第85話 探索「トラブルメーカー」

 コウの町に入る。

 今回は、初回にして色々あったけど、今まさに問題が後ろから付いてくる。

 気が重い。



 ギルドマスターの娘という少女、アン。

 ギルドマスターとは会ったことは1度しかない、視察団との打合せの時だ。

 だけど、会話らしいものはしていないので、人となりは判らない。


 兎も角、無視だ無視。


 冒険者ギルトに着いてもまだ一定の距離を保って付いてくる。

 ため息しか出ない。


 窓口にはジェシカさんが居ない。

 うん、どうしよう? と思っていたら、事務室の奥の方から出てきて私に気が付いてくれた。


 窓口にジェシカさんが座って、それに合わせて私も窓口に行く。

 で、なぜかアンが私の直ぐ横に居る。


「何の用ですか?」


「いちゃわるいの?」


「悪いですね、人の依頼を横取りしたいのですか」


「そんなわけないもん、いいじゃん、別に居たって」


 ジェシカさんが頭に手を当てて困っている。

 毎回こんな事しているのか。


「職員さん、すいません話を聞かれたくないので別室でお願いします」


「そうですね、ではこちらに」


「ち、ちょっと待ってよ。私も一緒に居て良いでしょ!」


「ダメです」


「ダメですよ」


 未だ付いてこようとする。

 ジェシカさんと私の二重のダメ出しで頬を膨らませてふてくされている。

 が、流石に付いてこようとはしなかった。



 打合せ用の小会議室に入る。

 私は、部屋に入るなり愚痴をこぼしてしまう。


「はぁ、あのアンという少女は、我が強いというか自分の意思を曲げないというのか、考えが甘いというのか、その、非常に迷惑ですね」


「すいません、マイさん。

 ギルドマスターの娘さんなんですが、甘やかされたせいで、自由奔放なんです。

 最近は冒険者に憧れて、真似事をしています」


「2泊目の山小屋に食料も火の準備もしないで泊まり込んでいましたよ。

 私が居なかったら、帰って来れなかったと思います。

 それに気付いている様子は全く無いですが」


「幾ら何でも、あそこまで行ける訳が、でも居たんですね」


 ジェシカさんが、大きなため息をつく。


「もし、ギルドマスターから何か言われても、私は一切関わりを持つつもりは無いですよ」


「はい、マイさんは、領主様からの指名依頼中です。

 ギルドマスターでも何も言えないと思いますが、娘さんに甘いので、何とも」



 気持ちを切り替えよう。

 関わらなければ、無害だ。


「所で、ジェシカさん、これを」


 私は、山で見つけた土まみれのダンジョンコアを取り出す。

 ジェシカさんが驚く。


「ま、マイさん。 もしかしてダンジョンが?」


「いえ、見つけたのは土の中でした。

 おそらく昔に自然発生して自然消滅したダンジョンのコアでしょう。

 でも、まだ可能性ですが、小規模なダンジョンの発生はそれなりに有るのかもしれません」


「そうですね。

 今まで、ダンジョンはその存在を見つけて報告されていました。

 マイさんのように探索魔術での調査はしていないですから、可能性は高いかと」


「これが今回の探索依頼に関係してくるとは考えにくいですが、集まってくる情報を分析するためには報告しておいた方が良いですね」


「はい、確かに。 他に何かありましたか?」


「それ以外は特に。

 本当は何も無かったという報告をしたかったのですけどね。

 後は、薬草の買い取りを、ギリギリ赤字にならない程度ですね」


「そこはしっかり採取しているのですね」


 うん、薬草採取は表向きとはいえ、怪しまれないようにちゃんとやっておきたい。

 ダンジョンコアの買い取りと、探索依頼の報酬を含めれば十分儲けは出ている。



「次回は予程通り、今度は東の森の西側をお願いします。

 時期は天候次第で2~3日後でしょうか?」


「そうですね。 ジェシカさん、そちらの方で何か新しい情報は来ていますか?」


「いえ、魔獣・魔物の話もダンジョンの話も出てきていません。

 森の中の異変についての報告ですが、特別おかしいという話も無いですね。

 役場のコシンさんとも定期連絡していますが、新しい情報はないですね」


「それは、良い情報です」


「え?」


「こういう時に来る情報は、大抵は良くないものです。

 まぁ、希に魔物の氾濫の可能性は無いので探索は打ち切りとか、良い情報が来る可能性がありますが、時期的にはまだ先でしょうから」


 町長が森に入る人に対して、変わったことがあれば些細なことでも報告するように指示を出している。

 また、領主からの情報が役場経由の正式なものが無いのは、状況が動いていない、調査し情報を集めている所だと推測できる。


 今、新しい情報が出てきていないのは良い知らせだ。


「では、次回の薬草採取のお願いの時にまた」


「はい、それまではいつも通り宿屋タナヤで店員をしています」



 冒険者ギルトを出る。

 アンは居なくなっていた。 これ以上、関わらないで欲しい。


 辺りが暗くなってきた。

 早く宿屋タナヤに帰ろう。


 自然に早くなる足を、時折押さえて移動していると、宿屋タナヤの近くにアンが居た。

 やけに興奮している。


「マイ、あなた特別な依頼を受けているそうね、私も一緒に受けるわ!」






 頭痛が痛い。

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