第62話 ダンジョン「エピローグ」

 5頭の馬に乗った集団が、速歩はやあしでの移動をしている。

 視察団のメンバーは、東の町経由で領都へ謎の塊を運んでいる部隊を追いかけて移動ている。

 本来の任務に復帰するためだ。



「マイちゃんを、うちにスカウト出来ないでしょうか?」


 ブラウンがギム隊長に問いかける。

 命を救われた恩人だけでない、戦闘センスも特出している。

 あの、収納爆発を完成させれば、接近戦での攻撃能力は有効だろう。



「うん、本人次第だけど、実戦経験も豊富だし時空魔術師が居ると移動が楽になる」


 これは、ジョム。

 マイが戦い慣れている事に気が付いている。

 5年の従軍期間中、おそらく最前線に近い所に居たのだろう。



「マイ、正直、化ける可能性があるよ。

 時空魔術師だけど、他の通常魔術も適性がかなりありそう。

 ただ、ソロにこだわっているのは何でだろう?」


 シーテは、マイの事を気に入っていた。

 大人の中で揉まれてきて、年齢とちぐはぐな大人っぽさ。

 妹のように甘えることも無く、淡々としている。

 そのくせ恥ずかしがると幼くなる。 気になる。



「マイさんの探究心と行動力は、とても素晴らしいです。

 仲間になれば、心強いでしょう」


 ハリスが、絶賛する。

 失敗を失敗としない、未知のことに反発せず興味を示す。

 この姿勢はとても好ましい。



 しかし、ギムの顔は優れない。


「みんなの気持ちは判る。 俺も同じだ。

 しかし、マイを勧誘することは出来ない。

 それに王国軍に入ることも無い」



「どういうこと?」


 シーテは納得できず反応する。


「此処だけの話だ。聞いたら忘れろ。

 マイの生まれた村が反乱を起こしている。

 むろん、マイは軍に従軍期間中だったので完全に無関係なのは確認されている。

 だが、反乱分子の血縁関係者だ、国の重要機関には入ることは無いだろうな」


「じゃ、マイの夢の魔導師になるのって」


「あり得ない、と言って良い」


「そんな」


 シーテが絶望する。 マイが魔導師を本気で夢見ていることを知っているだけに辛い。


 しばらく無言になる。




 そこに、彼らの前へ馬が駆け寄ってくる。

 領都から来た、領軍の若い騎士だ。


「視察団ご苦労様です。報告書の受領したことを報告します。

 また、新たな任務書を持ってきました」


「休ませてはくれないようですね」


 ジョムがぼやく。

 ギムが、任務書を確認する。 捏造ではないこと正式な任務指示で有ることを確認する。


「任務書の受領をした。 まずは領都から王都に向かう最初の町に向かう。

 そこで補給がしたい、準備を依頼依頼できるか?」


「はい、そのように指示を受けております。

 冒険者ギルドに指名依頼として出して置くそうです」


「判った」


 若い騎士は、ギムのサインを貰うと、そのまま領都に向かって馬を走らせて行った。


「例の塊、どうやら王様が欲しがっているそうだ。

 俺たちは、先行して領都から王都までの街道を確認する。

 あくまで冒険者としてな」


 ギムが馬の向きを変える。目的の町へは街道の分岐まで戻らないといけない。



「うん、また面倒なことになら無いなと良いんだけどね」


 ブラウンがぼやく。

 何かが、大きく動いている。そんな気がした。



■■■■



 領都コウシャン。

 その領主邸の執務室で、領主は部下の言葉を苦々しく聞いていた。


「領主様、例の塊ですが王様へ献上するように、との言葉を預かった使者が来ております」


「ばかな、何かも判らない物を献上できるか。

 使者に伝えておけ、なんであるか判ってから献上すると」



 現在のトサホウ王国の王は、善政を敷いていると言われているが、大きな事業もせず、現状維持な政策をとっている。

 その為か、国内で大きな反発も無く、結果として善政をしている良い王様というイメージが着いている。


 が、一つ悪いクセがある。


 変わった物を収集するクセだ。

 価値の有る無し関係なく、変わった物を無性に集めたくなるようで、今回の謎の塊にも最初の報告で飛びついたようだ。



「はい、そのように伝えます。

 例の塊は、あと数日で到着する予定です」


「ふむ、では使者殿を待たせても良いかな?

 いや、いっその事、鑑定機での様子を立ち会わせよう。

 そして、塊と一緒にお戻り頂こうか。

 たいしたもので無かったら、どう出るかな?」



 領主としては、謎の塊なぞに、たいした興味は無い。

 価値のある物としても、王様が欲しがっているのだ、献上しない選択肢は無い。

 せいぜい利権をたっぷり下賜して貰って譲り渡そう。


 領主は、椅子に深く座り直すと、使者からの文を手に取る。

 回りクドく書かれた、王の言葉に目を通す。


 フン。


 机の上に放る。


 そしてもう一つの、視察団からの報告書を取って、改めて目を通す。



 報告書には、ダンジョンの消滅と魔物は発生していないこと、魔獣との交戦と討伐が記録されている。


 魔獣と魔物の被害の増加。そちらの方に注意が向く。



 コウシャンは、王都から東側、東の端の領土の境界との中間位置に当たる比較的安定した領地だ。

 特に東の、商工業国家との貿易品を運ぶ大きな街道が、東からコウシャンを通って王都へと向かっており、その物流の要になっているのが大きい。


 今回のコウの町と東の町は、コウシャンから西北側に位置する、酪農を中心とした町で、コウシャンの領土内だ。


 この領主も、良くも悪くも現状維持を心がけている。



 500年経っても、未だに回復しない人口と失われた技術。

 今、魔物の氾濫が起きれば、この地が蹂躙されることは容易に予想できる。


 領主は、席を立ち窓辺へと移動する。

 希少なガラス窓の下に領都の町の光が目に入る。






「塊などより、魔物の氾濫の発生はなんとしても防がなくてはな」

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