第99話 流転「実力」

 ブラウンさんとの手合わせが終わって、再び火の周りに戻って暖まる。

 日が落ちてきて、本格的に冷えてきた。



「で、ギムは、マイちゃんの実力をどう見たの?」


 シーテさんがギムさんに聞く。

 うん、私も知りたい。


「うむ。 弱いが負けないタイプだな」


 はて? どういう意味だろう?


「攻撃能力は正直低い、これは時空魔術師だし体格からも仕方が無い。

 しかし、剣の扱いも身体捌きも一応、及第点はある。

 その技術のほとんどが自身を守るための技術で、マイを倒そうとするとかなり苦労するだろう」


「そうだね、思っていた以上に動けていたのは驚いたよ。

 戦い方は、一撃離脱形で短期で倒せない相手の場合は直ぐに逃げる感じかな?」


 ブラウンさんからも批評される。


「そうなると、冒険者としては難しいですね。

 ほとんどの冒険者は、技術や知識ではマイさんの足元にも及びません。

 攻撃力と体力は逆にマイさんは不利です。

 他の冒険者と一緒に行動するとなると、純粋な時空魔法使いとしてになってしまいます、それは勿体ない」


 ジョムさんが、大盾を背中にしょって寒さを防いでいるのかな?

 難しい顔をしている。


 私の生存確率を上げるために色々考えてくれている。

 正直、何でそこまでしてくれるのか判らない。

 前回の視察の時の怪我の事を負い目にしているのかなぁ?

 何度も、これは最善を尽くした結果だと言って納得して貰っているはずだし、少しこそばゆい。



「遠距離攻撃があれば、安全な位置から攻撃や後衛を行う事も出来るのですけどね。

 今のところ、一番の攻撃手段が、収納爆発でしたか、超近距離の攻撃ですから、悩ましいです」


 ブラウンさんが、さっきまで使っていた木の棒を火にくべる。


 うん、少し私の収納爆発を公開するかな?

 色々改良しているのですよ。



「遠距離は未だ無理ですが、収納爆発で近距離攻撃出来るようになりましたね」


「え、でも、あれは対象との距離がほぼゼロじゃないと効果が出ないんじゃなかったっけ?」


 シーテさん、良く覚えているなぁ。


「はい、でも攻撃対象がゼロ距離に居ないといけない訳じゃないですよ。

 ちょっとやってみます」


 私は、二つの石を拾い、収納する。

 実際にやっているのは、収納空間内にもう一つの収納空間を利用した収納爆発だけど、見た目には区別が付かないはず。


 離れた木に向かって手を伸ばして、収納爆発を行使する。


 ボッ


 収納した石の1つが飛び出し、真っ直ぐ打ち出され、木に向かって飛んでいく。


 ゴッ


 弾ける音がして、それが木に当たる。

 3メートルは離れた木に当たった石はそれなりに弾かれる。

 威力はそこそこだ。

 正直、ギムさん辺りが手で投げる威力と大差ない。



「こんな感じです。

 打ち出した石と手の間に、もう一つの石で収納爆発を発生させたんですね。

 この程度なら、手袋をしていれば、傷一つつきません」


「ただ、まだ動きながら打つのは無理で、失敗するとこうなります」


 今度は、視察団のみんなに説明した、必要な取り出し空間が無い時に発生する収納爆発を使う。

 2つの石を拾って、同じ木を狙う。


 コン


 軽い音がして、打ち出す石が1メートル先にポトリと落ちて、収納爆発させる石がそのままの形で手のひらから地面に落ちる。


「成功率は、まだ半々ですね。

 動きながらだと、10回に1回成功するかどうか、戦闘中だと今は無理です」


 私は、両手を肩まで上げて、未完成品だとアピールする。

 実際は、収納空間内の収納空間を利用した収納爆発なら、もっと広範囲に強力な破壊力をまき散らすことが出来る。

 ただ、これは無難に説明するのが難しい。

 視察団のみんなを信用しては居るけど、領軍に所属している兵士だ、必要以上に情報を出して取り込まれるのも危険だ。



「いいね、飛距離は伸ばせないの?

 これで遠隔攻撃が出来れば、後衛から中衛で戦えるけど」


 シーテさんが言うけど、直ぐに考え込む。


「あ、そうか。

 威力は質量に依存するから、遠距離にするには2つの石を大きくしないといけないし、そうなると飛距離も落ちちゃう」


「ですね、小石程度が今の所はバランスが一番良いです。

 でも、威力が足りていないので、けん制程度が精一杯ですね」



 しかし、不思議だ。

 なんで、視察団のみんなは、私の事を目に掛けてくれるのだろうか、少し恥ずかしくなる。

 今の精神状態は正直微妙だ。

 普段なら、兵士の頃の意識で動いていなければいけない状況だけど、気が緩んでしまっている所が自覚できる。

 気を引き締めよう。



「えっとですね。

 色々教えて貰えるのは嬉しいのですが、その、何か意図があってでしょうか?」


 間違っていたら、すごく申し訳ない。

 おずおずと、ギムさんに聞いてみた。


「うむ。 あるぞ、有るからこそマイ君には力を付けて欲しいと思っている」


「どうゆうことなの、ギム?」


 ぶっちゃけるなーこの人。 本当に視察団長なんだろうか。

 で、そこでシーテさんが突っ込むの? 情報共有は?


「ふむ。 まだ話す必要は無いとも思っていたが、良い機会だ伝えておこう。

 今後の事だ。

 もし状況が悪化する方向になる場合、真っ先に魔獣・魔物に対応するのは、マイ君になる可能性が高い。

 この時に、生き残る可能性を少しでも高くする必要がある。

 だからこそ、今不足している攻撃力を増やしたいと考えている」


「なるほど、なら判るわ」


「それとだな、魔獣・魔物の情報が公開された場合、その事を一番理解している冒険者は、マイ君となる。

 そうなると、否が応でも複数人との対応を求められる事が起きえる。

 この時に、自力での実力を示せないと、立場的に不味いことになりかねない」


「団長は、状況が悪化すると思っているのでしょうか?」


 ハリスさんが、確認する。

 でもこれは、最悪を想定した物だと思いますよ、ハリスさん。


「うむ。 あくまでも状況が悪化した場合の対応だな。

 だが、準備は怠ってはいかん。

 今、出来ることならやっておくべきだ」


「そうですね」


「我々は、領都からの指示待ちで暫くコウの町に留まることになる。

 できる限り、この間にマイ君を鍛えるつもりだ」



 有りがたいのですけど、コウの町でのんびり薬草採取の依頼をこなしながら生活したいと思っていたんですが、ダメですか?


「なんだか、面倒なことに巻き込まれてしまっているように感じるのですけど。

 静かに生活したいのですが、ダメでしょうか?」


「いや。 ダメではないぞ。

 ただ、最悪に備えて欲しい、それだけだ」


 私は考え込む。

 ギムさんが言っていることは正しい。

 何も無かったら、ただ実力が上がった、それだけで終わる。

 でも、何かあった時に、力が足りずに後悔することはしたくない。






 私は、覚悟を決めて、ギムさんに向かって言う。


「判りました、私を鍛えて下さい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る