第104話 流転「町での戦い2」
西の門。
そこには、冒険者と町の守衛、そして彼らを補助する人達で溢れている。
ギムさんの視察団チームと他に冒険者2チームは既に外に出ていて、魔獣の周囲に展開している。
ワナの設置場所に魔獣が入ったら、ワナとシーテさんの魔法で動けなくする手はずになっている。
私の担当は、魔獣がどの属性の魔法を使っているのかの観察と対策を指示を行う人へ伝える事だ。
ギルドマスターが出迎えてくれた。
「マイ、予想ではあと数時間で姿が見えるはずだ。
見極めの方をよろしく頼む」
足止めや、森への誘導は失敗したようだ、元々、熊は攻撃してきた敵を執拗に追いかける習性がある。
魔獣となると、行動が読めなくなる。
「魔法を使った情報は無いんですか?」
「ああ、何度か攻撃しているが、弾かれている。
肉体強化系なのだろうか?」
「断言は出来ませんが、属性が判らない以上は、その可能性は高いです。
力か防御の場合は、厄介です」
やれる準備は終わっている。
外壁の内側に居る防壁を囲んで待機している守衛と冒険者達の緊張度は高い。
「そろそろ外壁の見張り台に上がってくれ」
「はい、配置につきます」
私は、階段を速歩で上る、外壁の見張り台に守衛隊の指揮官が居た。
他に遠眼鏡で監視している守衛と、伝令をする守衛が居る。
狭い見張り台は窮屈だ。
「遠眼鏡で確認ているが、それらしい物はまだだ」
「いえ、それらしい黒い塊が見えました!」
遠眼鏡で監視してる守衛が叫ぶ。
私は両手を目に手をかざして遠くを見る振りをする。
そして、目を閉じて遠隔視覚、時空魔術を使った遠見を行使する。
大きい。
10メートル位というがそれよりももう一回りは大きい。
そして、頭に折れた矢が数本刺さっている。 致命傷では無い。
魔獣の後方を改めて見る。
冒険者の1人が弓を射るが、刺さらない。
当たったのは内股の柔らかい部分のはずなのに。
おそらく、眠っていたか、油断している時に、倒せると思って攻撃してしまったのだろう。
ギムさんのチームが予定通りワナの近くに配置している。
魔術を解いて、肉眼で確認する。
熊の魔獣が段々と大きくなってくる。
外壁に配置している、遠距離攻撃を行う人達も気が付いたようで身を隠し始めている。
魔獣も、コウの町の外壁に気が付いたのか、1度止り、身体を持ち上げてこちらを見る。
グオオオォォォォ!
大きく吠えると、駆け出した。 とはいえ、極端に早くはない。
想定の範囲内だ、目標を見つけたら突進することは織り込み済みだ。
ドスンドスン
地鳴りがするような足音が聞こえて切る。
全員、まだ隠れている。
まだだ。
遠隔攻撃の範囲に入った! つまりワナの中に入ったのだ。
ワナを設置した冒険者がワナを発動させる。
魔獣の足元に突然大きな穴が出現する、土の属性魔法を使える魔法使いが掘った穴だ、そしてその下には木の槍が配置されている。
ドシャ
グギャァァァァァ!
魔獣が落ちた、が登ろうとする前腕に怪我をした形跡は無い。
地面から鉄製の鎖が飛び出し、熊の頭を捕まえる。 その数4本。
更に、土属性の魔法使いが穴を埋める。
シーテさんの魔術が発動して、土が硬化する。
身体の3分の2を土で固められたのか、流石に抜け出せないようだ。
魔法を使う気配が無い?
指揮官から一斉放射の支持が下りる。
隠れていた弓兵と遠距離魔法使いが一斉に攻撃する。
数十人からの攻撃が襲いかかる。
グオワァ!
魔獣が叫ぶと、全身が炎をまとう。
誰が見ても火属性なのは明らかだ。
私は指揮官を見て頷く。
「火属性だな、遠距離魔法は土属性で攻撃しろ、弓は火が収まるのを待て」
魔獣は通常魔法の6属性のうちどれか、が普通だ。
そして,火属性ならば攻撃は強いが防御は弱い。
防御が弱い?
なぜ、矢が刺さらなかったんだ。
魔獣に土で出来た槍や石の魔法が降り注ぐ。
攻撃は当たっているはずなのに、皮膚に傷を負わせていない。
不味い、何か見落としている。
「防御系の魔法を使っている可能性が高いです。
このまま魔獣の魔力を使い切るまでの持久戦に移りましょう」
「ああ、そうだな。
土属性の魔法使いは間隔を置いて魔力切れを起こさないようにしろ、弓の攻撃を再開、あくまでも相手の魔力を使わせる為だ」
グオオオ!
熊の魔獣は動けずに炎を身体から噴き出してもがいてる。
鎖が頭を固定して更に動きを制限させている。
持久力の勝負になった、町の魔法使いも多くない、正直長期戦は避けたかったが、仕方が無い。
火属性に水属性の魔法をぶつけても実はあまり意味が無い。
火と水では対消滅のような現象を起こすので防御するのには意味があるのが、相手へのダメージとなると別だ。
火に対して効果があるのは土だ、よほどの高温でない限り、炎を通過してダメージを与えられる。
そして、良かったのは熊の魔獣が遠距離攻撃をしてこないことだ。
炎を飛ばしてくると、防御を行う必要があるので、攻撃力が落ちてしまう。
ん? 熊の魔獣が動かなくなった、でも炎は健在だ、何をするのか?
ガシャン!
鎖が切れる、いや溶けた。
炎の温度を上げている。 鉄が溶けるほどに!
地面が、ほのかに赤く光り始めている。
「炎の温度を上げてきています、冷却をできる魔法使いは?」
「居ない、視察団チームのシーテ殿くらいだ」
シーテさんが温度を下げる水魔法を使うのが見える。
判断が速いが、炎の温度の上昇の方が激しい。
熱気が外壁の上に居る私達にも届く。
「木が燃える可能性が高いです! 水魔法で炎を打ち消せませんか?」
「いや,水樽を打ち出せる、やれ!」
元々、石を打ち出すため武器に水樽を乗せて打つ。
多少、外れては居るが、それでも水を浴びせることに成功ている。
水蒸気が立ちこめる。
視界が塞がれた、攻撃が止んでしまう。
「だめ! 攻撃を続けて!」
私が叫ぶが、一歩遅かった。
グオオオオオオオ!
すさまじい熱波が襲いかかってきて、思わず身体を伏せる。
水蒸気も一気に吹き飛ばして、灼熱化した地面から、ノソリと這い出てくる。
なんてヤツだ。
普通の魔獣ならとっくに魔力切れになっているはずなのに。
慌てて攻撃が再開されるが、効果は薄い。
炎をまとった熊の魔獣は、そのまま西の門に体当たりをする。
振動で外壁も揺れる。
ぶつかった衝撃と炎で門の木材が一気に焦げて燃え出す。
塀の上の方から、攻撃を続けるが、あ、土の槍が刺さった!
「魔力が底をつき始めてる、防御が弱くなっています」
「よし、土属性の魔法を出し惜しみするな、鉄の槍を上から落とせ!」
ドスドスドス!
体当たりを続ける熊の魔獣に攻撃が集中する。
攻撃が降り注ぐ、まだ半分も通らないがダメージは入っている。
だが、門の方が持たない。
「門がもう持ちません!」
西の門の内側に居る守衛が叫ぶ。
ギルドマスターが叫ぶ。
「全員、攻撃準備! 接近するヤツは水を被っておけ!」
バキバキバキバキ!
数度の熊の魔獣の体当たりで、ついに門が崩れた。
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