第88話 探索「捜索」

 事の発端は、前回の薬草採取の翌日、ギルドマスターと話をした日まで遡る。


 ギルドマスターのゴシュさんは、アンに対して私への付き纏いを禁止したそうだ。

 渋っていたが、最終的には了承したとのこと。

 そして、翌日に又、家出をした。

 この時は、何時もの事だろうと高をくくってたそうだが、2日経っても帰宅しない。

 町長経由で確認したら、北の門を1人で出て行くのが確認されたが、戻ってきたのは確認されていない事が判った。


 アンの実力については、ギルドマスターも判っているので、流石に慌てた。

 という、事らしい。


 私に出来ることは少ない、東の森の西側、つまり北の森の東側を探索することになるので、もしかしたら遭遇することは出来るかもしれない。

 でも、怪我をしていたら、動かすことは出来ない。


 まだ他人を私の収納空間に入れたことが無い、また、知らせる気も無い。


 ギルドマスターから、緊急依頼という形で、アンの捜索依頼が出された。

 北の森全体なので、参加費と保護した成功報酬になるが、既に人が少なくなった冒険者ギルトで受注するのは数名の狩人だけだった。


「マイ、頼む。 アンを探してくれないか」


 ギルドマスターは、ある程度は私の実力を知っている。

 だから、時空魔術師であっても頼ってくるのだろう。


 しかし、私はアンの安易な行動を責めることはあっても、擁護することは出来ない。


「ギルドマスター、私は明日から予定通り『薬草採取』を行います。

 東の森の西側なので、そちらの方面に移動していたら会えるかもしれません」


 事実上、アンの捜索はついでだと告げている。


「ああ、それでも良い、頼む」


 ギルド職員から、アンの捜索に参加するか聞かれたが、断った。

 あくまで、薬草採取の依頼のついでに行うだけだから。



 フミが、不安そうにしている。

 コウの町での同年代の女性はそんなに多くない。

 顔見知りではあるようだ。


「マイ、あの子はちょっと我が強いけど、悪い子じゃ無いから。

 その、出来たら助けてあげて」


「フミ、助けられるのなら助けます。

 今言えるのはそこまでですね」



 アンを助けるかは、正直判らない。

 遭遇できる可能性も低い。

 そもそも、森に入るというのは自己責任だ、何があっても文句を言う相手は居ない。

 なのに、誰かが助けてくれるのが当然と、根拠も無く思い込んでいるアンは、死にに行くのと同じだ。

 この捜索で誰かが巻き込まれたら、それこそ迷惑を通り越してしまう。


 ふと思う。 私はこんなに他人に冷徹に考えるようになったのかな。


 帰りの買い物も、少し気が乗らない感じで終わった。

 私は、日持ちのする食べ物を多く買い込んだ。


 その晩のフミの料理は残念ながら及第点を貰えなかった。

 付け合わせの香草を刻んだものも、宿泊客に出す時は作っていたもので、特に評価されなかった。

 フミは、アンのことが気になって集中しきれなったようだ。



■■■■



 翌日、私は何時もより重装備をしていた。

 フミが、起きてきて私に近寄ってくる。


「マイ、今日は何時もより色々持ってるね」


「寒さが酷くなる予報ですからね、すこし重装備にしました」


「アンのことお願いできる?」


「見つけたら何とかしますよ。

 今日から多分、捜索する人が増えると思います、見つかる可能性は高いでしょう」


「うん。 マイも気を付けてね、風邪引かないように」


「はい、無理はしませんよ」


 フミと話した後、オリウさんと挨拶してタナヤさんの朝食と昼食のお弁当を頂く。

 あくまでも、いつも通りの薬草採取だ。


「行ってきます」


 宿に向かって挨拶をする。



■■■■



 東の門から出る。

 守衛さんと何時もの会話だ。


「いつも通り、2泊3日ですが、延びるかもしれません」


「ん? もしかしてあの子の事か?」


「いえ、東の森の西側は余り行ったことが無いので、予定外を想定してですね」


「ああ、そうだな。 無理はするなよ」



 東の森が見える丘で朝食を取る。

 タナヤさんの朝食を食べながら、今日の予程を再確認する。


 まず、東の森の西側へ向かう、小さな池のある場所が今回の拠点となる場所だ。

 ここを中心に北の山側と西の森の中を探す。

 3日目は南方向へ森を抜けて、牧草地沿いを東の門の方へ移動する予程だ。


 東の森に入る。


 ん? 何だろう、森の中が騒がしい気がする。

 冬の森だ、基本的には音が少ないはずなのに、気配が騒がしい。

 いつも以上に慎重に行こう。



 以前、ダンジョンを見つけた休憩エリアから西に向かった所、暫く移動すると、小さな池が見えたきた。

 頼まれた薬草の1つはこのような池の周囲で採れる。

 池の周囲を確認して、湧き水が出来ている場所を見つける。


 近くに大きな木の根が屋根のようになっている場所が有った、場所としては狭いが、私一人が拠点とするには十分かな。

 地面の葉っぱをどかすと、地面が平らにならされていた、拠点として使っている人が居るということか。


 ここまでの間、ダンジョンコアの反応も小動物の反応すら感じられなかった。

 少し異常だ。

 ダンジョンコアは兎も角、小動物は冬場でも動いている種類は居るし動いていれば反応が出る。

 全く居ないか、ジッとして動かないかのどちらかだ。


 池の周囲で薬草の採取をする、一応、必要量は確保出来たが、ここでこれ以上採取するのは取り過ぎになりそうなので、止める。


 池の周囲を一周するように周りながら探索魔術を行使するが、反応が本当に無い。


 日が傾いてきたので、拠点に戻る。

 小型の竈を土魔法で作ってみた。 思った以上に、それなりな形のが出来た。

 通常魔法の訓練をしているが、ようやく使える位にはなったかな。



 小さい鍋に、肉と野菜、そして水でこねた小麦粉をちぎって入れる。

 味付けは、タナヤさん特性の味玉だ。

 何でも、旅商人から教わったもので、幾つかの香辛料とペースト状にした野菜を水分が飛ぶまで煮詰め、丸くし乾燥させた物だそうだ。

 乾燥状態ならかなり日持ちがするそうで、これを入れるだけで味付けは完了というお得なものだけど、価格を聞いたら、目を逸らされた。

 特にペーストを作ったり煮詰める工程で手間や燃料を多く使うのだろう、とても市販できる値段では無いらしい。


 忙しい時のまかないを作るように試作した物を、今回分けて貰った。


 直ぐに美味しそうな匂いが漂ってくる。

 火を弱くして焦げ付かないように気を付けながら鍋から直接食べる。

 流石にタナヤさんの料理ほどではないけど、複雑な味で美味しい。

 こねた小麦粉もツルンとした食感で面白い。


 うん、満足。



 1日目の成果を確認する。

 拠点の構築は出来た。 雨が降るとちょっと心許ないけど。

 拠点の周辺、池の周りの探索では何も反応が無かった、有るはずの反応も無かった注意しよう。

 ダンジョンコアの反応も無い。

 ただ、以前に視察団のメンバーがこの辺までは探索しているはずなので、見つからないのは当然だと思う。


 また、アンの反応も無かった。

 まだ、東の森の西側とはいえ大して移動していない。

 見つからないのは当然だろうな。






 私は、火の始末をすると、自分の収納空間に入って、いつも通り休んだ。

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