第103話 流転「町での戦い1」
私はブラウンさんに誘導されて、冒険者ギルトの裏口から会議室に入る。
何故?
「うむ。 マイ君 来たか。
早速だが、本題に入るぞ」
会議室にはギムさんのメンバーの他に、ギルドマスターと町長、そしてコシンさんもジェシカさんも居る。
関係者全員だ。
魔獣が発生した、なら普通に集団での討伐依頼を出せば良いだけなのでは?
ここで議論をしなくてはいけないことなのか?
「判りました。
けど、なぜ冒険者を招集して集団で討伐の依頼を出さないのですか?」
「それだが、不味い状況になっている。
遭遇した冒険者が攻撃をしてしまって、逃げ帰ってきたのだ。
遭遇した魔獣は熊だ、それも10メートル近い大物だ。
戦った冒険者からは、どんな属性があるのか情報を得られなかった。
問題なのは、森から真っ直ぐ町へ逃げ帰ってきた事なんだ」
他の人は知っているようで、驚いていないが、私はその事に一歩足が後ろに下がってしまう。
魔獣に限らず、肉食獣から逃げる時は、町とは違う方向に逃げて、川や同じ場所をぐるっと回るとかし、泥などで匂いを消して、追跡を躱してから戻るのが基本だ。
そうしないと、町へと誘導してしまうことになる。
「数は? どの程度の時間的余裕があるのでしょうか、何か手は打っていますか?」
私が疑問を口にする。
兎に角、時間との勝負になる。
ここで話している時間も惜しいはずだ。
「マイさん、すでに西の門の閉鎖の準備は出来ています、魔獣を見つけ次第、閉鎖します。
今はどう戦うかが問題になっているのですよ。
時間的余裕は、多分ほとんどありません」
町長のコウさんが答えてくれる。
西の門、つまり宿屋タナヤのある方向だ。
胸が締め付けられる感覚に、手を胸に当ててしまう。
「数は判りません、ただ1匹だけだと思われます」
ブラウンさんが答える。
「でだな。 コウの町の冒険者で10メートルの熊の魔獣と直接 戦える者は居ない。
戦力として使えるのは、我々と、マイ君だけだ。
そして、門の強度を考えるに、町に侵入される危険が大きい。
何とかして、町の前で仕留めたい」
「守衛の皆さんは、戦力にならないのですか?」
「彼らは、対人での戦いは慣れていますが、獣は不得意です。
できて守りを固めるのが精一杯でしょう」
コウさんが言う。
「マイ君を呼んだのは、王国軍の兵士としての知識を期待してだ。
我々は冒険者としての立ち回りは出来るが、正式な領軍の兵士としての活動をしていないからな。
魔獣の討伐経験はあるが、この規模の相手は初めてだ、良い方法が有れば提案して欲しい」
そういうことか、今ここに居る中で、正式な軍に所属していた経験があるのは私だけだ。
徴用兵とはいえ5年間も居たのだ。
魔獣との戦闘経験も後方とは言え何度もある。
そうだ、戦いだ。
意識が切り替わっていくのが判る。
感情が抑えられて、思考が研ぎ済ませれていく。
「大型の魔獣の場合、接近戦だけは避ける必要があります。
弓と魔法、兎に角 長距離攻撃が出来る人を外壁に配置して、近づけさせないように。
門の前にワナを配置して魔法と併用して足止め、そこで集中攻撃ですね。
外壁の外には、視察団チームと力の有る冒険者チームのみで。
可能なら背後からの攻撃で町から引き離して下さい。
突破される可能性が高いのなら、西の門の内側にもバリケード、防壁を作りましょう。
侵入したらそこで囲い込んで長槍と短距離魔法で集中攻撃。
でも相手は巨大です、直接攻撃を避けて、逃げられないような状況にならないように注意を。
数と地の利を生かしていきましょう」
「うむ。 マイ君が居てくれて良かった。
我々では、真っ正面からの防衛戦しか頭になかった」
「私は、部隊が魔獣に襲われた経験があります、その状況を再現しているに過ぎません。
指揮をしていたわけでは無いので、想定外の時の指示を出す人を用意して下さい」
「指揮は、魔獣対応は冒険者でギルドマスターが行うのが良いだろう。
外壁からの守備と防壁を作るのは、町長から守衛を動かすと。
役割分担で行くべきです」
ジョムさんがまとめる。
この方法は手堅いけど、崩されると脆い。
一番困るのが、町中で乱戦になることだ。
門を突破される前にどれだけダメージを与えられるのかが肝になる。
その後、急いで作戦を詰めた。
■■■■
そこからは、慌ただしかった。
町長とギルドマスターからの指示で、西の門の前にはワナを、内側には時空魔法使いが総動員で防壁を作った。
もちろん、私も防壁とワナを作るのに参加した。
西の門は閉鎖されたが、人が通るための門だけは開放されている。
相手は大型の魔獣だから開けておいても問題は無い。
町民は全て2番目の外壁の中に避難する。
2日掛かった。
その間に、風魔法で移動速度を上げられる斥候の出来る冒険者が索敵を行う。
熊の魔獣は、匂いを追ってゆっくりと町に向かっているそうだ。
時間稼ぎの為に、何度か背後から弓で攻撃して森に戻そうとしたが、失敗した。
宿屋タナヤの私の部屋。
私は、装備を整えていた。
冒険者としての装備ではなく兵士としての装備だ。
また、鉄串も追加で入手できた、タナヤさんが贔屓にしている金物を扱う鍛冶屋にあった。
ショートソードも追加で5本用意した。量産品だけど十分だ。
収納爆発を起こすための岩も複数用意した。
「マイも行かないといけないの? 戦わないんだよね」
フミが、いつの間にか私の部屋に来ていた。
考え込んでいて気が付かなかった。
「はい。 戦力にはなりませんが、兵士の時に魔獣との戦闘経験があるので、私の知識は武器になりますから」
「なら、安全な所から指示するだけ?」
「……いえ、最前線です。
指揮を取る人に、適切な助言をしないといけないので」
「マイが居なくても、大丈夫じゃないの? 行かなくても良いんじゃないの?」
フミが、私の腕を掴んで、行かせまいとする。
震えているのが判る。
不思議と、心は落ち着いている。
「少しでも確実に倒す必要があります、なので私は行きます。
ありがとうフミ。 絶対に守るから」
私は、フミの手をゆっくり離して、部屋を出て行く。
タナヤさんもオリウさんも私の決意に気が付いているのか、居間で私を見つめる。
「マイ、絶対に帰っておいでよ」
「夕食を作って待っている」
「ありがとうございます。 行ってきます」
私は、深く礼をすると、宿屋タナヤを出る。
宿屋タナヤを振り返って、何時ものように。
「行ってきます」
西の門に向かって歩みを進めた。
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