第83話 探索「森の奥へ」

 収納空間から現実空間を伺う。

 誰も居ない。 よし。

 身支度をして、自分を収納空間から取り出す。


 室内の冷え切った空気が肌を刺す。

 窓を開け見える外は、薄曇りで低い雲が覆っている。


「今日も冷えるなぁ」


 独り言を言う。


 火を焚いた後の始末をする。

 残り火で火事なんてシャレにならないから、森に入る者にとって常識だ。


 今日の予程を再確認する。


 東の森の北方向を更に深く入る。

 今回、表面上依頼されている薬草の採取を行う。

 ダンジョンの形跡や魔獣、魔物の痕跡の探査も続ける。


 魔獣・魔物が出たら、基本は撤退だ。

 私が勝てるか不明だし、戦えることは出来るだけ秘密にしておきたい。


 昼前に予程の場所に着いたら、東南方向に山を降り、2日目の拠点となる場所に行く。

 ここは比較的よく利用されている場所らしく、山小屋がしっかりしているらしい。



 小屋を出る。

 朝霧が出ている。

 ちょっと嫌な予感がする、道に迷わないように注意しよう。


 森の奥へ進む、斜面がきつくなってくる。

 地形の詳細地図では、山頂に近い周辺は、ほとんど登るのが難しいらしい。

 なので、目標となる場所で方向を変えることになる。


 運良く薬草の群生地を見つけられたので、3束まで増えた。

 ダンジョンコアの反応は無い。

 そして、魔獣・魔物の痕跡は、判るわけが無いので、これについては諦める。

 何か、異常な痕跡があったら考えよう。



 森の中を歩いていると、ふいに森が切れる。

 目の前に、崖のような斜面が現れて、山頂の方は目視できない。


 これは登れないな。

 いや、登ろうと思えば出来る。

 土属性の魔法で足場を作りながら登ったり、風属性の魔法で体を持ち上げるというのもあるだろう。

 でも、基本魔法が苦手な私には難しい。

 目視できる距離でも、遠隔転移は距離が長すぎる。


 ふう。

 折り返しの目標となる岩を探す。

 地図を取り出す。

 目標となる岩は、たぶん少し東側だ。


 斜面を気を付けて歩く、崩落した石だろうかなり歩きにくい。


 目標の岩は、比較的直ぐに見つかった。

 けど、今にも転げ落ちそうで怖くて近寄れない。

 うん、近づかなくて良いか。


 小休止することにした。


 お昼を食べる。

 おなじみのパンと乾燥肉にチーズ、次はなにか別の食事を考えたいな。


 移動しようと立ち上がった拍子に足元の石が崩れて、ガラガラと下に落ちていく。

 この辺に木が生えていないのはそういう意味か。


 慌てて、森の中に入って崩れた石が無い所まで来てから、2日目の拠点へ移動する。


 探索の方も、とくに反応は無い。

 薬草も、1束追加した。


 程なくして、拠点に到着した。

 1日目よりもしっかりとした山小屋だ。


 室内は埃っぽくない。

 誰かが使った?

 火の跡、灰に手をかざす。

 熱は無い。


 うーん、大丈夫かな?



 火を起こして部屋を暖め、湯を沸かす。


 夕食は、簡単な煮物を作って食べた。

 タナヤさんの味に慣れてきて、自分の作っている料理がいかに雑なのか思い知らされる。

 何とかしたい、けど優先度は低い、まだ先だ。



■■■■



 昨日からの検証の続きをしよう。


 遠隔取り出しの周囲の様子を、何らかの形にする。

 現実空間から自身の収納空間内を確認する方法で、その何らかの形を確認する。

 これによって、遠くの様子を制限付きだが見ることが出来るようになる。



 まず、遠隔取り出しの周囲確認の情報を、自身の収納空間内の何かに変換する。


 鏡を連想した、つまり、周囲の様子が映った鏡を思い浮かべれば良い。

 で、直ぐに破綻した。

 そもそもが、鏡は高級品だ、錬金術師や土属性魔術師の作り出す鏡は一般に購入できるものでは無い。

 普通は、鉄の板を徹底的に磨いて綺麗にしたものに姿を映すが、歪んだ姿がぼんやり映るのであまり需要は無い。



 光の属性魔術は使えないか。


 光の属性魔法は通常、光をどうにかする止まりだ。

 しかし、光の属性魔術はもっと多彩なことが出来る。

 光で物を切り裂いたり、温めたり、色々な色を光らせ空間に物体を表示させて幻影を見せたり。


 幻影?


 幻影の魔術を思い出そうとする。

 自分の頭の中にある物の形を、光で現実の空間に彫刻のように表示する魔術だ。

 応用で、目で見ている物を複製して現実に表示する事も出来る。

 影の魔術と併用することで、本物がその場に有るように見せることが出来る。

 実体は無いので、触れることは出来ないが、想像力次第で動かすことも出来る。


 たしか制約は、再現することに対して意識を集中する必要があること、魔力の制御が精密でないと、再現できる形が歪で不自然になること。

 だったかな?


 これは使えないか?


 別に思い浮かべる必要は無い、収納空間から見える現実空間の周囲を収納空間内で幻影として映し出せば良い。

 立体である必要も無い。

 目で見えているのは所詮平面だ。 絵のよう映し出されれば十分だ。


 早速魔術を組み立てる。

 元々ある幻影の魔術の術式を利用する物なので、難易度は低い、はずだ。


 暫くして、最初の魔術が完成した。 変更点は少なくして取り敢えず動く状態のはず。

 まずは光属性で。


 魔術を行使する。



「くはっ」


 魔力が一瞬でゴッソリと減る、が減り続けているわけでは無い。

 一気に減ったことで、フラフラする頭に手を当てて暫く休む。


 多少回復した所で、自分の収納空間を確認する。

 幻影は1度作れば短い時間は維持されるはず。


「うわぁ」


 自分の収納空間内に、山小屋の中の部屋が立体物として再現されていた。

 これは、過剰な情報だ。

 一気に魔力を消費したのもその為だろう。

 外でやらなくて良かった。

 取り出しの場所から見えない部分は欠けているヘンテコだ。


 魔術を更に改良する。

 一方向だけ見たい方向を限定して、あと忘れていたけど、幻影の再現は平面に。


 今度は、ずっと少ない魔力の消費で済んだ。

 自身の収納空間内を確認する、窓から覗いたように、山小屋に居る自分自身が映った幻影を思い浮かべることが出来た。


 2日目での成果としては十分だ。


 できれは、常に見続けていたい。

 今は、魔術を行使した瞬間の様子だけだが、自分の後ろの様子を常に確認できると面白いかもしれない。


 それと、頭の中に思い浮かべられる幻影と、今見ている視覚情報との差で、気持ち悪くなった。

 慣れないといけない。






 私は、火の始末をして出していた物を全て収納する。


 ちょっと気持ち悪いのが収まらないので、時間は早いが収納空間に入って早めに寝た。

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