第59話 ダンジョン「魔獣」
イノシシがバトルアックスをはじき返した!
「全員離れろ!」
ギムさんの号令で、全員距離を取る。
シーテさんが、私とハリスさんの所まで戻る。
「何が起きているのかな? マイ、判る?」
シーテさんが疑問を呟く。
心当たりがある。 そうだ軍に居た頃に数回見たことがある。
「魔獣だ」
シーテさんがビクッと私の顔を見る。
「ギムさん、魔獣です!
何かの魔法、おそらく、筋肉強化か防御の魔法を使っていると思います。
他にも可能性はありますが、物理攻撃は魔法を解いてからでないと効果は少ないかと!」
私は、ギムさんに向かって叫ぶ。
そうだ、輸送部隊に居たときに、仲間を何人も犠牲にした魔法を使う獣。
外見だけでは分かり難いが、普通とは明らかに異なる動きをするので、それで判断出来る。
今回は、上手くはめる事が出来たので、気が付くのが遅れた。
まずい、どうする。
ギムさんも魔獣の可能性に気が付いていたのだろう。
すかさず指示を出す。
「シーテ! 固定の強化と、火の魔術だ。
俺たちは、抜け出さないように攪乱する。
ブラウン、ハリスとマイを守れ」
「やっと出番ね!」
シーテさんが、接近しながら土魔術の重ね掛けをする。
そして、火の魔術を行使する。
炎の玉だが、イノシシの頭を覆い尽くし、赤い色から黄色、そして白い色と温度が上昇していく。
白色の炎を出せるのはすごい。火の魔術でもかなりの上位だ。
それ以上は青色や無色透明と言われているが、魔法学校でも見たことが無い。
炎の熱と、呼吸を止めることで、イノシシの魔獣の魔法を止める。
グオオオオッ
イノシシらしからぬ叫び声を上げる。
炎が消し飛んだ!
魔法耐性? いや、まさか。
顔の周りに土の塊が舞っているのが見える。
「まずい、土属性の魔法だ!」
私は叫ぶ。 今の状況では相性が悪い。
防御は身体に着いた泥を硬化させた、炎も土の壁で防いでいる。
地面に固定されていた足も土を軟らかくして脱出する。
ダメージは与えているが、致命傷にはまだ足りない。
完全に怒らせている。
逃げるタイミングを逃している。
魔獣は、どの程度の魔法が使える? 魔力量は?
私の手持ちの魔術で効果があるのは、何がある?
遠隔攻撃、無理だ威力が無いし激しく動いていて当てられない。
遠隔収納、むりだ既に抵抗する意思がある相手だ、収納は出来ない。
……収納爆発、開発中の魔法、これなら威力は十分だ。
しかし、至近距離で無いと、効果は無い。
近づく方法は?
「ブラウン、ハリスとマイを連れて森に隠れろ。
シーテ、炎で攻撃を続けろ、効果はある。
俺とジョムでシーテを守るぞ」
ぐっ。 私には何も出来ないのか。
イノシシの身体に土の鎧が形成される、図鑑に載っていたサイと呼ばれる生き物の様な固そうな物だ。
イノシシが突進をかける!
ギムさんが弾かれ、地面を転がる。
私達の方向に向かってくる。
「横に散らばれ!」
ブラウンさんが矢を撃ちながら叫ぶ。
私は、ハリスさんを引っ張って、右手側の死角方向へ逃げる。
木の影にハリスさんを押し込む。
「ここに居て」
「マイさん、なにを?」
ハリスさんが聞いてくるが、返事している余裕はない。
私も戦う力はある。
イノシシの魔獣は、ブラウンさんに対して敵意を強く持っているようだ、片目を射貫いたからか。
ブラウンさんは、木を盾の代わりにして避ける。
接近しすぎていてシーテさんは、魔法が使えない。
ジョムさんが、盾を叩いて注意を引こうとする。 効果が無い。
怒りがブラウンさんに向かってしまっている。
イノシシの牙がブラウンさんが盾にしている細い木をへし折っていく。
大きな木を背にブラウさんが追い詰められる。
イノシシが突進して、ブラウンさん牙が刺さらない、上手く下に躱した。
がイノシシにのし掛かられる形になって動けなくなってしまった。
牙が木に突き刺さって動きが止まる。
今だ!
私は、イノシシの後ろ側から接近していた。
死角になっている方向から一気に近づくと、首元、ジョムさんの付けた傷だろう、そこに向かって左腕を突き出して収納爆発を発生させる。
ドグワァッ!!!
ほとんど距離が無い、ゼロ距離での収納爆発だ!
約10キロの岩を使った収納爆発の威力は絶大だ、爆発音と共にイノシシが吹き飛ばされる。
私も、吹き飛ばした衝撃で木にたたきつけられる。
「くはっ」
肺から息が吐き出され、地面に倒れる。
イノシシは、数メートル打ち上げられ、ギムさんとジョンさんの所に堕ちる。
すかさず、ジョンさんのバトルアックスが首に打ち込まれる。
気絶していたのだろう、魔法が解除されたイノシシの首はあっけなく両断された。
「マイちゃん! 大丈夫?」
「ブラウン、怪我は無いか?」
シーテさんとギムさんが駆け寄ってくる。
「私は大丈夫です、かすり傷です。 マイさんが」
ブラウンさんは、多少の傷を負っているが、直ぐに立ち上がる。
私はまだ倒れたまま起き上がれない、木にたたきつけられた衝撃と、収納爆発の影響で左腕が麻痺して動かない。
「マイちゃん! マイちゃん! しっかりして! ハリス! 早く来て!」
シーテさんが私を抱える。
痛みに、苦悶する。 シーテさんが泣きそうだ。
「あ、左腕と背中が痛いので、ちょっと動かさないでくれると嬉しいです」
「大丈夫なのね?」
「はい、ちょっと無茶な魔術の行使をした反動ですね」
「マイさん、微力ですが治癒するので魔法を受け入れて下さい」
ハリスさんの聖属性魔法の治癒が私の身体を包む。
おっ、本当に痛みが引いていくのが判る。 すごい。
「治癒魔法って気持ちいい物なんですね、興味深いです」
「マイさんは、こんな時でも好奇心が勝るんですね」
ハリスさんが、すこし呆れたような感じで笑って言う。
私の周りに全員が集合している。
うーん、ちょっと恥ずかしいな。
「兎も角、全員無事で何よりだ。 マイのおかげだな」
ギムさんが膝を折り、顔を近づけて礼を言う。
少しふざけた口調で言う。
「時空魔術師でも戦えるんですよ?」
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