第64話 宿「後処理」

 コウの町の構成を簡単に説明しておこうかな。


 この町は昔、500年以上前は要塞として使われていた要塞都市、魔物の氾濫の際に崩壊し一時廃棄されていた。

 その後、上下水道などのインフラが再生できたことから復興された。

 再興されたコウの町は、周囲の村を管理する町として発展することになった。

 外壁の外周は、平原に作られる砦としては一般的な大きさだが、面積はかなり広い。

 籠城できるように、畑なども作れるだけの広さがある。

 外周を1周するのに、馬で1日以上掛かる、と言えば伝わるだろうか?

 外周の内側には畑と牧場が、外には牧草地が広がっている。 その向こうに森と平原が広がっている。


 外壁の中には、更に2つの壁が設けられている。


 外壁には東西南北に大きな門があり、基本はここを通る。

 少し丘になっている町の中央の頂上には昔の砦の建物があったのだが、今はその周辺一帯が大きな広場になっている。


 その広場を囲むように道路が走っており、役場と町長の館、教会とギルドがその道路に面している。

 これらの建物も、昔の砦の残りや残骸から作り直された建物だ。

 それ以外の建物は、広場に面して建っていない。


 町長の館は、広場の東側、役所の隣に隣接して建てられている。

 一応、王都に向かって作られている、らしい。

 町長の館は式典や来客をもてなしたり宿泊するための施設で、正面のバルコニーは、広場に向かってのスピーチを行えるようになっている。 収穫祭の時に町長が挨拶したのもここだ。


 東西南北の門からの道は、町を4分割していて、さらに内側の壁で分割されており、それぞれの 地区で大体の役割が決まっている。


  広い土地を持つ町だが、人が住んでいる範囲は案外狭い。

 また、町と言うこともあり、貴族街のような特別な区域は存在しない。


 あと、ギルドの施設は他にもある。

 商業ギルドと冒険者ギルドの2つは、外壁の4つの門のから入った次の壁の近くに出張所を設けている。

 これは、商人の受け入れ、荷物の一時保管と荷馬車を預けを受けるためである。

 冒険者は、狩ってきた大きな狩猟物を受け取って処理したりするしている。

 これらを町の中心で行うわけにはいかないからだ。



 冒険者ギルトを出る。


「やあ、マイ。 奥に引きこもってなんの相談をしていたんだい?」


「前回の依頼の後始末ですよ、いい加減にして欲しいものです」


「そりゃ、災難だな。 今日は帰りかい」


「そうします、やれやれですね」


「おつかれー」


 出るときに、顔見知りになっている他の冒険者に何事かと聞かれたけど、あいまいに答えた。

 間違いじゃ無い。

 馬鹿正直に喋らないように、と教えてくれたのは聞いてきた冒険者だったりする。

 この受け答えも、今では普通の会話になってきている。



 宿がある商業区域の方に向かって歩く。

 食べ物の露店や飲食店は、各地区の境界沿いに建っていることが多い。

 昼食をどうしようか悩むが、食欲がわかない。


 脂汗がにじんでくる。


 ズキッ


 やはり身体がまだ痛む。 時々刺すような鈍痛が走る。

 耐えられない痛みでは無いけど、休養が必要なのは確かだ。


 近くの公園で、ふらつくように長椅子に座る。

 収納から取り出した携帯食を無理矢理押し込んで昼食にする。


「ふぅ」


 痛みが引いてきた。 脂汗を拭う。

 身なりを整える。 いつも通りだ。


 今日は、昼食を取ってから帰ると、タナヤさんには伝えてある。



 もう少し休めば、大丈夫だ。



■■■■



 宿屋タナヤに戻る。


「ただいま」


 勝手口から入る。

 昼食時間が終わった後かな、家族でお茶をしていた。


「あ、マイ、丁度お茶にするところだったんだ、飲む?」


「はい、頂きます」


 私はマントを入口に掛けると、定位置の椅子に座る。

 フミが私の分のお茶の準備を始めてくれる。


「この前、依頼を終わらせたばっかりなのに、もうギルドに行ったのかい?

 少しは休まないとだめだよ」


 オリウさんが聞いてくる。

 普通は数日 森に入ったら2日程度は休憩しているので、1日おいただけでギルドに行ったのは異例だったかな。


「その依頼の後処理ですね。

 森へ行くことも暫く控えると言ったら、町長の館の模様替えの依頼の内示が来ました」


「なんだそりゃ?」


 タナヤさんが、疑問を言いながら、パンの切れ端を揚げた物だろうか、を頬張る。


「詳しくは、後日 正式に指名依頼が出てから確認ですね。

 とはいえ、物を収納して運んで出すだけの簡単な仕事のようです。

 休息がてらの依頼としては、有りがたいですね」



 私も、フミが入れてくれたお茶を口にする。

 さっきまで不快だった口の中が洗われる。


「はぁー、っ」


 温かいお茶が胃の中に染み渡る。


「上手く入れられたようで良かった」


「フミのお茶は何時も美味しいよ」


 うん、相手のことを思って入れてくれている感じが伝わってくる。

 照れるフミも相変わらず癒やされる。


「でも、父さんには、まだかなわないんだよなね」


「簡単に越えられてたまるか」


「へへっ。 でも……」


 タナヤさんの腕は別次元だ、美味しさでいえば全く違う。

 簡単そうに入れるのだが、お茶の葉の美味しさが洗練されていて、高級茶を飲んでいる気分になる。


 ん? ところでフミ、何を言おうとしたの。


 その後は、今宿泊しているお客の情報の共有と、仕事の確認。

 私は、水汲みだけ。 余計なことはしないで休めと、強く言われてしまった。 うん。



 夕食を食べた後、部屋に戻って、楽な服装になる。

 ベッドに入る。

 身体の様子を確認する、見た目や動かした感触では左腕以外はかなり回復している感じだ。

 左肩に手を当てて、弱い風の魔法を行使する。

 温度を大きく下げて冷風にする。


 左腕は、だいぶ良くなっているが、無茶した後の青痣がまだ残って熱を持っている。

 冷やすと大分楽だ。


 そのまま目を閉じていると、いつの間にか寝ていた。



 翌日、午前中の宿の仕事をする。

 水汲みと、宿泊客が出て行った後の部屋の掃除。


 フミと一緒にしていたが、フミが私の仕事をどんどん奪っていく。


「どうしたの、フミ?」


「ん? 何でも無いよ、ちょっと身体を動かしたい気分かな?」


 うーん、判らない。



 午後は、町長との顔合わせだ。


 ちょっと良いフミのお古の服を用意して貰って着て行く。

 うん、ヒラヒラしていて落ち着かないよ。


 みんなして、可愛いと言ってくれたけど、恥ずかしいばかりだ。



 町の中央広場に着く。

 昼の鐘が鳴る中、ギルド前に居たジェシカさんと合流する。


 お昼抜きで来るように言われていたけど、どこかで食べるのだろうか?


「こんにちは、マイさん。 可愛らしいですね、よく似合っています」


「ありがとうございます。 着慣れないので恥ずかしいです」


 スカートを掴んでヒラヒラしないように抑える。

 話を進めよう。


「ジェシカさん。 お昼は何処で食べますか」


「町長と会食ですよ」






 聞いていませんが、何か!

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