第7章 探索

第78話 探索「完治」

 私、マイは、コウの町の東の森でダンジョンを発見したことから、領主経由で領軍より周辺の探索依頼を指名された。

 最近増えている魔獣とダンジョンそして魔物の発見と被害の原因調査。


 コウの町の周辺の森を探査することは、実際の所 領地の各地で沢山の情報を集めるための作業の1つに過ぎない。

 それでも、調査することは国命として各領主に課せられているため、入念に行われている。

 事前の打ち合わせだけでも数回行うというのは、支配する側の義務として手抜きが許されないということだ。


 やることの難易度は低いが、真剣に取り組む必要がある。



 そんな、事前打合せ。

 冒険者ギルトの担当者ジェシカさんと、町から役所の担当者コシンさんとの打合せも、5回目になった。

 事前の打ち合わせも、今回か、あと1~2回で終わる予定だ。



「巡回する箇所と、薬草採取の時期のズレをどうするか、ですが、これは普通に薬草収集の依頼でマイさんが森に入る。

 で対応して頂くしか無いかと」


 コシンさんの言葉を受けてジェシカさんが、言う。


「毎回調整するのは、やはり長期的に難しいですからね。

 作成した巡回する計画に、私が別の依頼を入れることで、違和感を減らすのがいいでしょうか」


「ですね。 その方向でお願いします」


「では、私の方からマイさんに、特定の場所への薬草採取のお願いをするのを、探索依頼の合図にしましょうか。

 本当に薬草採取をお願いしたい時は、その理由を説明するので、そこで判断して下さい。

 判らなかったら、『何時もの?』とか聞き返してくれれば答えます」


「はい、それぐらいが調度良さそうですね」


 最初、コシンさんが緻密な探索計画を作成した、しかし、天候や他の依頼の関係で計画がズレると破綻してしまうとの指摘で、現実的ではないとなった。

 結果としてある程度、余裕を持たせた計画にして、計画外は都度 相談という結果になったというか、そうなるしか無い感じだった。



「今後の打合せの場所ですが、役所かギルドの打合せ室を、都合に合わせて調整し利用することになりますか。

 それと、私達の情報の共有も定期的にやらないといけませんね」


「はい。ただ、長く続くと形骸化しそうなので、気を付けないといけません」


 コシンさんとジェシカさんが、事務的な話をしている。



 私は、探索の方法について決まった内容を再確認していた。

 基本的には、2泊3日の行程で、探索範囲を決めて薬草採取と並行して調査を行う。


 で、何かしら報告する事が発生したら、ギルドに薬草の納入の時にジェシカさんと連絡をして当日か翌日に打合せを行う。

 こんなものだろう、あまりキッチリ決めると、変更や不測の事態が起きた時に対応が出来なくなる。


「あ、マイさん。 確認なんですが、お体はもう大丈夫なんでしょうか?

 探索の開始は、マイさんの体調が万全になってからですから」


「もう、ほぼ完治していますよ。

 一度、全力で動かして問題ないことを確認したいですが、探索ならいつでも行けます」


「それは良かったです。 でも、この天気ですから、余裕を持っていきましょう」


 ジェシカさんが言うように、雨の年が本格的に始まったらしく、昨日から雨が降っていて当分は止まない予報だ。


 私の身体も、動かす上で、支障が無いが、全力運動はしていないので確認が必要だ。

 左腕のあざはまだ残っているけど、もう痛みは無い。


 天候不良が続くのは、完治させるのに丁度良いかもしれない。



 打合せを終えて部屋を出ると、町長のコウさんが居た。


「おや、打合せは終わりましたか。

 探索は開始できそうですかな?」


「はい町長、天気次第ですが、開始する予定でいます」


 コシンさんが報告している。


「所で、マイさん。

 ついでと言っては何ですが、模様替えを手伝って頂けませんか?

 幾つか、移動させたい物があるのです。

 いま、どうしようか考えていたところです」


「構いませんよ、もともと模様替えの為に来ていることになっていますし。

 模様替えを行った実績も、もう少し残した方が良いかと思っていましたから」



 探索の打合せを行う上で、内密に行うのに町長の館の模様替えの手伝いをするという建前を用意してもらっている。

 忘れてないよ。


 で、町長の館は実際に模様替えを行っている。

 私達の打合せ以外の時間では、職人さんが入って作業していたりする。

 改築や土木は、冬の間の人手が余っている時期に集中的にやることが多い。



 コウさんの指示で、幾つかの彫刻を運ぶ。

 コシンさんとジェシカさんも、実績を作るために、立ち会い人として一緒に模様替えをした。


「期せずしてですが、模様替えの実績も作れましたね」


「そうですね」


 ジェシカさんと私は、笑い合いながら今回の打合せを終わりとした。

 大分打ち解けてきたと思う。

 次回は、天候の回復が見込めるようになったら、探索前の打合せをギルドで行う予定だ。


 所で、打合せの結果も、毎回コシンさんが作成している。

 お役所仕事というと それまでだが、手順を踏んでいるので後で違っていたということが無いのはありがたい。



 雨の中、すっかり歩き慣れた、町長の館から宿屋タナヤへの道を歩く。

 冷たい雨が顔に当たらないように、フードを深く被る。



 この5回の打合せの中で、ジェシカさんも差し迫った脅威がある訳ではないと理解して、今ではかなりリラックスして対応してくれている。

 コシンさんも、気軽に対応してくれている。。


 でも、私の心の底では、警戒を促す予感がしている。

 何も無いのに、おそらく領地全体でこんな探索体制を敷いたりはしない。

 明きからに何かが起きている。

 気を引き締めないといけない。

 少なくても、その何かを掴むまでは。



 軽く頭を振る。

 さて、切り替えようか。 今からは、宿屋の店員。


 雨で、すっかりひとけが無くなった町を歩く。

 宿屋タナヤが見えてくる。


 今は、北の村へ行きたい旅人が雨で足止めして宿泊している。

 私のやることは少ないけど、店員としてちゃんとしよう。



「ただいま」


 裏口から入り、水属性の魔法で、マントと服の水気を飛ばす。





「何か仕事ありますか?」

 宿屋の店員マイです。

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