第8章 流転
第94話 流転「再開」
アンの救助依頼が終わってから、数日経った。
私は、冒険者ギルトの窓口でジェシカさんと話している。
「マイさん、アンさんの事ですが、しばらくの間は自宅で謹慎ということです。
当分は出歩くことは出来ないでしょう」
「半分は、身から出た錆ですけどね。
彼女、冒険者というか森に入る為に必要な技術や知識を学んでいないのに何で無茶な事をしているのでしょうか?」
「それは、おそらく父親のギルドマスターの影響かと、ギルド職員になるために冒険者の実状を身をもって体験したいのかも?」
「とはいえ、単独での行動は自殺行為です。
せめて、信頼の置ける冒険者チームと組ませるべきですね」
「実はマイさんが単独で成果を上げていることが伝わったらしく、自分でも出来ると思ったようです。
あの性格なので、引き受け手が……マイさん?」
「私はダメです。 たぶん直ぐに怒鳴り散らしてしまいますよ」
私は、両手のひらを上に向けて、どうしようも無いとポーズを取る。
「それでですね、次の薬草採取の依頼は少し待って下さい。
確認中ですので」
実のところ、次の探索依頼で少し揉めている。
東と北の森をもう一度探索するというのと、他の森も探索を急ぐべきという意見で割れてしまって決めかねているのが今の状況だったりして。
私としても、両方の意見はもっともで、正直どっちでも良いと思う。
むしろ、探索する人数を増やして、両方を同時に行いたい。
内密に行っている都合上、安易に増やせないのは判っているんだけどね。
「薬草採取の人を増やせれば良いんですけどね」
「現状では、難しいです」
「でしょうねぇ」
この会話が窓口で行われていても不思議じゃない。
冬のこの時期に採取できる薬草は限られているし、数も少ない。
儲けが出るだけの採取は無理で、よほど必要になって買い取り価格が上がらない限り受注する人は居ない。
なので、私のように薬草採取の依頼を主にして居るのはかなり珍しく、コウの町の冒険者では薬草採取を専門にしているということで知られている。
「では、宿屋タナヤで暫くは店員していますね」
私は、ジェシカさん告げて、ギルドを出ようとした。
「邪魔をする」
ドカドカと、複数人の冒険者チームが入ってくる。
見たことの無い顔……ではない、視察団のギムさん率いるチームだ。
職員(ジェシカ)さんの居る窓口まで一気に来る。
「すまないが、ギルドマスターと話をしたい、前回の件と言えば伝わる」
あれ? ギムさん、ジェシカさんとは会っているはずだけど、ここは対外的な対応かな?
「それと、マイ君。
前回の時にも世話になった、今回も同席して貰えないか?」
ギムさんが、ニコッと笑うが、強面の顔だから、ちょっと怖い。
「ええ、構いません。 けど、わっ!」
「マイちゃん、久しぶり!」
「え、シーテさん。 お久しぶりです」
私の後ろから肩を抱いて、シーテさんが声を掛けてくる。 ビックリしたー。
その後ろには、ジョムさん、ブラウンさん、ハリスさんが続く。
「なんとも、タイミングが良いですね」
「何のことだ? マイ君」
私は苦笑いしか出来なかった。
視察団の皆とは又会いたかった、けどなぁ、このタイミングで会うかな?
■■■■
「2つめのダンジョンが見つかっただと!」
冒険者ギルトの会議室で、ギムさんが声を荒げる。
いや、大声は出さないで下さい。
「ええ、北の森の東側で、生きているダンジョンが見つかりました。
また、そこのダンジョンから発生したと思われる魔物も12匹確認しています。
ダンジョンは踏破済み、また、魔物も討伐済みで、それ以上は発生していないと思われます」
ジェシカさんが説明する。
「で、ですねそれを行った冒険者はマイさんなんです」
「なんと。
それは凄いことだな」
ジョムさんが唸る。
東の森の西側と北の森の東側の辺りに発生した魔物とダンジョン。
更に、その前に現れたダンジョン。
コウの町で立て続けに2つのダンジョンが生まれたのは異常なのかもしれない。
ダンジョンを踏破し魔物を狩ったのは、偶然居合わせた時空魔術師の私、マイだ。
本来、戦闘向きでは無い魔術師でありながら、成し遂げたことも異常にとられるかな。
「兎も角、私がどんな経緯でダンジョンと魔物を処理したのか説明します。
まずは……」
私は、2度目の探索依頼の事を改めて、視察団の皆に説明した。
「……と言うわけになります」
「ふむ、見つけるべきして見つけたということか」
「魔物が生まれ始めたばかりなのも運が良かったですね」
ギムさんと、ブラウンさんが言う。
ん? 生まれ始めたばかり、とはどういう意味だろ。
「生まれ始めたばかり、と言うのは、どういうことですか?
発生した魔物と関連が?」
少なくても、現状で生まれ始めたばかりと判断する材料は魔物しかない。
「うむ、現物を見ないと断定は出来ないが、ゴブリンで間違いないだろう。
魔物の中でも最下級だが、とにかく増える。
数の暴力で押してくるから厄介だが、それ以外は大したことは無い。
ダンジョンでは、まずゴブリンが生まれる。
その後は、色々だがより強い種類の魔物が生まれる。
ゴブリンは、その魔物のエサになることが多いらしい」
「エサ? ですか」
「ああ、ゴブリンは兎に角、生き物を集めて貯める習性がある。
別に食べるわけでもないのだけどな。
で、次に生まれる強い種類に集めた生き物毎食べられちまうんだ。
もっとも、その頃にはかなり増えているから、食べられた方が都合が良いんだが。
食べた魔物は力を付けるから、痛し痒しだな」
ああ、理解が追いつかない。
ええっと、なんだ。
あの緑の小さい魔物はゴブリン、これは判った。
で、ゴブリンは増えながら、働きアリのようにエサとなる生き物を集め続ける。
うん、で次だ。
より強い魔物が生まれる。 ゴブリン毎、集めたエサを食べる。
なんでだろう?
まるで、より強い魔物を生まれた時のために働くゴブリン?
「より強い魔物が生まれる条件は判っているのですか?」
少し考え込んでから、ポツリと口にする。
ギムさんが、目を開いて驚いている。
「そこに気が付くか、魔術師らしくないな。
強い魔物は大きなダンジョンから生まれる。
そして、ダンジョンは魔物が増えることで成長する。
成長したダンジョンは、より多くの種類の魔物を生み出せるようになる。
発見次第、処理することが義務化されているのもそのせいだ。
時間が経つほど手に負えなくなる」
ダンジョンが成長するなんて、そんな文献読んだこと無い。
そもそもダンジョンに関する文献が少ないのもあるけど。
「もしかして、それはかなり重要な機密だったりします?」
「もしかしなくても、そうですよ」
ブラウンさんが言う。
聞きたくなかった。
あ、ジェシカさんも頭を抱えてる。
「兎も角、話に聞いた限り、次の魔物が生まれていてもおかしくない状況でした。
運が良かったと、言っていいですね」
ブラウンさん、綺麗にまとめたつもりですか?
役場の担当コシンさんが、ノックをして入ってくる。
「町長が予程を空けました、館の倉庫の方へ、皆さん移動して下さい」
ゴブリンの検分をしてもらおう。
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