第98話 流転「ダンジョン跡」
お酒が少なかったおかげで、二日酔いは無かったが、タナヤさんが辛そうだった。
そんなに飲んだのかな?
ギムさん達 一行は、ダンジョン跡の視察を行う事になった。
これは、ギムさんの判断で事後承認というのか、行う事を馬で知らせて、了解を取らずに実施する。
ギムさんの視察団に与えられている権限の範囲内なので問題ないとのこと。
それに伴って、私が案内役として指名依頼を受ける。
前回と同様だ、冒険者ギルドで指名依頼を受注すると、ギルドの会議室で場所の確認と、行程を決めた。
今回も、2泊3日でダンジョン跡の確認と周囲の確認を行う。
前回と異なるのは、今回は魔物が発生しており、危険な状態になる一歩手前だったということ。
10メートル位のダンジョンで、ゴブリンが十数匹発生している場合、他の生物を食べるより上位の魔物が発生していた可能性が高い。
そして、その魔物は相応に危険な相手であるということ。
ギムさんより、まだこの傾向は領内で確認されておらず、偶然の可能性も一応あるとのことだった。
「うむ。 今回の視察は、前回同様ではあるが、魔物の発生が確認されている。
ダンジョンの跡の確認だけで無く、残っている魔物の探索も含まれる。
気を引き締めるように」
会議室で、一通り打合せを終わらせると、ギムさんが締める。
「とはいえ、視察自体は前回と同じだと思いますよ」
ブラウンさんが補足してくれる。
「魔獣の発生についても、情報は変わらないですか?」
「はい、微増していますが、誤差とも言える範囲なので要確認です。
今回は、遭遇したくはないですけどね」
「全くです」
私も、また魔獣と戦うのはごめんだ。
「では、出発は明日。
天候は、霧雨の可能性があり、寒さは例年通り、とのこと。
装備で不足している物があれば、今日中に補充を済ませろ。
今回は、マイ君がいるので、多少荷物が増えても構わない。
ただし、マイ君の安全を確実に維持するように。
前回のようなを真似をするんじゃ無いぞ!」
「「「「はっ」」」」
打合せも終わり、補充が必要だと、ジョムさんとブラウンさんが、お店へと移動していった。
ハリスさんは町の教会へ。 ギムさんはギルドマスターと打合せをするそうだ。
私は会議室に残ってシーテさんに、特定の魔力を指定した探索魔術について説明をしていた。
「うん、一応やり方は知っていたけど、結構 精密な制御が必要ね。
でも、ダンジョンコアと魔物の魔力の特徴は分かり易いから何とかなるかな」
「はい、慣れれば、特定の個人を探すなんて事も出来ますよ。
人が多い所では雑音が多いですが、森の中でなら誰が来たかとかも判るようになります」
「これなら、視界が塞がれていても連携を取りやすいかも?
今回は、私が探索魔術を行うだけで済むかもしれいかな?」
魔物の存在は探索魔術で確認できるけど、痕跡に関しては目視で確認するしか無い。
探索自体は行われるだろうな。
少なくても、魔物の存在の有無が判るだけでも他の人の負担は減るだろう。
その後、宿屋タナヤに戻る。
裏庭から水蒸気を含む煙が上がっている、魚料理みたいだ。
フキの葉を使った石窯での蒸し焼きは好評で、宿泊客だけでなく持ち帰りの周囲の住民にも一定量出ている。
なので、養殖魚を常に確保しておいて、臭みを抜いておいている。
臭みを抜くことで、使う香辛料を少なく出来るそうで、より上品な料理になっている。
私は、今日が魚料理なので、楽しみだね。
「マイちゃん、あの煙は何?」
「シーテさん、あれは魚料理の煙ですよ」
「え、えっと大丈夫? というかタナヤさんの料理なら間違いないか。
庶民向けの養殖魚は匂いがキツいと聞いたんだけど」
「それは食べてみてください。
今では、宿屋タナヤの名物料理の一つですよ」
「マイちゃんが言うなら間違いないね、楽しみ」
夕食は、もちろん文句なく絶賛されました。
■■■■
翌日、視察団のメンバーが同じ宿屋に居るので、集合も出発も宿屋タナヤで行った。
視察団全員分の朝食と昼食のお弁当まで作って貰って、みんな恐縮していた。
今回の視察は特段、何もなかった。 何度もあっても困るけどね。
ダンジョン跡の確認も周囲の探索も順調で、違いはブラウンさんが今度は普通のイノシシを狩ってきたぐらいだ。
今回の拠点は、ダンジョンの跡の近くではなく巨木がある湿地帯の近く。
ここも、狩人や森に入った冒険者が拠点として利用している場所で、近くに湧水池があって、地面がしっかりと
「ダンジョン跡の確認した結果だが、消滅を確認した。
また、シーテの探索魔術と周囲の調査で、魔物の痕跡が無いとこも確認できた。
明日は余裕を持って、コウの町へ帰還する予程だ。
最後まで気を抜くなよ」
ギムさんがまとめる。
前回は、最後にイノシシを狩ろうとして魔獣に遭遇してしまった。
その反省があるのだと思う。
メンバーの全員も、気を緩めている様子は無い。
元々精鋭の冒険者チームだ、大丈夫だろう。
「マイ、少し手合わせをしないか?」
夕食を終わり、全員が休憩している時、ブラウンさんが突然そんなことを言ってきた。
「え? 手合わせですか」
「そうそう、マイが近接でどの程度戦えるのか知っておきたくてね。
ついでに、色々指導するよ」
「戦闘は、正規の物じゃないんですが。
それでも良ければ」
私のカスのような近接戦闘能力を知ってどうするんだろう?
正規の手順で軍に配属されていたわけじゃないので、当然だけど正規の訓練を受けていない。
輸送部隊の皆や、その護衛部隊の兵士の人から暇な時間に教えて貰ったぐらいだ。
ブラウンさんが、適当な木の枝を切って、私のショートソードと同じ長さの木の棒を渡してくる。
ブラウンさんは、私のショートソードより長い一般的なショートソードのサイズだ。
「まず、マイから好きに打ち込んでみてくれるかな」
「はい」
私は、ショートソード大の木の枝を片手で構えて、自然体に立っているブラウンさんの顔を目掛けて突きを打つ。
フェイントだ、ブラウンさんがそれを払う前に私は大きく後退する。
「ん?」
ブラウンさんが怪訝な顔をする。
えっと、何か間違っているのだろうか?
「どんどん打ってきて」
「あ、はい」
それからも、何度か打ち込むが、避けたり打ち返されたりするのを前提で動いているので、まともな打ち合いにはなっていない。
「うーん、こっちからも打ち込むよ」
「判りました」
ブラウンさんが打ち込む、早い。
でも、凄く手を抜いているのが判る。
私は、まともに受けずブラウンさんの木の棒を横に叩くように弾いて、また距離を取る。
「ふむ。 マイ君、その戦い方は誰に教わったのかな?」
ギムさんが聞いてくる。
「輸送部隊の同僚や、護衛部隊の兵士の人達から覚えろと言われた戦い方ですが、変ですか?」
「変ではないな、相手を倒す戦い方ではなく、極端に自分が生き残る為の戦い方を身に付けているのか。
マイ君の戦い方は、自分の身を守る為の物だな」
「ええ、私はまともに攻撃できませんから、兎に角一撃で不意を突いて安全な場所へ逃げろと教わっています」
「なるほどね、打ち込んだ後に距離を取るのは、そういう意味だったんだ。
輸送部隊に居る時空魔術師なら、その対応は正しいね。
でも、単独で戦うのなら、相手を倒す戦い方も覚えた方が良いかな」
ブラウンさんが評価する。
うん、判っている。 だからこそ、私は時空魔法で何とかしようとしているんだ。
「判ってはいますが、自力が弱いので武器を使った戦いは苦手ですね」
「マイちゃん、武器に魔法を付与とか出来る?
あと、筋力強化とか身体強化系は?」
「付与魔法ですか? やったことが無いですね。
自身を強化する例外魔法はやったことが無いので判らないです」
身体強化の魔法は一般的な魔法とは考えられていない。
自分自身に行うので、現象として判断できない為だ。
一応、例外魔法とされているけど、戦士のような肉体を酷使する人が無自覚に使っている。
魔法使いや魔術師が率先して使うことは無い。
「じゃあ、付与のやり方は知ってる?
媒介を介した魔力行使だけど」
「あ、それなら出来ます。
基礎魔法なら大丈夫ですね、硬化とあとは先鋭化でしょうか?」
シーテさんが聞いてくる。
うん、今まで武器に魔力を振るなら、時空魔術を使うことに意識が向いていた。
武器に耐久力や切れ味を上げることが出来れば、攻撃力が上がるかな。
試しに、木の棒に硬化を付与してみる。
ブラウンさんが、木の棒を突き出してきたので、叩いてみる、カン、と堅い音がする。
「うーん、堅いけど簡単に折れそうですね、加減が難しいかもしれません」
「それに気が付くのは良いね、堅くしすぎるのも良くないの。
剣の材質と同じで適度の粘りと堅さのバランスね、先鋭化はマイには良いかも」
「そうだね、叩く系は力が必要になるから、切れ味を上げた方が良いだろうね」
ブラウンさんとシーテさんが相談する。
でも、私の場合は、直接攻撃を底上げしてもそんなに効果はないと思うんだけどな。
それに、私は遠隔系の時空魔法がある、個人的にはそちらの攻撃力を上げたい。
相談したい所だけど、私の奥の手だ、隠しておきたいところだ、悩みどころだね。
「マイちゃんの場合は、遠隔攻撃が良いかな?
弓とか興味あるかな」
「弓は、矢を引けないので、断念しました」
「あー、そうか。 とはいえ何か考えたいわね」
私の攻撃力強化案を話ながら日が暮れていった。
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