第71話 宿「検討」

 翌日。


 役所でコシンさんとジェシカさんに合流して、2回目の打合せを始めた。

 東の森の地形地図を見ながらの打合せだ。



「やはり一番の問題は、マイさん一人で一度に見て回れる範囲が狭いことですね」


 コシンさんが指摘する。

 こればっかりは仕方が無い、が一応解決策を用意した。


 以前、特定の対象に対する探索の魔術について、私の場合、1メートルが学生時代は限界だった。

 確認したところ、現在、魔力を持っている対象に対しては、少なくても20メートルは何とかなることが判った。

 これは、フミの服に残っていた髪から魔力の特徴を把握して、場所を探索してみて確認した。

 通常魔法の能力が向上したおかげか、実用には何とかなる範囲だと思う。

 町中での確認だったので、他の人の反応と見分けるのが難しかったが、森でかつ特徴的な物なら、もっと広い範囲を探索できる可能性は高い。


「ジェシカさん、ダンジョンコアってギルドにありますか?

 ダンジョンの魔力の特徴を把握できれば、ダンジョンに特定しての探索魔術を行使できます。

 それなら、最低20メートル、森の中ならもっと広い範囲を探索魔術で探れると思います」


 可能なら、前回、私が見つけたダンジョンコアを使いたいが、ギルドに売ってしまったのでもうない。


「大きさは小さいですが、比較確認用のダンジョンコアは保管されています。

 前回、マイさんが見つけたダンジョンコアは領主様のお抱え商人が購入したので、残っていません」


 品質が良いダンジョンコアと聞いていたので、買い手が直ぐ付くとは聞いていたけど、領主様が購入したのか。

 うん、私の口座の金額がちょっと怖いんだけど。



「必要なのは、魔力の特徴なので、時々確認させて貰えれば大丈夫です」


「なら、問題ないかと、立ち会いは必要になりますが、私で大丈夫でしょう」



 うん、目で見て探索できる範囲から、探索魔術で確認できる範囲まで広がった。

 多少はマシだと思える。

 それに、運が良ければ、自然消滅(動物がダンジョンコアを取り除いた)時に残ったダンジョンコアを入手できる可能性もある。



「自然消滅したダンジョンのダンジョンコアを拾ったら儲けものですが、周りに広まるのはもめごとの原因になりかねませんね」


「専属の私が処理すれば、冒険者の方々に気が付かれることは無いかと思います」


「ジェシカさん、お願いします。 まぁ、見つかったらですが」



「あとは、どの程度の森の奥まで、探索されますか?」


 コシンさんから、質問が来る。


「えーっと、これは名目上の採取依頼となる薬草の生息域で変わりそうですね。

 依頼の出し方も含めて、私の方で調整します。

 2泊3日で行ける範囲ですので、そこまで深い所までは無理でしょうね」


 ジェシカさんが、ギルドから持ってきた薬草関連の資料を見ながら話す。

 他の冒険者も薬草採取の依頼は受けるので、その割り振りも考えないといけない。

 貴重な薬草なら、常設依頼では無く、普通の依頼になるからだ。


「浅い森や、狩りや採取で人が入りやすいところも、優先度を下げるべきでしょう。

 あとは、魔物かその痕跡ですが、何か案はありますか?」


 コシンさんが、難しい顔をする。


「正直、魔物という物を見たことがありません。

 痕跡にいたっては、普段とは違うもで探すしか無いですが、狩人でも無いのに判るとは思えないですね」


 私が答える。


 魔物、どんな生物? なのだろ。

 前回の視察団の後に、魔物について調べたけど、魔法学校で学んだことを思い出しただけだった。


 魔物は、この世界の理を逸脱した生物に似た何かである。

 魔物は、ダンジョンから生まれることがある。

 魔物は、異常な食欲で、生物であれば何でも食べる。

 魔物は、繁殖または発生し数を増やす。

 魔物は、異常に大きい魔石を体内に持っている。


 うん、よく判らない事が判った。



「コウの町や周辺の村でギルドが管理している記録に、過去に魔物の発生した記録は無いです。

 申し訳ないですが、力になれないです」


 ジェシカさんが、調べた記録を見る。



「取り敢えず出来そうなこととして。

 見慣れない痕跡で、魔力の残滓が”異常な物”であるかで判断します」


「それ位しか出来そうも無いですね。

 マイさんよろしくお願いします」


 私の魔力の残滓を見ることが出来る能力は低い。

 よほど特徴的で無いと判らないだろうけど。


 コシンさんが、同意してくれる。

 で、場を閉めてくれた。


「では、本日はこれまでで。

 持ち帰りとしては、私の方で、魔物の情報について調べたいと思います。

 ジェシカさんは、マイさんの探索の名目となる薬草採取とその経路の検討ですか。

 マイさんは、引き続き身体を静養させて下さい」


 あれ、私だけ休むの?


「マイちゃんは、探索が始まってから大変なんだから、今は体調を万全にすることだけを考えれば良いのよ」


 表情を読まれたのか、ジェシカさんに釘を刺された。

 うん、時空魔術について幾つか検証したいのが残っているのだけど、持ち越しかぁ。


「あ、今回は話題に出しませんでしたが、魔獣に関しての対応も今度話しましょう」


「わかりました」


「そうですね、失念してました、調べておきます」


「ジェシカさん、まだ打合せの回数はあるので、急ぐ必要は無いです」


 私が、魔獣の話を出したけど、次の時に話せば良かったと後悔する。



 コシンさんとジェシカさんと、館で分かれる。

 今回の依頼で、別のことを考える。


 この依頼を受けたことで、私はコウの町から離れるのが難しくなった。

 むろん、短期的な近隣の町や近くの村に行くことは許可されているが、おそらく領地を出るのは無理だろう。

 ただコウの町から宿屋タナヤから、離れたくなくなっているので、どうでも良いけど。


 なんで、こんな事をするのか?

 視察団経由で私の価値が上がった? いやそれなら領都へ招集するはずだ。

 反乱を起こした村の生き残りを隔離するため? それも考えすぎだと思う。

 隔離なら、生まれた村の近くの町で良いはずだし。


 考えすぎかな。






 最近、思考の範囲が広がったせいか、余計なことを考えることが増えたかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る