第101話 流転「領都からの手紙」

「ふむ。 領都からの手紙かね?」


 ギムさんが確認する。

 おかしい、ギムさんは これを待っていたのでは無いのかな。


 私は、気になって横に居るシーテさんに質問する。


「シーテさん、なんでギムさんは悩んでいるんです?」


「それはね、普通は私達には任務指示書が届くの。

 だから手紙という形は珍しいかな」


 手紙、といってもギムさんが持っているそれは、それなりの厚みがある。

 ギムさんが開封すると、複数の封筒が出てきた。

 その中の一番上にある手紙をを私達に見えないように読んでいる。


 その顔は、困惑の表情を浮かべている。



「ジェシカ君、ギルドマスターと町長との会談の場を設けるように。

 皆、詳細は会談の後に伝えるが、当面 我々はコウの町に駐留する事になる」


 視察団の皆が困惑する。

 それはそうだ彼らは本来、領都を中心に活動する遊撃部隊なのだから、領都から近い町とはいえ小規模なコウの町に駐留するのはおかしい。

 東の町ならまだ、交通の要所なので判るのだが、何故だろう?


 情報が足りない。



 その日、緊急に会談が設けられた。

 ギムさんが宿に戻ったのは、夜も遅くになってからだ。



■■■■



 翌日、宿の部屋に私も呼ばれ、ギムさん達と打合せを行う事になった。


 フミがすごく心配しているけど、大丈夫、と告げた。

 今はね。



「皆、数日中に町長から公示が出るが、先に伝えておく。

 魔獣・魔物の被害が増加していることを、公式に発表する」


 全員に緊張が走るのが判る。

 これは、領内全体での被害が確認できたと言うことだ。


「それに伴って、複数の冒険者がコウの町とその周辺の村を定期巡回することになる」


 うん、それだと私の出番はここまでかな、ソロで出来ることは少ない。


「だが、魔獣・魔物もそう簡単に見つかるものでは無い。

 直ぐに形骸化してしまうことが懸念されている。

 そこでだ、マイ君には冒険者が正しく探索しているのか確認して欲しい」


 へっ。

 えっと、私に憲兵隊けんぺいたいの真似事をしろというのだろうか?

 個人的にはあんまり嬉しくない、内輪での内定をするのだからバレたら冒険者全員から嫌われる。


 私が、すごくイヤそうな顔をしているのが判ったのか、ギムさんが補足してきた。


「いや、内偵を行えとは言わない。

 どちらかというと、もし何かあった時に助け合えるように、冒険者の様子を確認して欲しいのだが、難しいか」


 それでも、困難だと思う。

 私一人で確認できることは限られているし、そもそも私はコウの町に来て1年も居ない新参者だ。


「正直、難しいですね。

 私も、まだ来たばかりの新参者ですから、目立って様子を確認するような事は出来ないと思います」


「ちょっと待って下さい。

 この役目は本来、我々が行う事ではないのですか、ギム」


 ハリスさんが、少し怒り気味に言う。

 この人が感情を表に出すのは珍しいな。


「うむ。 そうではあるが、我々は目立ってしまっている。

 出来れば、事情を知っていて動いてくれるマイ君に手伝って貰いたいのだ」


「とはいえ、ようやく町に落ち着いたばかりの彼女に、それを頼むのは酷でしょう。

 頼むのなら、ギルドの職員であるジェシカさんにするべきです」


「うーむ。 しかしなぁ、冒険者の方からの確認も必要だ」


「えっと、なら今まで通り探索と薬草採取の依頼をこなしながら、周囲の状況を確認というのは、どうでしょうか?」


 ハリスさんとギムさんが少し険悪になってきたので、折衷案を提示する。

 私はあくまで今まで通り探索を行って、その結果として他の冒険者の様子も報告すると。


「それとですね、どんな感じで公示されるんでしょうか?

 今の状況では、何処まで危機感を持って良いのか判りません」


 そうだ、公示の内容によっては、冒険者達がどう動くのか判らない。


「うむ。 そうだったな。

 微増しているので、一斉に探索して討伐する。 というのが建前だ」


「建前?」


「原因が不明なのは事実だ、その原因を探すための指示だな」



 そうか、魔獣・魔物の被害が増えている、しかし、原因は分からない。

 それが放置できないほどになったということなのか。


 だからこそ、正確な探索が必要になる。


「ああ。 だからこそマイ君に冒険者の様子を見て貰うのが必要になる。

 情報の正確性を確認する必要があるのであるからな」


 それと、もう一つの疑問があった。


「で、なんでギムさん達は、コウの町を拠点にするのですか?

 拠点なら東の町の方が動きやすいのでは?」


「それについては、割り振りの都合上だな、東の町には領軍の別のチームが配置されている。

 コウの町は、ダンジョンが2つ見つかったことで重視されているので、我々が配置される事になった。

 まぁ、冒険者あがりの領軍兵はこういう事が多い。 マイ君が気にする必要は無い」


「そうでしたか」


 そうか、純粋な領軍の兵士ではないので、ギムさん達は視察団という名目で正規以外の任務を割り振られているんだ。

 大変だなぁ。



■■■■



 それから数日して、領内で同じ日に合わせて公示された。

 町長が町民を集めて話す。

 この国での識字率はそれなり高いが、教会での勉強をしっかりしていない人もいる。

 また、仕事の都合上、教会での教育を受けていない人も多い。

 なので、言葉で通達することは続いている。


 コウの町の中に、漫然とした不安感が広がっているのが判る。



「マイ。 マイが冒険者ギルトで仕事している事って、このこと?」


 フミが私の行動と合わせて類推してきた。


「フミ、全部ではありませんが、合っています。

 前にギムさんが言ったとおり、最悪にならないように行動しているだけです」


「危なくないんだよね?」


「……すいません、魔獣・魔物が出た場合は逃げるのが基本ですが、安全とは言いかねます」



 これ以上は、隠せない。

 公示された内容と、私の行動を合わせれば、私が魔獣・魔物に関する活動をしていることは明白だ。

 でも、フミをこれ以上に不安にさせたくない。


「大丈夫です。

 私は、逃げることに関しては自信があります。

 ソロだからこそ、周りの人を気にせずに動けますしね」


「マイ?」


「ここだけですが、前に魔獣が出た時も、逃げるだけだったら、簡単だったんですね。

 だから、私の心配はいりません、他の冒険者が全滅するようなことがない限り」


「うん、絶対だよ。 帰ってこないと承知しないんだから」


 フミが私を抱きしめる。

 私も抱き返す。






「フミが居るから絶対に帰ってきます」

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