第97話 流転「けじめ」

 こんばんわ、マイです。

 ただいま、針のむしろに座る気分で居ます。


 ちょっと前までは、和やかだったのに。



 少し前。

 ギムさん達にタナヤさんの夕食を出して、皆と夕食を済ませた。

 近所の噂話とか、雑談をして何時もの暖かい夕食だった。


 ギムさん達の夕食の食器を回収しに行った時も、タナヤさんの料理を絶賛する皆さんと笑い合った。


 で。


 今、ギムさんの男性部屋(6人部屋)に視察団チーム5人と、宿屋タナヤの3名と私の9人が集合しています。

 宿屋タナヤの1部屋が普通より広く取られているとは言え、9人も入れば窮屈です。



 事は、食器を回収した時、ギムさんより言付けを貰ったことに始まる。


「うむ。 女将殿、いや、宿屋タナヤの皆さんと話があるのだがい良いかな?」


 そういう訳で、全員が集まっているのだが、さっきまでの和やかな雰囲気が、一転してピリピリした緊張感が漂っています。

 全員黙っている。


 何が起きているのだろう?



 オリウさんが口火を切った。


「あんたらが、うちのマイに怪我させたんだって?」


 いや、その不可抗力であって、ギムさん達に責任があるわけでは。

 え、『うちのマイ』って?


「うむ。我々の力不足で、マイ君を守り切れなかった、全面的に我らに非がある。

 済まなかった」


 ギムさんが机に付くほど頭を下げる。

 この人、視察団の団長でそれなりに偉い人なんですけど?



「あ、あの。 その件については、もう終わった話なので……」


 全員が私を見ます。 えっと、その、なんかすいません。

 肩をすぼめて、小さくなります。



「ねえ、次の視察で、マイが危険になることは無いよね?」


 フミが、私の肩を抱いて、ギムさんに詰め寄る。


「絶対は無い。

 だが、次こそは守り切ることを約束しよう」


「……なら良い」



 タナヤさんは沈黙している。

 ギムさん以外の皆さんも沈黙している。


 私は状況が掴めず、ワタワタしている。


「ぷっ、マイちゃん動揺しすぎ」


 シーテさんが吹き出す。


「ちょっと意地悪が過ぎませんか、皆さん」


 ハリスさんが苦笑する。

 え、え、えー?



 一転して、部屋の雰囲気が和らぐ。


「ま、詳しいことは話せないのは理解している。

 マイは、話せなくて悩んでいるようだが、気にする必要は無い」


 タナヤさんが、私を見て話す。

 ようやく、この場の意味が判ってきた。


「うむ。 このまま何も無ければ、何も無かったで、墓の中まで持っていって貰いたい。

 皆が知るような事態になるのを我々は避けるために行動している。

 その為には、マイ君の力が必要になる。

 済まないが、今暫く、力を借りることになる」


 この場は、お互いを納得させるための、儀式みたいな物か。


 ギムさん達は、まだ私に怪我を負わせるような事態になったことに負い目を感じている。

 タナヤさん達も、自分達が知らないこ所で私が危険な目に遭っていることに、折り合いが付いていない。


 その片を付ける為の場だったんだ。

 最初から、落し所が決まっていた。


 焦って損した気分だ。


 それ以上に、私が保護されているのに気が付かされた。

 自分1人で生きていける、などとうぬぼれては居ないけど、何とかなると思っていたし、ならなかったらのたれ死ぬだけだ。

 守られて貰えるほどの価値のある人間だとは思っていなかった。



 大切にされている。 こんな私を。



「えっと、え、何で私なんかが?

 ふらりと町に来た素性も判らないのに、ただの時空魔術師なのに?」


 いや、もう目に涙が、決壊寸前ですよ。


「うむ。 マイ君は頑張り屋でいい子だからな」


「ふぇ」


「無理しているのがバレバレなのに、平然としているフリしているのもねぇ」


「ふぁ」


「マイはもう、家の家族だね」


「ぁぁ」


 誰の言葉だか、区別が付かない。

 目の前も涙で揺れてまともに見えない。

 嬉しいのか、恥ずかしいのか、なんなのかもう訳が分からない。


「そんなこと、言わないで下さいよぉ。

 私、自分が生きていて良いって思っちゃいますよ」


「何があったかは判りません。

 ですが、今生きています、なら生きていて良いんです」


「マイちゃんは、もう1人じゃ無いんだから、自分を大切にしないとダメだよ」



 もういいや、笑おう。


「あははは、もう、みんな何ですか。

 もう、私どうしたら良いのか判らないです」


 涙と笑いと嬉しいのと、もう感情がごちゃ混ぜだ。

 訳も分からないけど、兎に角 笑う。


「まぁ、良いじゃないか。

 笑いましょう。 ははははは」


「まったくもう、マイはしょうがないね」


「うむ。 楽しい時は酒だな。

 俺の酒でよけれは乾杯だ」


 その後、お酒をギムさんが取り出して、皆で飲んだ。

 私は、少しだけ舐めただけだったけど、頭がフワフワして気持ちが良くなってしまった。

 フミも同じようだ。



 私とフミは直ぐに眠くなってしまい、部屋に戻った。

 ベッドに入って、思考が鈍った頭で考える。何というのかな。

 自分が今、幸せなんだって、知った。






 私は幸せになっても良いんだって。

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