第89話 探索「山犬」
探索依頼の2日目。
何時もの手順で準備をして、出発する。
今日は、東の森の北西側、比較的山よりだ。
地図を見る。
山の勾配は緩やかで、途中からは崖に成っている、行こうと思えば尾根の上まで行ける山道がある。
しかし、今回は時間的な都合で、そこまで行かない。
昼間で進んで、その後は少し西側に迂回しながら、拠点に戻る行程だ。
相変わらず動物の気配が薄い。 なのにざわついている。
冬であることを差し引いても、ここまで気配少ないのはここ最近無かった。
探索魔術にも反応が無い。
薬草採取もした、山の所々にある小さい沢の周辺で採取した。
手の届かない所でも、遠隔収納が使えるので、順調に集まって、一応の必要量は確保出来た。
しかし、本当に動物の気配が無い。
まるで、なにかに怯えて引き籠もっているようだ。
実際、群れウサギが巣穴に籠もっていた。
そおっと、遠隔収納で5匹ほど収納して狩らせてもらった。
それでも逃げない、ちょっと可哀想になって、それ以上は狩るのを止めた。
雲間から太陽が見えた。 ほぼ昼になったようなので、昼食にする。
昼食は、携帯食を真似て作った物を食べた。 小麦粉に色々混ぜて焼いた物。
うん、不味い。
材料自体は合っているはずだけど、作り方がダメらしい。
不味いと思っていた携帯食だけど、かなり工夫して食べられる味にしているんだなぁ。
ちょっと、携帯食を作っている人たちに反省。
ここからは、西側に迂回しながら拠点に戻る。
目印となるものが少ない森の中なので、迷いやすい。
丁度良い機会なので、前回から試行錯誤している遠隔での視野拡張を試してみることにする。
色々試してみて、目を閉じて居る状態で行うと、気持ち悪くもならず、離れた場所の様子を見ることが出来るようになった。
目を開けた状態だと、視覚と収納空間に映った風景がダブって気持ち悪くなり、なかなか慣れない。
また、遠隔取り出しの位置を常に移動させることを試みたけど、1度設定すると解除するまで移動できない。
移動しながら後ろの様子を確認する、なんてことは今は出来ないことになる。
いずれ出来るようになりたい。
周囲の安全を探索魔術で確認した後、上を見て木々の上を遠隔取り出しの位置に設定する。
目を閉じて、その場所から周囲を確認する。
おお、絶景だ。
木々の上から森を見るのは、山の上から見るより近くて面白い。
遠くにコウの町も見える。 山の位置も確認できるので方向を確認するのには使える。
でも、近くの拠点の場所については判らない。 よほど目立つ物がないとダメだな。
時空魔術の行使を止めて、目を開ける。
さて、移動しよう。
戻りは、緩やかな斜面をくだる。
この先に少し開けた場所が有るはずだ。
地図によると、湧き水で小さい湿地帯になっているとのこと。
さっき確認したが、場所は判らなかった、もっと高い位置から見下ろせば判るかな?
グシュ
急に足元がぬかるんできた。
この辺りから湿地帯かな。
見回すと、少し離れた所から森が切れて明かりが見える。
移動するが、予想以上にぬかるんでいて、歩きにくい。
明日の移動の時に、この湿地帯を目印にするつもりだったが、これはダメかなぁ。
地面がしっかりしている所まで移動して、辺りを確認する。
うーん、探索魔術にも反応が無いし、少し早いが拠点へ戻るかな。
この湿地帯の目印になる木を探す。
巨木があるとのことだが、判らない。
もっと湿地帯の中央に行かないとダメなのか? うーん、困った。
ワン!
離れた場所から、山犬の声が聞こえる。
直ぐに探索魔術を使う、数頭の群れが接近している。
どういうことだろう?
あっという間に、山犬たちが私の周りに来る。
興奮している様子があるが、攻撃してくる気配は無い。
私の周りをグルグル回っている。
何だろ?
私が一歩歩き出そうとすると、邪魔をするように立ち止まる。
それで向きを何度か変えると、その方向へ進むように誘導してくる。
何か居るのかな?
「君たち、私を案内したいの?」
私は言葉が通じるはずが無いのだけと問い掛ける。
ワン!
返事が有ったよ。
本当に判っているかは、判らないけど、取り敢えず進んでみよう。
山犬たちは、私をせかす。
迷子にならないように、自分の位置を確認しながら進む。
暫く歩くと、山犬たちが立ち止まって、斜面の窪地に顔を向けている。
斜面の下の方、10メートル位先をのぞき込むと、人が居た。
キー、キー
「いやっ、こっち来ないで!」
アンだ。
あと、何の音だ?
何かと揉み合っている。
状況が判らない。
何か、見ためが小さくて緑色の生物だ、目を閉じて遠隔での視野拡張をする。
アンの側から見ると、見たことも無い生物が、アンに掴みかかっている。
数は10匹程度か?
変な音は、それの鳴き声のようだ。
力が弱いのか、アンに簡単に振りほどかれている。
でも、一向に諦めない、何かに取り付かれたように掴みかかる。
今まで何とかなっているのなら、直ぐに危ない状態にはならないだろう。
キー、キキー
「やぁぁ」
アンの弱々しい声が聞こえる。
とにかく、アンを助ける必要がある。
けど、どうやって?
私の直接攻撃はショートソードだけだ、数が多い相手には不向きだ。
遠隔攻撃は隠したい、特に口が軽いアンが知ったらどうなるか判らない。
躊躇してしまう。
山犬たちが私の顔を見る。
「うん、助けるよ、だけど私一人だと方法を考えないとね」
山犬たちに言う。 通じるわけが無いのに、山犬たちが頷いたように思った。
方法を考えよう、離れた場所から あの変な生き物を誘導して、アンの姿が見えない所で各個撃破が妥当かな。
私の声で、何匹か来てくれれば良いけど、全部来られた場合、遠隔攻撃だけで捌ける自信が無い。
収納爆発を応用した、小石を砕きながら飛ばすのも、けん制にしかならないと思うが無いよりはましか。
やる。
私が覚悟を決めて動き出す。
山犬たちが、威嚇の声で吠える。 戦闘だ。
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