第60話 ダンジョン「戦いの後」

 しばらくして、ようやく動けるようになった。

 まぁ、身体のあちこちが軋むし左腕も痺れが残っている。

 で、治癒魔法をいっぱい行使した、ハリスさんが今度は疲労で動けない。


「マイ、まずは改めて礼を言う。

 マイの攻撃がなければ、どうなっていたのか判らない。

 魔獣の可能性を確認するのを怠った俺のミスだ、済まない」


 ギムさんが、改めて頭を下げる。


 今、私達は、街道沿いにで座り込んでいる。 全員疲労している。

 シーテさんが私を抱き支えるように座っている、離してくれない。


 魔獣の発生は、本当に希なので、仕方が無い面もある。



「それで、聞きたい。

 答えにくいとは思うが、魔獣を吹き飛ばしたのは、一体どんな魔法なんだ?」



 ギムさんが聞いてくる。 他のみんなも興味を持っている。

 しかし、この魔術に関しては、言い訳を用意済みだ。

 威力は兎も角、一応再現できる別の方法だったりする。


「ギム、聞くのはマナー違反よ」


 シーテさんが、ギムさんを責めるが、私はシーテさんの手に手を重ねて止める。


「只の時空魔法の取り出しですよ。

 ただし、取り出す所に障害物が有る場合、反発する力が発生するんです。

 そうするとき、収納物を取り出そうとすのに必要な空間と障害物との間の差異で爆発的な力が生まれます」


 ここまで言って、理解していそうな人は居ないか。 シーテさんも頭を傾けている。

 時空魔法に詳しくないと判らないか。


「えっとですね。

 シーテさん私に向かって片手を広げて下さい」


 シーテさんが右手を私に向ける。

 その右手と私の左手を合わせる。


「私が物を取り出そうとします。

 この時、シーテさんの手と私の手の間に、大きな物を出そうとする。

 そうすると、無理矢理出てこようとして、相手を押します」


 私は、ゆっくり水筒を取り出す、水筒がシーテさんの手を押し返す。


「普通、時空魔術師は、取り出しを一瞬で行います。

 そうすると、手と手の間に爆発的な力が発生するんです。

 属に収納爆発と呼ばれる現象ですね」


 水筒を収納し、今度は少し早く取り出す、シーテさんの手がグンと弾かれる。

 ようやく理解してくれたようだ。


「時空魔術師としては、取り出しの失敗なので、通常は行いません。

 しかし、意図的にやろうとすると、今回のように強力な爆発が起きます。

 取り出す方向は指定できるので、私の方へのダメージは少なくて済むと言うことです」



「時空魔法にこんな使い方があるなんて知らなかったわ」


 シーテさんが感心している。


「シーテさん、これは本来、取り出しの失敗で普通は収納した物も壊れるので、事故になります。

 なので、だれもやろうとは思わないですね」


「なるほど、探究心のたまもの。 失敗を失敗とせず、有効に使う方法を模索していたのか」


 ジョムさんが、腕を組んで頷いている。


「それでも、左腕がしばらく使えなくなって、吹き飛ばされる程のダメージが有ったのか。

 諸刃の剣ですね。

 でも、そのおかげで命が助かりました、命の恩人です」


 ブラウンさんも頭を下げる。


「他に方法も思いつかなかったですし、なにより全員無事で良かったです」



「さて、このイノシシの魔獣だが、これも報告しないとな。

 魔石もあった、おそらく土属性の魔石だろう。

 今回の依頼の内容上、マイに所有権が無い。

 領軍の依頼だから、追加報酬も出せない。済まない」


 ギムさんが、何度目になるのか頭を下げる。

 そうだ、今回の私は案内のみで、戦闘に関しては守られる側だ。

 戦闘に参加した時点で、依頼内容から外れた行動になる。


「なので、俺に出来る範囲で礼をしたい。

 このショートソードは、冒険者をしていた時に、廃墟になった都市で見つけた一品だ。

 詳細は判らないが、切れ味も耐久性も一級品だ、これでもまだ足りないが、今出せる一番の物になる」


 ギムさんが背中に付けていたショートソードを取り出して、私に渡す。

 今まで使っていた軍の標準品とは比べものにならないぐらい、上等で美しい剣だ。


「良いんですか? これは、価値もそうですが、希少性とか能力がすごい高いものでは」


「ああ、かまわない。 仲間の命の礼としては安すぎる」


 少し考えて、貰うことにした。


「では有りがたく頂きます。

 それと、私が使った収納爆発の攻撃ですが、出来るだけ秘密にして下さい」


「ん、何でだ?」


「未完成も良い所なんてす。 収納魔法の失敗を利用しているというのも、なんですが、

 それ以上に、自分自身も傷つけてしまうような欠陥魔法は恥ずかしくて言えません」


 私が、すこし顔を下げてほほを膨らませる。

 未熟な魔法の行使なんて、魔術師としては恥ずかしすぎるよ。



「ああ、報告の義務はあるが、出来るだけ閲覧制限は掛けよう。

 なに、書きようで何とでもなるさ」



 ようやく、みんなの顔に笑顔が戻る。



 流石に、町まで戻る時間も体力も無いので、街道沿いでテントを張って休んだ。

 夕食は、シカ肉と鳥肉の残りと野菜を串で焼いた物だ。


 夜は、私とシーテさん、ハリスさん、が休んで。

 ギムさん、ジョムさん、ブラウンさんが夜の番をしてくれた。


 翌朝。

 簡単な食事をして、コウの町へ戻る。

 身体の調子は、うん、動ける。


 一応、表面的には、調査に時間が掛かった事になるとのこと。






 最後の最後に、予定外の戦いが発生したが、まぁ、無事に帰って来れた。

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