第93話 探索「エピローグ」
町長の館の奥にある、倉庫の中。
町長のコウさん。
役所の担当のコシンさん。
ギルドマスターのゴシュさん。
冒険者ギルトの担当のジェシカさん。
そして、私、マイ。
倉庫の隅の机を囲んでいる。机には北の森の詳細地形地図だ。
「マイ、魔物とダンジョンのこと、疑っているわけではないが本当なのかい?」
コウさんが聞いてくる。 当然だろう。
「はい、残念ながら。
ダンジョンの発見場所は、ここ。
その直ぐ側で、アンさんが魔物に襲われていました」
「な、ならアンは本当の事を言っていたのか、それなら何で事実だと言ってくれなかったのか!?」
ゴシュさんが、怒る。
気持ちは判らないでもない、今、アンは勝手に森に出て無防備に寝ていたあげく、怪物が出たと騒いでいる。
夢でも見たのだと誰も相手にしなくなってしまい、孤立してしまった。
助けてあげたいのだろう。
「魔物が居た、ダンジョンが有った、それを正式に公表する権限があるのは領主様だけです。
勝手に公表した場合にどうなるのかは、ご存じのはずです」
コウさんがたしなめる。
ゴシュさんは、理解しているが納得できないという感じだ。
「まずは、ダンジョンコアです。 これを。
規模は、前回の物より奥行きが倍の10メートル位でした。
穴の大きさは同じで、約1メートルの円形ですね」
取り出したダンジョンコアは、前回の物よりすこし大きかった。
また、色合いがすこし異なる。
ダンジョンコアが目の前に有ることで、ダンジョンの存在が確かだった証明になる。
「そして、問題の魔物を出します。
全部で12匹です」
倉庫の床に魔物を並べていく。
全員が息を呑むのが判る。
「マイさんが1人でコレを全部倒したのですか?
危なかったのでは?」
ジェシカさんが聞いてくる。
その声には、怯えと震えが含まれている。
「それが、今回の一番の謎です。
ものすごく弱いです。 脆弱で、ナイフでも簡単に切り裂けます。
冷静に対応出来るのなら、子供でも勝てるでしょうね。
あと、知性はかなり低い感じでした」
魔物がこんな脆弱だとは思わなかった。
色々な種類がいるのだろう、で、これは最弱かな。 弱すぎる。
コシンさんが、頭頂部を切り落とした魔物を観察して、倉庫にあったナタを持ってくる。
「ん、コシン、何をするのかな?」
コウさんが聞く。
「町長、確認で1体だけ頭を割る許可を。
マイさんの話が本当なことを証明できます」
「わかった、その1体だけだぞ」
コシンさんが、頭を縦に真っ直ぐ切る、ザク、とおよそ生き物を切る音ではない音がする。
「みなさん、見て下さい。
目が異常に大きく、その分頭も大きいですが、目を除くとほとんどがスカスカの塊です。
脳の部分は、目と目の間にあるこの小さい物ですね、おそらく。
一般的に、脳の大きいほど頭が良いとされています。
なら、この大きさでは、大した思考能力はないでしょう。
それに骨がありません、まるで野菜でも切っているような感覚でした」
知能の高さは脳の大きさ、もしくは身体の比率で決まると学習した。
脳が小さくても身体も小さければ、頭が良いことも多い。
理由は知らないが、小動物でも賢い生き物は多い。
だが、一般的には脳が大きければそれだけ知能が高いと言える。
そうか、スカスカの部分は何の役割も無いから、攻撃しても何ともなかったのか。
「あ、血が出ていない」
今更ながら、気が付く。
切断面には液体が染み出ているが、血液が無い。
「確かに、これはどんな生き物なんだ?」
ゴシュさんが、聞く。
私も知りたい。
「それは、誰にも判らないでしょう。
それこそ魔物はこういう生き物だとしか言えません」
コシンさんが頭を振る。
「とにかく、これは厳重に保管する。
領主様へも直ぐに早馬を出す。
また、このことに関して、口外することは一切禁止する。
マイさん、探索依頼ですが、より一層密に行って下さい」
コウさんが宣言する。
思っていたとおりの展開だ。
「判りました、これが偶然なら良いのですが、楽観は出来ないですね」
「私の方でも、マイさんが探索する場所の見直しをします」
ジェシカさんも答える。
「ゴシュさん、安易な行動はしていように。
むしろ、アンさんが迂闊な行動をしないように正して下さい」
「はい、判っています」
ゴシュさんは、苦渋の顔だ。
アンが真実を言っている証拠が目の前にある、だけどそれを口にすることは出来ない。
すこし心配だ。
■■■■
視察団の一団が街道を馬で移動している。
「リーダー、これで領都に戻れるんでしょうか?」
視察団のリーダーのギムに、ブラウンが背中の弓の位置を直しながら質問する。
「ああ、例の塊は、王都からの使者様と一緒に王都へ。 今頃は出発しているだろうな」
ギムが答える。
「だが、その前に、例の塊が出た村とコウの町に寄る。
確認だけだが、視察した俺たちが行う」
「あ、じゃあ、マイちゃんに会えるのね」
マイと同じ魔術師の女性シーテが喜ぶ。
魔術師同士が会う機会は少ない、ましてや同性だ。
また、マイを気に入っている、今度はどんな魔術に関しての話をしようか?
「なら、宿屋タナヤに泊まるのはどうですか?
仲間内で今、食事が旨いと評判なんですよ。
コウの町で物資調達した部隊が絶賛していたんです」
「高級宿じゃなければ構わんぞ」
ジョムと呼ばれる大盾を背負う男性が宿屋を薦める、どうやら食にうるさいようだ。
「ジョムさんは食通というものなのでしょうか?」
物腰の柔らかい口調で教会から支給される装備を身に付けているハリスが微笑みながら聞く。
「ジョムは食い物には妥協しないからなぁ、作る料理は旨いんだが、こっちが作る時は神経使うよ」
ブラウンが少しからかい気味に言う。
皆で笑い合う。
視察団の一団は、コウの町へと進む。
コウの町で、ダンジョンと魔物が発生したことは未だ知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます