第6章 宿

第63話 宿「特別依頼」

 視察団の依頼を終わらせてから、休みを入れて次の日。

 私はギルドの一室に居た。


 偶然だけどダンジョンを発見し踏破してしまった、そのダンジョンの視察のために領軍から視察団が派遣されてきた。

 ダンジョンの発生と踏破、そしてその痕跡の調査は国命による物だった。

 私はそのダンジョン跡を視察団に案内する指名依頼を受けたわけだね。

 最後にイノシシの魔獣に遭遇する予定外のことはあったけど、案内自体は問題無く終わった。


 その依頼の結果、私は定期的に森に入って、森の調査を行う事になった。

 定期的に森に入って様子を確認するだけで収入になる。

 また、それに必要となる、コウの町周囲の森の詳細地図も見せて貰えることになった。


 今回は、その最初の打合せだ。

 顔見知りの女性職員さん、ジェシカさんという方が、この依頼を専属で対応してくれることになった。


 今まで職員さんの名前を知らなかったのは、ギルドが意図的に名前を出していなかった為だ。

 一部の冒険者は、特定の職員に対して暴力的になったり、恋愛感情を持ったりして、トラブルが起きることがままあるそうで。

 名前を知らせないということで、それを防いでいたそうだ。


 そうでなくても、ジェシカさんは美人だ。

 スラッとした体型に出る所は出て、しかも、おっとりとした顔と丁寧な対応は、冒険者の中でも評判が良い。

 私がギルトに来て最初に話しかけてきたのも、比較的多く対応してくれるのも、ジェシカさんだ。

 贔屓にされると妬まれやすいが、私が女性なのか絡まれたことは無い。


 それに小さい町なので、悪い噂は直ぐに広がる。

 嫌われたら、町で生活するのは難しくなる。



 今回は領軍からの指名依頼で、しかもダンジョンや魔獣と魔物に関するということだ。

 この件に関わるのは、ギルドでは、専属の担当となったジェシカさんとギルドマスターと副マスターの3人だけになる。

 他には、町長(と多分数名の部下)も関わってくる。

 私の報告は、ギルドマスター経由で町長に上げられ、定期的に領軍に送られる。


 本格的な討伐が可能な冒険者チームの編成は、難航しているそうだ。



 私への依頼自体は簡単だが、手を抜くことは出来ない。


「マイさん、改めてあなたの専属になる、ジェシカです。 よろしくお願いします。

 今回の依頼の専属だけど、他の依頼でも優先して対応いたします。

 依頼の内容は分かっていると思うけど、無理しない範囲でお願いします」


「はい、こちらこそよろしくお願いします。

 色々事前に打ち合わせしたいのですが、それを何処でやりますか?

 毎回、ギルドの部屋で対応するのは流石に目立ちます」


「その件ですが、指名依頼で町長の館の模様替えと倉庫の整理を行う依頼を出します。

 高価な家具や調度品を安全に確実に移動させる繊細な技術を持っている時空魔術師が必要、という体裁です。

 マイさんは、そこで詳細地図を元に、巡回して確認する行程と頻度を相談させて頂きます。

 私も監視役という名目で同席します」


 うん、町長の館でなら怪しまれることは少ないか。

 ジェシカさんが同席してくれるのなら心強い。



 ジェシカさんが、座り直して私を のぞき込むように見る。

 なんだろう?


「それとですね、マイさん。

 前回の依頼で、怪我をしたとか。 もう大丈夫なんですか?」


「隠してもしょうがないので、正直に言います。

 今は、全力で動くのは無理です。 身体がすぐ痛みで悲鳴を上げてしまいますね。

 左腕も、まだ動かすのが辛いです。

 まぁ、日常生活なら十分我慢できる範囲ですけど」


 前回のダメージは結構深刻で、強度の運動や疲れが出ると痛みが出てしまう。

 それに酷使した左腕も、使っていると痺れが出てきてしまう。


 宿のみんなには内緒だ。



「やっばり。 視察団の方から聞いてます。

 少なくても暫くは休養が必要なダメージを受けていると。

 報告では、イノシシの魔獣の体当たりを受けたと事ですが、心配です」


 収納爆発を使用したことは、可能な限り秘密にして貰っている。

 おそらく領軍への報告には書かれているかもしれないが、ギルドへの報告には、単純に私が戦いに巻き込まれた事になっている。


「大丈夫ですよ。

 こういう怪我も、軍の時代に何度も経験しています。

 無理をしなければ5日もすれば完全に回復できるでしょう」


「なら、事前打ち合わせは、丁度良い休息ですね。

 期間は10日で、1日おきに行くことになるので。

 明日、町長と顔見せしましょう。

 打合せは、役所の方が対応されるかと思います」


 町長側の対応は役所の方になるのかな?


「因みに、町長と役所の方はどんな方でしょう?」


「あ、町長はわりと、ざっくばらんな方ですよ。

 役所の人もみなさん真面目な方ですし、気負いする必要は無いです」


 選民意識のある人だと、元軍人や魔術師である事を前面に出す必要があるけど。

 どうやら大丈夫そうだ。

 というより、ジェシカさんも結構フランクだね、まぁ、気を遣わなくて良いけど。


「それぐらい気楽に話してくれると楽で良いですね」


「あ、あはは。 ありがとうございます」


 思わず笑う。

 ジェシカさんが気が付いて、少し恥ずかしがる。 うん、可愛い。


「時間は、昼の鐘が鳴った後、ギルドに来て下さい。

 今回は、町長への紹介ということで、私が案内しますね」


「判りました。 明日、顔合わせで、その後は打合せというか、私の見回る場所の確認ですね」


「そうですね、具体的なことは、別の日だと思います」


 ジェシカさんがニコニコしている。

 普段の職員として事務的に対応していたので、こういう顔をされると、どうするか迷う。






「では、今日はここまでで。

 特別依頼の受注処理しちゃいますね、私も別途手当が出るので美味しいんですよ」


 ぶっちゃけるなぁ、ジェシカさん。

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