第56話 ダンジョン「探索1」

 朝食を取っている時、ギムさんから予定の連絡が来る。


「食べながら聞いてくれ。

 今日明日の2日間で、周囲の探索を行う。

 目的は、魔物かその痕跡の発見だ。

 マイとシーテは、拠点で待機。

 シーテ、土の結界は可能か?」


「うん、この場所、状態が良いから一度張ったら半日以上は持ちそう」


「今日は、俺とハリスで北の山側を、ジョムとブラウンで西の森を、探索する。

 日が暗くなる前に戻ること。

 常に場所を確認して、遭難しないように。

 位置を見失ったら、鏑矢かぶらやを撃って、知らせる。

 シーテ、鏑矢の音が聞こえたら、狼煙を上げろ。

 天候が悪かったら、予備の矢で鏑矢を撃て」


「「「「了解」」」」


「あ、判りました」


 私を除く全員が、一斉に返事する。

 で、あわてた私が遅れたテンポで返事する。


 みんな、顔を背けて笑いを堪える。

 顔が赤くなるのが判る。


「ここは、笑ってくれた方が諦めが付きます」


「わっははは、まぁ、言いじゃないか。

 兵士みたいに返事されていたら一寸引いていたよ」


 ギムさんが、大笑いして肩を叩く、痛い主に心が。


「今の私は、冒険者ですからね、出来るだけ軍隊式の儀礼はしないようにしているんです。

 町の人は怖がる人も多いので」


「だろうな。 とはいえ、侮れない服装も必要だから、今の装備なのか」


 うん、今の装備は元兵士とも冒険者とも見える、中途半端な感じだ。

 これは、町の冒険者たちのアドバイスを元にしている。

 今では、この装備をしていると、冒険者の仕事をしていると町のみんなに認識されている位だ。



 しかし、待機というとやることが無い。

 土の結界というのが出たけど、これは土属性で結界を張ると言うことだ。


 結界魔術というのは、2通りの使い方がある。


 1つは、外部からの侵入を検知する探索。

 常時展開が難しい探索魔術と違って、結界魔術は使用した後、効果が一定時間続く。

 結界内での動きもある程度判る。


 もう1つは、侵入を阻止する。

 土属性だと、歩く方向を地面をほんの少し動かして、移動方向ずらしていくという効果がある。

 土壁でも構築しない限り、侵入しにくい程度の効果しか無い。

 精神に働きかける事が出来る闇属性なら、侵入を意識させずに阻止できるらしい。


 制限は、展開したらその場所から結界を移動させることが出来ないこと。

 範囲の広さに合わせて使用する魔力量が増大すること。

 侵入する物が多いと、効果は直ぐに無くなってしまうこと。


 今回の場合は、最初の方だろう。仲間が戻れない結界では意味が無い。



 2組に分かれた、ギムさんとハリスさん、ジョムさん、ブラウンさん、がそれぞれ森の中に入っていく。

 直ぐに姿が見えなくなる。


 シーテさんが、土属性の結界を展開する。

 得意の属性と言っているだけあって、目視できる範囲以上の範囲を結界に取り込んだようだ。


「広い結界ですね」


「判るのは流石、私と同じ魔術師ね、半径100メートル位かな? まだ皆が動いているのが判るよ」


「私の結界だと、数メートルが限界ですから、うらやましいです。

 探索魔術の方が、ある程度の範囲が判るのでマシですね」


「でも、探索魔術は精度が低くない?」


「低いですね、でも範囲の広さには替えられません」


「しかし、マイって、本当に時空魔法に特化しているのね。

 他の基本魔術って全然なの?」


「使えることは使えますが、全然です」


「ん? 使える? 全属性?」


「ええ、通常魔法に分類される6種類全部使えますよ」


「それはそれで凄いような。 でも、効果が小さいんだと使い勝手が、うーん?」


「シーテさんは、風と火と土 以外の通常魔法は使えないんですか?」


「使えないね、魔術が発動している感覚はあるのだけど、効果が見られないの」



 通常魔法、6属性のどれかに特性がある魔術師には、他の属性が苦手か全くダメという人もいる。

 シーテさんもそうなのだろう。


 なお、魔法使いは、大抵、特性がある魔法しか使えない。



 暇になるかと思っていたが、シーテさんと魔術談義に没頭した。



■■■■



 ギムとハリスは、山を探索を行い、昼食を取っていた。


「ハリス、機会を見て、マイに浄化魔法を掛けてみてくれ。 念のためだ」


「それなら、朝、浄化魔法を掛けました。

 聖属性の魔法に興味があるらしく、話をしてその流れで体験してもらう形で。

 結果は、暖かく感じたとのことです」


「うむ、ダンジョンの影響を確認したいから、と言わずに済んだか。

 それに、影響が無かったのは良かった」


「ええ、まだ未成年の女の子がダンジョンの影響を受けるのは、将来にどんな結果が出るのか分からないので、良かったです」


「さて、大分離れたが、魔物の気配は分かるか?」


「全く無いですね。

 最初、ダンジョンがあった場所の上も確認しましたが、かすかに残滓が判る程度でした。

 知っていたので気が付きましたが、ジョムさんでないと普通は判らないでしょうね」


「今回は、良い情報しかないな。

 毎回こんな感じだと良いのだが」


「ええ、別の町では、すでに魔物の被害が出ていますからね。

 しかし、ダンジョンは別に増加しているわけでは無いのに何ででしょうか?

 それに魔獣の増加の報告も受けています」


「考えたくないが、魔物の氾濫の前兆の可能性がある。

 勘の良いやつなら、そろそろ気が付くだろう。

 マイも察しているようだったしな」


「例の塊との因果関係は?

 私も見ましたが、何か判りませんでした」


「それを調べるために、今、領都に運んでいる。

 結果の連絡は貰えないだろうな」


「この場合は、連絡が無いというのは良い知らせと考えるべきかと」


「そうだな」


「さて、探索を続けよう。

 今度は戻りながら、見ていなかった場所だ、見落とすなよ」


「はい」


 ギムとハリスが、探索を再開し、森の木々や地面の様子を確認しつつ、移動する。






「ついでに何か狩っていくか?」


「たぶん、ブラウンさんが狩ってますよ」


「だよなぁ」

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