第81話 探索「探索初日」

 東の森の薬草採取という名目の探索依頼を行う初日になった。


 やること自体は何時もの薬草採取だ、だけど、探索を行うので、予想外の事態が起きないとも限らない。

 事前の準備は入念に行った。

 また、食料や物資の保存も何時もより多くしている。


「マイ、緊張してる?」


 フミが、準備している私に声を掛けてくる。

 まだ、朝の鐘の音が鳴るには早い。 気にしてくれているのか。


「休んだ後ですからね、大丈夫だろうと思って失敗することが多いんです。

 なので、こういう時は、初めての時のつもりで、慎重になるぐらいが丁度良いんですよ」


 口調が若干堅くなる。

 うん、頭の中の思考が兵士? 冒険者? に傾いてきている。



 朝早くなのは、まだ地面が雨の後でぬかるんでいるからだ。

 移動に時間が取られる。

 今回の探索範囲には、斜面も多い。


 また、事前に冒険者ギルトで、ジェシカさんとダンジョンコアの魔力の特徴を確認済みだ。

 思っていたより特徴的だったので、間違えることはないだろう。



「絶対に大丈夫、はないですが、ほぼ危険は無い普通の薬草採取ですから、心配は不要ですよ」


「うん、マイなら大丈夫だね。 風邪引かないように気を付けてね」


「はい、気を付けます。 フミこそ頑張りすぎないようにして下さい」


「へっ?」


「タナヤさんのレシピ帳、読み込んでいるんでょ、根を詰めすぎないように」


「気が付いていたんだ、うん、気を付けるよ」


 フミが、ばつが悪いように、寝癖が付いた頭をワシワシしている。

 私が、クスクス笑っているのに気が付いて、フミも笑う。



「じゃ、気を付けて行ってきます」


「行ってらっしゃい」



 居間に行くと、オリウさんとタナヤさんも居る。


「ほれ、朝と昼の弁当だ。 無理はするなよ」


「マイ、早く帰ってくるんだよ」


 二人とも、心配しすぎ。

 本当にもう。 私は大丈夫ですよ。


「はい、ありがとうございます。

 今回は、リハビリを兼ねているので、無理はしません。

 では、行ってきます」


 何時ものように、マントを羽織り、笑顔で出かける。



 宿屋タナヤを出ると、また何時ものように宿に向かって言う。


「行ってきます」



■■■■



 東の門で守衛さんに挨拶する。


「おはようございます。

 久しぶりですが、2泊3日で薬草採取に東の森に入ります」


「ああ、天気が回復したからな。

 だが、水辺は気を付けろ、まだ増水している。

 斜面も滑るから注意しろよ」


「はい、気を付けます」


 守衛さんも、前回の視察団の時以来、今まで以上に色々注意するようになった。

 魔獣の出現はそれだけ驚異なのだろう。



 外壁を出ると、地面は石畳から土に変わる。

 雨の後なので、すっかり柔らかくぬかるんでいる。


 思っていたより歩きにくい。

 補給部隊に居た時も、徒歩での移動はあったが、こういう地面が荒れている時は馬車に乗せられるので、経験が少なかった。

 余裕を見ていて良かったかな?


 畑と牧草地から、森への道を歩きながら、今日の予程を再確認する。


 まず、初日は、拠点となる場所への移動。

 前回、ダンジョンを見つけた場所から更に山に登った所になる場所を1泊目の目的地に設定した。

 これは、前回の場所が多分雨で使えないこと、と、予定している探索範囲の都合上から。

 その拠点の場所も、狩人などが森に入る時に利用している場所なので、湧き水や雨風をしのげる場所がある。


 翌日は、そこから更に山に入って、依頼されている薬草の採取も行う。

 また、途中で東南方向に山を下りて、別の拠点予定地で2泊目をする。


 最終日は、そこから東方向に移動して街道に出たら、街道沿いにコウの町へ戻る。


 懸念点とては、2カ所の拠点はどちらも行ったことが無いこと。

 雨の後の山の中という条件での移動経験が少ないこと。


 慣れている東の森とはいえ、ほとんど初めての森と同じだ。



 牧草地を抜け、東の森の方を見渡せる丘の上に来る。

 コウの町から、朝の鐘の音が聞こえて来る。


 朝食を頂く。

 パンの間に、葉物と変わったソースが付いたサンドイッチだ。

 ソースは何の味なのか想像も付かないけど、ゆで野菜とゆで卵が細かく刻んで混ぜられているのは判った。

 これは、タナヤさんの味だ。 洗練され妥協していないけど、どこか優しい味。

 フミは、この味に挑戦しているんだ。



 丘から森の入口付近まで移動する。

 冬の時期だから、草は生えてきていないが、水を吸った枯れ草はフワフワしている。

 ここでこんな感じだと、森の中はもっと水を吸った葉っぱで歩きにくくなっているなぁ。


 一瞬、ここで切り上げてしまおうかとも思うが、雨の年に入ったのだ、乾いた地面の日の方が貴重なのだから、ここ止める選択は無い。



 森に入る。

 予想以上に湿気が強い。 湿った土のにおいが充満している。

 寒さと湿気で、予想以上に体力が持って行かれそうだ、注意しないと。


 ここからは、ダンジョンコア向けと通常の周囲を警戒する探索魔術を時々使う。



 途中の流行病の薬草が採れる小川に着いた、かなり増水して強い流れが出来ている。

 採取は無理だ。


 次に、ダンジョンがあった休憩エリアに着く。

 雨を避ける岩の窪みは辺りの地面毎泥だらけになってる。

 どこからか、土が流れ込んだのかな。

 湧き水は、山側からの水と合わさっていて、使えない。


 もうじき昼だ。

 机上の予程より遅く、また、途中で思ったとおりの移動速度だ。


 慌てない。 まだ、予想の範囲内だ。



 そして、今日の拠点予定の場所に着く。

 記憶した地図と、ギルドから配布されている東の森の地図(書き込んで私専用)の示す場所に着いた。

 お昼は過ぎてしまったと思う、ここでお昼にする。


 空は、薄曇りで太陽の位置が判らない。


 今日の拠点位置は、石組みの壁と簡素な木の窓と扉が付いた山小屋だった。

 水の位置も確認する。 少し雨水が流れ込んでいるけど、これなら大丈夫だろう。


 山小屋に入る。

 やはり、最近使用している形跡は無い。 ホコリと湿気が充満している。

 窓を開けて、風を通す。

 今は火を起こさなくて良いかな。

 お昼のお弁当を取り出す。

 こちらは、パンと具材が分かれていた、うーん、何処で食べるのか想定している感じだ。

 もしかしたら、タナヤさんは、森に入った経験があるのかもしれない。

 一応、魔術師ギルドに所属はしているのだから、可能性はある。

 味は申し分ない。



 少し休んで、行動を開始する。

 日が暮れるまでは未だ時間が十分ある。

 薬草採取を行いながら、周囲の探索魔術の警戒を続ける。


 たぶんだけど、何かの痕跡は簡単には見つからないだろう。

 見つからないという報告が続くと思う。

 むしろ、その方がありがたい。


 薬草を見つける。

 この時期でも緑の葉を付けているので比較的分かり易い。

 しかし、薬効があるのは、付けた実なので、数が取れない。

 この薬草は、炎症を抑える効果があるとのこと。

 そのままでは、何の役にも立たないらしいが。






 薬草採取と、探索魔術を使っていたら、ダンジョンコアへの探索魔術に反応が出た。


「へっ?」

 予想外の事態に驚く。

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