第58話 ダンジョン「元冒険者チーム」

 今夜も男性陣が夜の番をしてくれて、シーテさんと一緒にテントで眠った。

 最近は、宿では熟睡できるようになったけど、やっばり野外では眠りが浅い。

 交代の物音で睡眠が浅くなってしまう。


 シーテさんも同じようで、ボンヤリと目が合う。

 ニッコリと笑って、頭をなでられる。うーん、妹扱いだ。


 またすぐ睡魔がやってきて、眠る。

 シーテさんに抱き枕にされているのは多分気のせいだ。



 最終日は、朝から移動のため、朝食は簡単に昨日の鳥を焼いた物とパンで済ませる。

 その後、拠点の撤収だ。


「収納は しっかり畳むのは必要はありません。

 後回しにして良いのなら、大雑把にまとめてで大丈夫です」


「ああ、助かる。時間が惜しいからな。 町に戻った後にしっかり畳もう」


 ギムさんから、承諾を貰って、大雑把にまとまったテントや備品類を収納する。

 一応まとまっていれば、取り出すときに分かり易い。

 ほどなくして出発した。



 小川から東側は、私も殆ど入ったことが無い森だ。

 そのことも伝えている。


 どうやら、正確な場所を把握しているらしく、移動には迷いが無い。


「どうやって正確な地形を把握しているんですか?」


 私の後ろを歩くギムさんに質問する。

 私も、正確な地形を把握できれば、森での依頼をこなすのに楽になる。


「うむ、これは知っているかもしれないが、領軍と町にある正確な地形地図を記憶しているからだ。

 事前にどの様に行動するのかは、想定済みと言うことだな」


「そうですか、何かコツがあるのなら知りたかったですが」


「そうそう楽をできる方法は無い。

 ここの地図もこの町周辺だけで数年掛けて作成していると聞いている」


「うーん、自分の位置と町の位置や方角が分かるだけでも大分違うのですが。

 せめて山脈群が判れば良いのですけど、森の中だと難しいですね」


 鬱蒼とした森の中だと、自分の方角を見失いやすい。


 ん、見える?

 引っかかる、あ、もしかしたら何とかなるかもしれない。


 ちょっと考え込んでしまい、木の根で転びかける。

 ギムさんが肩を掴んで支えてくれた。



「足下に気を配れないほど、考え事をするのは感心しないな」


「すいません。 気を付けます」


 うん、後回しだ。 でも、切っ掛けは掴んだ。



「リーダー、やっばりですけど、魔物の気配も痕跡もありませんね」


「私も、探索魔術を掛けているけど、普通の動物以外の気配は感じ取れないね」


 先頭を歩くジョムさんが、報告する。

 私と一緒に歩くシーテさんも、時折使っている探索魔術の結果を報告。


 私? 私の探索魔術の精度も範囲もシーテさんの足元にも及ばないので、やることが無い。

 一応、シーテさんからの指導で多少は基本魔術の能力が上がっているが、その反面として精度が追いついていない。

 これから訓練を続けるしかないか。




 改めて、視察団の様子を観察する。


 先頭を歩くのは、盾役のジョムさん。

 斥候としての技術も高いようで、道の遮蔽物やヘビなどをバトルアックスで器用に切り払っていく。

 普段寡黙だが、話し出すと饒舌だ。


 次にブラウンさん。

 彼も、目が良い、弓を使うからか。 ジョムさんの先の先を見て時折ジョムさんに話しかけて、進行方向の相談をしている。

 柔らかい口調は性格なのかな?


 次がハリスさん。

 この人も、人当たりが良い。 いかにも教会の人と言う感じだ。

 聖属性の魔法を体験させて貰った。 有りがたい。


 そして、シーテさん。

 定期的に探索魔術を行使しているが、特に問題ない場合は、私と雑談している。

 今回は出番が無いとぼやいている。 本来の実力は全く未知数だ。


 で私が、シーテさんと並んで歩いている。


 しんがりは、リーダーのギムさん。

 元冒険者チームのリーダーでもあり、戦闘では前衛の剣士だ。

 装備も長剣と軽鎧の典型的なスタイルだ。

 今は、移動のため、最後尾を務めている。

 チーム全体を俯瞰してみる為かな?


 この編成も特に指示が出ていない。

 ギムさんの出発の合図で、直ぐにこの順番になり、シーテさんに私は腕をつかまれて、一緒に行こうと誘われた。

 というより配置されたのが正しいのだろう。



 森が明るくなってきた、もうじき街道かな。

 シーテさんが、注意を発する。


「前方100メートル、森の切れ目かな、大型の獣の反応。

 相手は風上だからまだ気が付かれていない可能性が高い」


「うん、イノシシだね。 かなり大きい」


 ブラウンさんが補足する。 ってこの距離で判別するの?すごい。


「どうしますかリーダー?」


 ジョムさんが、私達を隠すように盾を構えて聞く。

 あ、盾が声を反射させてこちらと話しやすくしているのか。 考えてるなぁ。


「ブラウン、行けるか?」


「ああ、良い土産になる」


「では、狩ろう。

 ブラウンは先行して待機。 シーテが土魔術で足止めしろ。

 足止めの後、ブラウンは接近して目を狙え。

 俺とジョムで一気に仕留めする。

 ハリスとマイは離れすぎずに着いてきてくれ」



 全員が、頷く。



 ブラウンさんが、全く音を立てずに森の中に消える。


 シーテさんが、ゆっくり音を立てないように移動して、イノシシを視界に入れる。

 イノシシも気が付いてこちらを向くが、その時には土魔術が行使され効果が発揮されている。

 地面を沼地にして沈ませた後、固めて動けなくする。

 基本技だけど、距離も精度も威力もすごい。


 イノシシが、異変を感じて大声で鳴いて暴れるが、足は抜けない。


 右手からブラウンさんが接敵して近距離で矢を放つ。

 いつの間にあんなに移動した? で、矢は片目に当たる。


 イノシシの悲鳴が上がる。


 その時には、ジョムさんとギムさんが斬りかかっている。


 連携と速度に圧倒される。

 これが、領軍にスカウトされる程の冒険者チームの実力か。

 兵士の集団の強さとは違う、個の強さが連携してより強い力を発揮している。


 思わず、喉が鳴る。

 横のハリスさんも、その様子を見守っている。


 ギムさんが左手に回り込んで、イノシシの注意を引く。

 そしてジョムさんのバトルアックスが、無防備にさらされているイノシシの首元に向かって振り下ろされる。


 これで決まりか。





 ガキッ


 斧がはじき返された!

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