第55話 ダンジョン「教会」
夜の番は、男性陣だけで行うということで、シーテさんと私はテントの中でぐっすり眠れた。
私は、自分の収納空間に入ることで安全に寝ることが出来るが、今回は封印だ。
私は、夜の番も申し出たのだが、未成年ということで却下された。
シーテさんは、体力的な問題だそうだ。
朝になり、目が覚めた、シーテさんはまだ寝ている。
テントの中でも息が白い。
起こさないように、静かにテントを出る。
「おはようございます。 夜の番、お疲れ様でした」
「おはようございます。 マイさん」
最後の番は、ハリスさんだったようだ。
冬の冷たい空気が肌に刺さる。 風が無いのが救いだね。
「私は一番楽ですよ、ちょっと早起きするだけですから」
ハリスさんは笑いながら、温めたお茶を出してくれる。
夜の番は、最初と最後が楽だ、睡眠の途中で起きて番をするのは、眠気と疲れが残ってしまう。
今回は、男性が4人なので、一人約3時間程度で交代で済む。
時間に関しては、虫除けの香を焚く。 虫が少ない冬の今は余り意味が無いけど。
小さい三角錐のこれに火を付けると虫が近づきにくくなるのと、燃え尽きる時間がほぼ一定なので、時間を計るときによく利用される。
私はハリスさんからお茶を受け取ると、椅子代わりの石に座る。
マント越しでも冷たい。
「寒いので、朝は温かいスープでも作りますか?」
私は鍋を取り出して、ハリスさんに同意を求める。
「良いですね。 シカ肉も余っていますし、喜ばれるでしょう」
私は、湧き水の場所に行き、手早く洗い、水を貯めて収納する。 6人ならこんな物かな?
こういう時、時空魔法は便利だ。
戻ってきて、収納空間から水が入った鍋を取り出すと、火に掛ける。
ハリスさんは、昨日の残りのシカ肉と野菜を適度な大きさに切り分けている。
うーん、今度、タナヤさんに料理を教わろうかな?
私の知っている料理は、前線や移動中で作る簡易的なものばかりだ。
ハリスさんは慣れているのか、沸騰してきた鍋に具材と調味料を手早く放り込んで煮込んでいく。
「料理、慣れていますね」
「ええ、教会では、身寄りが無い子供を引き取っているので、料理も仕事のうちですね」
「ついで、で申し訳ないのですが、教会というのはどんな物でしょうが?
田舎出で、魔法学校と軍隊しか知らないもので、無知ですいません」
「いえ。 説明すると言いながら遅れてしまって、こちらこそすいません。
まず、教会というのは、宗教とは違います」
ん、何だって? 教会と宗教が違うってなんなんだろう?
「500年前までは、教会というのは神の教えを広める宗教の場所でした。
しかし、魔物の氾濫の時、教会は無力でした。
神はこの世界に救いを下さらなかったのです。
その当時の教会に居た者達も戦いに加わりましたが、それはその者の力です。
そのため、魔物の氾濫の後は、神というのは只この世界を見守るだけの存在、となりました」
「救いが無い話ですね。
では今の教会というのは一体何で存在しているのでしょうか?」
「教会の仕組みは国を超えた、建前上は利権の伴わない組織です。
当時の施政者は、これを潰さずに利用することを考えたようです。
今の教会は、国民に対して、教育を施し、そして、治療を行う機関としての役割があります。
あと、身寄りの無い子供の受け入れですね。
そのために国からの補助も多く出ています」
「あ、だから、聖属性の魔法使いが教会に多く居るのですか」
「その通りです。
聖属性は例外魔法の中でも特殊なので、専用の教育機関という意味もあります。
でも神に祈るのは別に禁止されていませんよ。
個人での信仰の自由は、国から保証されていますから」
個人での。 つまり、信仰を他者に強要したり、周りの人に対して影響を与えるほどの行為は禁止されているということだ。
なるほど、私が会ったことのある教会の関係者もみな、事務的だった。
村にも、教会の老人が居た。 教会から派遣されたとのこと。
この人は魔法は使えなかったが、頭が良く知識も豊富で村の相談役だった。
その人から村人は、最低限の読み書きと簡単な加減算を習う。
一部の頭の良い子供は、更に高度な初等教育を受けて村長やその補佐をする役になるように育てられる。
私は、5歳で魔法学校に行ったので初等教育は受けていない。
魔法学校で、初等から中等教育を無理矢理詰め込まれたけど。
あの教会から来た老人は足腰が不自由で何時も日当たりの良い椅子に座っていた。
子供達に色々な話をするのが大好きな、村の子供にとって みんなのお爺ちゃんだった。
村が滅ぼされる時、まだ存命だったのだろうか?
いけない、考えが逸れた。
「えっと、聞いて良いのか判りませんが、ハリスさんはどうしてここに?」
「え、私ですか?
別に構いませんよ。
私は、聖属性魔法を使えますが、魔術師といえる程の技術を身に付けていません。
魔法も、簡単な傷や病気を治療するのが精一杯なので。 その魔法の修行の為もあります」
「ありがとうございます。
厚かましいのは承知で、聖属性の魔法を何か見せて頂けないでしょうか?」
ハリスさんは、クスリと笑う。
「マイさんは、探究心が豊富ですね。 まるで魔導師様のようです。
分かり易いというと、浄化魔法ですね、体験なさいますか?」
「是非に!」
つい反応してしまう。
ハリスさんは、もう笑うのを誤魔化していない。
ちょっと恥ずかしい。
「では、浄化魔法を使います」
ハリスさんが、両手で何かを持ち上げるような動作をする。
光のような物が、フッと湧き出ると、直ぐに消える。
私の身体が、一瞬光った気がした。そして、なにか暖かい感じがする。
「あ、なんだか身体が暖かい感じがしました」
「はい、それが浄化の効果ですね。 普通の人に対しては、浄化の魔法は暖かいだけです。
魔術師のマイさんならご存じの通り、呪いや不死者の様な相手には、耐えがたい痛みになるそうです」
「効果についてまでは知りませんでした。
ん、ダンジョンに対しては影響があるのでしょうか?」
そうだ、ハリスさんが今回同行している理由が判らなかったのだ、ダンジョン関係なら理解できる。
「ダンジョンというより、発生した魔物ですね。
浄化は魔物に対しての有効な攻撃手段となるので」
「なるほど。 魔物に対して特効があると、興味深いですね」
「本当に、マイさんは普通の魔術師とは違いますね」
ハリスさんが優しく微笑む。
うん、またまた恥ずかしい。
「おはよう、ほお、良い匂いですね」
ブラウンさんさんが起きてくる。
他のメンバーもテントの中で着替えている音が聞こえる。
ハリスさんとの会話もここまでか。
また話す機会はあるかな? まだ聞きたいことは沢山ある。
「シカ肉のシチューですよ、早くしないと無くなってしまいます」
ハリスさんが、テントに向かって声を掛ける。
テントの中が騒がしくなる。
「ちょっと私の分残して!」
テントから顔だけ出して、シーテさんが叫んで、みんなして笑った。
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