第92話 探索「報告」
探索3日目。
自分の収納空間の中で目が覚める。
少し憂鬱だ、魔物にダンジョン、報告したらどんな面倒が起きるだろう。
でも、起きてしまったことはしょうがない、どうにかなるだろう。
身支度をして、現実空間の様子を確認する。
周囲に誰も居ないことを確認する。
ん? 収納空間に居る時でも、現実空間に対して探索魔術が使えないか、使えると便利だけど。
試しに、探索魔術を行使してみる。
ダメでした。
現実空間の様子を確認している状態でもダメで、身体の一部を出してもダメだった。
うん、これは保留。 諦めたわけじゃ無いよ。
朝食も、夕食と同じメニュー。 パンと乾燥肉にチーズ。
寒かったので、パンの上に乾燥肉とチーズを乗せて、軽く火の魔法で炙って食べた。
改めて、ダンジョンの周辺を確認する。
探索魔術も可能な限り入念に行う。 うん、大丈夫、何も見つからない。
昨日決めたとおり、今日は真っ直ぐコウの町へ戻る。
ジェシカさんなら、私が早く戻ったことと、アンの事から何かあったと気が付いてくれるだろう。
朝の冷え切った空気の中、移動を開始する。
時折、鳥の声がする。
あれ? 森の様子が何時もの感じに戻っている。
探索魔術を広く行使してみる、幾つかの小動物が活動しているのが判る。
もしかして、ダンジョンが発生すると、動物たちが怯える?
可能性はある、魔物はこの世界に住む全ての生き物を貪欲に食べ尽くす、と言われている。
なら、怯えるのは当然だろう。
森を抜ける。
何時もとは違う道だったせいか、北の森の入口より東側に出てしまった。
まぁ、誤差の範囲かな。
北の門に入る。
守衛さんも、名前は知らないけど顔見知りの人だ。
「あれ? 北の森だったのか?」
「いえ、東の森から入って北に登ってから西へ移動しながら薬草採取して、北の森から出てきた所です。
ちょっと有りまして、東の門まで戻るのを止めました」
通常は、東の森に入るのに東の門から出て、東の門へ戻る。
今回のように、東の門から出て北の門に戻るのは、特に禁止されていないが、混乱のもとなので暗黙的に避けられている。
「あー、ギルドマスターの娘の件か。
ソロの女性冒険者が発見したと聞いたが嬢ちゃんだったのか」
「そういうことですね。
家出娘が、ギルドで何しているのか思うと憂鬱ですよ」
「あー、頑張れ」
「まぁ、頑張ります」
守衛さんも、アンが北の門を出てから戻らなくなったこと、冒険者が連れて帰ったことは知っているから、気に掛けてくれる。
何処をどう話が回ったのか、発見者の外見も伝わっているようだ。
取り敢えずは、冒険者ギルトだ。
コウの町を真っ直ぐ抜けて、冒険者ギルトへ入る。
あ、アンが騒いでる。 近寄りたくない。
「あ、マイ!
やっと帰ってきた、ねぇ! あなたも見たでしょ、あの怪物!
私を見つけたのはあなただって聞いたわよ!」
うわー、予想通り騒いでるよ。
しょうがない、近寄って言う。
「何を言っているのか判りません、私は寝ているあなたを見つけただけです」
「うー、だって本当に見たんだもん!」
癇癪起こして、床をダンダンと踏みならす。
はぁ、本当に子供だ。
その人混みを抜けて、ジェシカさんを見つける。
窓口に移動してくれたので、私も移動する。
「マイさん、今回はアンさんの発見ありがとうございます。
ギルドマスターも感謝していましたよ。
今回の収穫はどうでしたか?」
周りに人が居ない事を確認して小声で、ジェシカさんに告げた。
「魔物が居ました、ダンジョンも。
両方とも処理しましたが、早急に広い場所と関係者が集まる手続きを」
ジェシカさんの表情がこわばる、が直ぐに何時もの職員スマイルに戻る。
周囲を確認しながら小声で、私に答える。
「判りました、直ぐに手配します。
では、アンさんの怪物というのは、もしかしてですか?」
「はい、でも今は見間違いということにしておいた方が良いかと」
「ですね。
明日の午後に集まれるように調整します。
最優先事項なので」
詳しい話は、明日で良いか。
「では、薬草の納入をお願いします。
予定通りの量は確保出来ました」
「はい、今回は量は少ないので、ここで受け取ります」
ジェシカさんに、薬草の束を渡す。
2回目の探索依頼で、またとんでもないものを見つけてしまった。
はぁ、ただの薬草採取の依頼だけで終わると思っていたのに、どうなってしまっているのだろう。
薬草の納入を済ませて、まだ騒いでいるアンを無視して帰る。
宿屋タナヤに帰る。
「ただいま」
「あ、おかえりマイ!」
フミが走り寄ってきて、抱きつく。
「アンを見つけてくれてありがとう」
私の顔を見て、破顔している。
「見つけたのは、山犬たちですよ、案内されていった先でアンが寝てました。
連れて帰ったのも、探しに来た別の冒険者チームですしね。
私は大したことしていません」
「本当に?
私は、違うような気がするけど」
フミは最近、私の表情から誤魔化しているのを的確に見抜いてくる様になってきた。
うーん、考えていることがバレているようで恥ずかしい。
「もちろん、冒険者チームが来るまで、アンの面倒を見ていましたが、それだけですよ」
ごめん、フミ。
ダンジョンのことも魔物の事も話せないんだ。
「うん、とにかくお帰り。
身体が冷えてるじゃん、いまお茶入れるね」
フミが私を居間に誘う。
私は、マントを入口に掛けて、居間に入っていく。
「おかえり、マイ」
「おう、今回は早いな」
オリウさんとタナヤさんが迎えてくれる。
起きている異常への不安を、今だけは忘れよう。
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