第90話 探索「魔物」

 アンが、謎の生物に襲われている。

 私は、戦う決意をした。 立ち上がり、姿を見せる。

 山犬たちも戦うつもりなのか吠える。



 キキキキキー


 3匹が私に向かってきた。

 が、坂を登ってくる様子は、走っているようなのにノロノロしている。


 アンは、私が現れたことに気が付いていない、

 鉄串を使った遠隔攻撃を仕掛ける、頭に刺さる、が手応えが無い、スルッと頭を突き抜ける。

 そして、何事も無いように向かってくる。



 焦る。


 頭を貫かれて平気なんて有るのか?

 次は、バレる危険があるが、ショートソードの遠隔攻撃で首を狙う。


 サクッ


 キッ


 何というのか、ニンジンを切った時のような軽い手応えで、首が切れる。

 脆弱な生き物なのか?

 こてんと倒れて動かなくなる。


 アンを見る、と、丁度足を滑らせて転げていた。

 転げて、動かない。

 何処かをぶつけたのか。 気を失った?


 私に向かってきた残り2匹を遠隔攻撃で首を跳ねる。



 取り敢えず自分への脅威は無くなった。

 目を閉じて、アンの周囲を確認する。

 アンは気絶しているようだ、そして、そのアンに掴みかかり、何処かへ引きずろうとする謎の生物。


 今なら、アンに気が付かれないうちに倒せる。

 ただ、遠隔攻撃には距離がある、接近しよう。


 私は、斜面を駆け下りる。

 ついでに、向かってきていた謎の生物も収納する。


 山犬たちが付いてくる。 アンの周りに位置取って、謎の生物に吠えて威嚇する。

 謎の生物たちがオロオロしている。


 その隙に、接近して首を遠隔攻撃で落としていく。



 周囲を索敵する、一匹が私の側に隠れていた!?

 掴みかかってくる、近すぎて遠隔攻撃は使えない。


 キーッ


 ショートソードで、斬りかかる。

 大きな頭の頭頂部を、サクっと切り裂く。 普通なら致命傷だが、鉄串で効果が無かったのだ、気を抜かない。

 案の定、何事も無く向かってくる。


 掴みかかってくる腕を取って、捻りあげるようにして、体重を掛けて倒す。


 ボキン


 あっさり折れる。 驚く。

 なんなんだコレは?


 謎の生物の身体に体重を乗せて動けなくする。

 暴れる謎の生物の首をゆっくりと手に持ったショートソードで切り落とす。


 改めて探索魔術を行使する。

 周囲には、山犬たちの反応しか無い。

 いや、別の反応が出てきた。



 ダンジョンだ。


 この謎の生物が魔物なら、ダンジョンが有っても不思議では無い。

 汗が流れるが、とにかく今の状況をどうにかしよう。


 まず、アンの様子を確認する。

 アンは、気を失っている、が、何処かを怪我している様子は無い。

 なんとか、木陰に移動させて、背嚢を枕にして寝かせる。


 謎の生物を全て収納する。

 これが魔物なら、今、知られるのは良くない。


 ダンジョンの位置を確認する。

 近い、様子を見に行く、あの変な生き物が未だ居たら厄介だ。


 ダンジョンは、以前、私が見たダンジョンに酷似していた。

 幾つかの属性の探索魔術を使い、周囲と内部に何も居ないことを確認する。


 念のため、謎の生物の魔力を元に、謎の生物のみ特化した探索魔術を行使してみたが、反応が無かった。

 今のところは、全て討伐できたと思って良いか。

 でも、ダンジョンから別の魔物が生まれる可能性は高い。


 土の魔術で、簡単だがダンジョンの入口を塞ぐ。

 正直、気休めだ。 わたしの土属性の魔術では、土の壁と言うより板で強く押せば簡単に崩れる。

 これで良い、崩れたなら何かが出たか、入ったかが判る。



 アンの所に戻る。

 アンはまだ目を覚まさない。


 山犬たちは、私達の周りに居たが、もうリラックスして座り込んだり毛繕いしている。


「ありがと、おかげで助けられたよ」


 山犬たちにお礼を言う。


 クハァ


 大きなあくびをしていたり、のんびりしているものだ。

 改めて数を数えると、7匹の家族かな、私の一番近くに居るのがリーダーのようだ。


「ねえ、これお礼だよ」


 私は午前中に狩った群れウサギから3匹取り出して、リーダーの山犬の前に置く。

 山犬たちが起き上がり、リーダーと数匹が群れウサギの匂いを嗅ぐ。

 リーダーが私を見ると、ワン、と言い、数匹がウサギを加えて森の中に入っていった。


 お礼待ちだったのかな?



 さて、どうするか悩む。

 謎の生物をアンは見ている。 多分、そのことについて話すだろう。

 誤魔化すことは可能だけど、どうするか?

 そもそも、アンを担いでコウの町まで戻る体力は無いぞ。


 悩む。


 時折、探索魔術を行使していたら、反応が増えた。

 これは多分人かな?


「おーい、誰か居ますか?」


 私が声を大きく語りかける。


「ああ、誰だ!

 今からそっちに行く!」


「助けが必要なので、お願いします!」


 程なく、5人組の冒険者が現れる。

 あ、冒険者ギルトで、よく見る人たちだ。


「あ、マイじゃないか、お前もアンの捜索か?」


「いえ、私は何時もの薬草採取ですよ。

 で、彼女を見つけました」


 足元で寝ているアンを見せる。


「丁度良かったです。

 私一人では運べなかったですし、いつ目が覚めるのか判らなかったので、どうしようかと困っていた所なんですよ」


「なら、俺たちが運ぶよ。

 アンの救助者はマイだな、運賃分は分け前をくれよ」


「いえ、私は救助依頼を受けていないですし、偶然見つけただけです。

 依頼料は全額貰って下さい」


「良いのかよ、こっちは有りがたいが」



 この冒険者チームも、副業としてやっている人たちだが、冒険者としての経験が多いベテランになる。

 若い私から、報酬を横取りするようなのは気が引けるのだろう。


「うーん、では、私が偶然発見したことは伝えて下さい。

 発見に協力したしたという、救助に貢献をしたことが私の報酬ということで」


「判った、マイがそれで良いのなら、そうする。

 所で、どういう経緯で見つけたんだ?」


 報告する必要上、知りたいよね。



「私は今回、東の森の西側を中心に薬草採取をしていたんです。

 で、山犬たちがやってきて、私をここへ誘導したんです。

 そうしたら、気を失っている? 寝ている? アンを見つけました。

 あ、なので発見者は山犬たちですね」


「なるほどな、こんど山犬たちに会ったら、お礼をしないといけないか」


「それは大丈夫です、狩った群れウサギを3匹ほど渡したので」


「そうなると、群れウサギ3匹分、マイが損してないか?」


「そう言われると、そうですね。

 群れウサギ3匹分の報酬を貰えます?」


 私は、冗談めかして言ってみる。


「あはは、いいぜ。 群れウサギ3匹分の報酬を渡す。

 で、これからコウの町へ帰るのか?」


「いえ、薬草はもうちょっと集めないといけないので、残ります。

 しっかし、迷惑かけておいて、よく寝ていますね」


 アンは、いつの間にか可愛い寝息を立てている。


「全くだ、ギルドマスターの心配ももう少し気が付いてあげられない物かな?」


「これは、ギルドマスターとアンの間のことなので、2人にどうにかして貰うしか無いですね」



 冒険者チームと私達は、やれやれという感じになった。

 冒険者チームは、怪我をしている可能性があるとのことで、念のため即席の担架を作り、アンを乗せてコウの町へ帰っていった。


 それを見送る私。






 さて、次はダンジョンを何とかしないと。

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