてしまう。
私の血の気がひいていくのが判る。 目が離せない。
なぜ、あそこに立つことが出来るのだろう?
すると、3つの冒険者チームがマイの周りに集合する。
そして、戦いが始まった。
防壁の所での戦いとは違った、凄い技量の攻撃が魔獣を襲う。
マイは、動かない?
いや、誰かと一緒に進んでいく。
熊の魔獣が大きく態勢を崩した時、一気に接近した。
そして、マイが熊の魔獣の頭の下に潜り込んだのが見えた次の瞬間。
ドゴゴォォ!!!
すさまじい音と共に、熊の魔獣が跳ね上がる。
マイがやったんだ。
ゆっくりと熊の魔獣の巨体が後ろに倒れていく。
大きな音と共に熊の魔獣が仰向けに倒れて、そのまま動かなくなる。
呆然とみていて、マイの事を思い出して探す。
マイは、他の女性冒険者と何か話をしている。
そして。
「熊の魔獣の討伐を確認したぞ!」
「「「おおおおおおおお!」」」
雄叫びが響いた、倒したんだ。
あの熊の魔獣を。
多くの人達が戦った、それは判る。
でも、マイが倒した、あの小さい女の子が、無愛想で、でも私を助けてくれたあの子が。
私にもなれるだろうか、マイみたいに。
■■■■
領都コウシャン。
その領主の元に、領内の各所からの報告書が次々と届く。
「おおむね、予想の範囲のようですね」
領主の補佐官をしている男性が声を掛ける。
「ああ、だが他の領と比べると若干多いようだが、それについては?」
「はい、これは単純に探索する量が他の領では少ないためかと思います」
その回答は、判りきっていたが、今ひとつ不審に思う。
理由は判らない。
「もう少し、詳しく情報を解析させよ、増え方の変化がどうも気になる」
「はい、文官に指示を出しておきます」
幾つかある報告書の中に、コウの町の魔獣に関する顛末が書かれた報告書が有った。
ある冒険者が誤って魔獣に攻撃し、町へ引き寄せてしまった。
10メートルを超える巨大な熊の魔獣だ。
町での防衛戦になったが、元々コウの町は昔の要塞都市の後を再利用した町であり、防衛力は強い。
結末も、外壁の門は突破されたが、その内側に用意した防壁で見事に討伐したとの事だ。
最近では、3つのダンジョンが見つかった町、魔物が発生した町。そして、今回を含め計2匹の魔獣。
他の町と比べても、多い。
それぞれなら、他の町でも発生しているが、全てが起きているのはコウの町だけだ。
視察団を残しておいて正解だったと振り返る。
他の領の状況も確認する。
ダンジョンの発生も、魔獣・魔物の発生も、だいたい似たり寄ったりで、この領より少し少ない程度だ。
この少しは何が原因なのだろうか?
本当に探索が行き届いていないのなら、未発見のダンジョンからの魔物が発生が増えているはずだ。
補佐官が、思い出したように、一通の報告書を取り出して、報告する。
「それともう一件。
謎の塊、改良されたダンジョンコアですが、王都の時空魔術師に無事に引き渡しが終わったとの知らせが届きました。
おそらく、そろそろ王都に届いている頃では無いでしょうか?」
「そうか、まぁ、あんな塊で、お喜び頂ければそれに越したことは無い」
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