第91話 探索「踏破」

 アンを運ぶ冒険者チームの反応が探索魔術の範囲外に出た。


 考える。

 私は、寝ていたアンを見つけただけ、謎の生物を見たのは、アンだけということになる。

 アンは、この謎の生物について話すと思う。

 だけど、本人の言うことは多分信憑性は低いと取られるだろう。


 アンには申し訳ないが、まずは、これで良いかな?


 ダンジョンに関しては、公表するタイミングを考慮する必要がある。

 これは、前回に私が発見したダンジョンで、迅速に処理されたにも関わらず、視察団が派遣されて、なお今でも正式発表が行われていない事からも推測できる。


 今回のダンジョンと謎の生物おそらく魔物についての視察団が組まれる思う。

 なんだか、事が大事になってきた。


 とにかく、まずはダンジョンを何とかしよう。


 ダンジョンの場所へ移動する。

 少し離れた所で身を隠して入口を観察する。


 カリ、カリ、カリッ


 音がする。

 ダンジョンの入口を塞いだ土の壁を引っ掻いている。

 土の壁を作った時には中には何も居なかったことを確認した、つまり何かがダンジョンから生まれた?


 しかし、不思議だ。

 私がゲンコツで叩けば簡単に崩れる程度の強度しか無い薄い壁だ、なぜ崩さない?


 収納空間に収納した謎の生物を確認する。


 2頭身だ、頭が異様に大きい、また目も大きい。

 それに対して、小さい身体に短い足、そして体より太くて長い腕に大きな手。

 目は、は虫類を思わせる目だ。大きな鼻があるが鼻の穴は小さい。

 口は大きい、なのに歯が小さくて何段にもなっている。

 全身は深い緑色で、肌はナメした皮のようにツルッとしている。


 頭を切り裂いた個体を見る。

 頭の断面は、スポンジのようになっている。


 判らない。 こんな生物は知らない。

 魔物で断定しよう。



 ダンジョンを塞いでいた壁の一部が崩れる。

 接近して攻撃する気は無い、だから距離を取って隠れている。


 ボロっと壁が崩れて、中からさっき見ていた魔物と同じ生き物が頭を覗かせる。

 気が付かれる前に殺る。


 遠隔攻撃で、首を落とす。

 本当に脆弱だ、これが500年前に国々を滅ぼしかけた魔物なのか?



 欠けた壁の隙間を利用して探索魔術を行使する。

 中には他に動く物は居ないようだ。


 周囲も確認する。

 特に動く物は居ない。


 よし、ダンジョンに入って、ダンジョンコアを取るぞ。

 前回は、知らずにやったが、今回は事前情報がある。


 土の壁を取り除く。

 そして、今、首を落とした魔物を収納する。


 光の属性魔法で光の球を作り、ダンジョンの奥へ飛ばす。

 奥行きは10メートル位かな。

 一番奥まで一直線で、直径が1メートルくらい、前に見つけたダンジョンと奥行き以外は同じだ。


 光の球を更に3個作り、等間隔で浮かべた、これで中で何かが起きても見えないという事は無い。


 意を決して、侵入する。

 低いので、四つん這いだ、正直こんな状況で戦いたくは無い。


 程なくして、奥に着く。

 ダンジョンコアが浮いている。 よく見ると淡く光ってる。


 つばを飲み込む。 緊張してきた。


 ショートソードでダンジョンコアを突いて落とす。

 淡い光が消える。


 直接触れないように布にくるんで収納する。


 直ぐに出よう。

 何とか身体を丸めて方向転換して、外に向かう。

 前回はどの程度の時間が経過してからダンジョンが消えた?

 思い出せないが、ゆっくり出るだけの時間は有ったはずだ。


 ダンジョンを這い出る。


 探索魔術を行使する、ダンジョンの反応が消えた。

 入口から横にずれる。



 はぁ、疲れた。 精神的に。

 もう少しだ、周囲を警戒しながら、その時を待つ。

 暫く待ったら、その時が来た。



 ブシュー


 大きな音を立てて、ダンジョンから空気が吹き出る。


 ボフン


 そして、前回と同じく、乾いた軽い音がして、ダンジョンが消滅した。

 私は、ダンジョンの場所が判るように、近くの細い木を切り、木の杭を数本用意して、杭を立てる。



 場所を地図に記録しておく。

 ようやく一息つく。


 今から拠点へ戻るには時間が遅い、また、コウの町へ戻るにも中途半端だ、両方とも日が落ちてしまう。

 地図を見て拠点になりそうな場所を確認する。


 少し戻って、湧き水のある湿地帯が良さそうだ。

 移動する。

 ん? 森が開けた。 そして、巨木がある。


 そうか、湿地帯は東の方へ薄く広がっているけど、南の方は固い地面で止まっているのか。

 地面から湧水があるを場所を見つけて、その側を拠点にすることにした。


 地面に落ちている枝木はどれも湿っていて使えないので、収納している木を使って、焚き火を起こす。

 暖かいお茶を飲んで、ようやく落ち着いてきた。

 夕食は、気力が尽きたので、パンと乾燥肉にチーズ、果実を1つ。



 今日有ったことを思い出す。

 探索2日目。

 東の森の西側、その北側から西の方面を探索する予定だった。

 昼を過ぎて折り返し、湿地帯付近までは予定通りで、特に発見も無かった。


 そして、山犬たちが現れて、アンの所へ案内される。


 アンは、魔物に襲われていた。

 なぜ、アンがこんな森の中域から深い所に居たのかは判らない。

 魔物、予想外に弱かった。 脆弱と言って良い。

 そして、ダンジョンが有った。

 前回と同じく、ダンジョンコアを取り除いたら、消滅した。


 ダンジョンが2つ、立て続けに見つかった。

 これは偶然では片付けられないかもしれない。


 明日は、探索せずに真っ直ぐコウの町へ戻ろう。

 この位置からなら、北の門の方が近い。






 火の始末をして、探索魔術で周囲の確認をしたら、自分を収納して早めに寝た。

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