第54話 ダンジョン「森の中とダンジョン跡」
東の森に入って数刻。
移動は、元とは言え領軍にスカウトされるほどの冒険者チームだけあり、危なげなく進む。
私は、方向と先の情報を時折伝えるだけだ。
まだ、十分明るいうちに目的地の休憩エリアに着いた。
「ここの岩の窪みがある場所が休憩エリアで目的地です。
右手の奥に湧き水が涌いています。
左手の向こうに見える、あの大岩が例のダンジョンがあった場所になります」
私が、場所の説明をする。
リーダーのギムが、テキパキと指示を出す。
「ジョム、ダンジョン跡をマイと確認、俺も行く。 ブラウンは周囲を警戒。
ハリスとシーテ、湧き水の確認が終わったら、野営の準備だ。
俺たちも確認を済ませたら直ぐに戻る」
全員頷いて、動き出す。 無駄が無い。
私が、ジョムさんを案内する。
目的の大岩は数メートル先だ直ぐに着く。
ギムさんとジョムさんに当時の状況を含めて改めて説明する。
「ここですね、だいたい私の胸の高さ、岩で言うとこの位。
穴は、ほぼ真っ直ぐこの方向で約5メートル。 穴の大きさは奥まで変わりません。
見つけたときは夕方まだ明るい時間で、雨が降っていました。
最初にこの休憩エリアに来たときには、存在に気が付かなかったです」
私は、岩に触れないようにして、指で穴の大きさを説明する。
ダンジョンの入口があった場所、その大きさ、そして穴の方向と深さを説明する。
ジョムさんが、近寄って、何かを調べ始める。
その様子を眺める、何をしているのだろう?
「ジョムは、探索系の技術がある、ダンジョンの痕跡も判るんだよ」
ギムさんが説明してくれる。
とはいえ、ダンジョンが消滅してから、かなりの日数が経っている、痕跡なんて有るのだろうか?
「確かにダンジョンですね、しかも、生まれて間もなく消滅しています。
規模もマイさんの情報通りです」
ジョムさんは、何を根拠か判らないけど断言する。
「ふむ、なら魔物の発生した可能性は少ないな。 良い情報だ」
また周囲の地面を調べてる、これは魔物は生まれた場所から、一定数増えるまでは離れないという特性があるそうだ。
今回の場合は、もう増える可能性は無いので、生まれた魔物が徘徊していないかの確認となる。
私の目で見ても、周囲に小動物の痕跡ぐらいしか見当たらない。
休憩エリアに目を向けると、すでにシーテさんとハリスさんが石で作られた竈への火の準備を始めていた。
あ、野営用具は私の収納の中だった。
「ギムさん、休憩エリアに戻っても?
野営用具を出して置くの忘れました」
「ああ、構わない。 行ってくれ」
私は、足早に戻る。
■■■■
「で、ジョム、ダンジョンの状況は?」
「はい、マイさんの情報通りで間違いないです。
規模からして、小型の魔物が生まれていてもおかしくないですが、
これはマイさんが、ダンジョンコアを取り除いてくれたので、もう心配ないです」
「マイへの影響は? 少なくても一晩、ダンジョンに居たはずだ」
「これも、問題ないですね。 挙動からダンジョンの影響を全く感じませんでした。
おそらく、入口付近で休んだおかげでしょう」
「ふむ、長くダンジョンに潜ると、ダンジョンの影響を受けてしまうが、その可能性も無しか。
今回は、良い情報だらけだな。
念のためハリスを連れてきたが、無駄足になったか」
ギムとジョンは、話し込む。
ダンジョンに長く入っていると、ダンジョンの影響を受けて、粗暴、理性が欠けてくるという。
その影響を取り除くのに、ハリスの聖属性の浄化魔法が有効だ。
ダンジョンから魔物が生まれる。
その理由が判っていないが、ダンジョンに入った生き物が魔物化するという情報もある。
人間が魔物化すると、脅威だ。 理性の欠けた意思がある魔物、しかも魔術師となればなおのこと。
今回、ダンジョンの視察という目的の他に、ダンジョンの発見者が魔術師であり、しかもダンジョンで一晩すごしている、という状況から、視察団が組まれた。
今回の視察の目的には、マイも含まれていた。
■■■■
「あ、リーダー、もう良いんですか?」
シーテさんが、戻ってきたギムさんに声を掛ける。
私は、2つめのテントをハリスさんと組み立てている所だ。
男女は別のテントなのですよ。
軍用のテントとは少しかってが違うが、困るようなことはない。
「ああ、良い情報と良い情報がある、どっちから聞きたい?」
「良い情報しかないじゃないですか、では良い情報から」
シーテさんが、苦笑しながら答える。
うん、その後、色々見て話し合っていたけど、問題なかったようだ。
「まずは、マイの情報通りでこれ以上、ダンジョンの調査は不要ということ。
次は、魔物の発生した可能性が、ほぼ無いこと。
予定通り2日ここでキャンプして周囲を探索したら帰るだけだ」
「ということは、狩りでもしてキャンプを楽しんで良いということですか?」
周囲の警戒のため、少し離れた所に居たブラウンさんも戻ってきた。
「そういうことだ、とはいえ、森の中だ、気を抜けば死が寄ってくる。
警戒は怠るなよ、念のため」
ギムさんも、懸念事項が無くなったためなのか、肩の力が抜けている。
それでも、油断していないのが感じられるのは、流石だ。
「では、シカを狩ってきます、新しい足跡があったので、直ぐに狩れるでしょう」
「ああ、無理はしないように」
「もちろんですよ」
何時ものやり取りなのだろう、既に森に向かっていくブラウンさんは手を振って答える。
そんなに簡単に狩れる物なのか?
「ブラウンが、狩れる、と言ったら間違いなく狩ってくるよ。
今日はシカ肉がたっぷりね」
「あ、野菜を幾つか買い込んであるので、使います?」
シーテさんが、ブラウンさんの腕を自慢する。
ブラウンさん、凄腕なのか。 で、買い込んだ比較的日持ちのする野菜の事を思い出す。
私は、収納から野菜類を取り出す。
「わぁー、マイちゃん大好き」
シーテさんが、抱きついてくる。 ついでに頭をグリグリなで回す。
「あははは」
私は、柔らかい胸に頭を埋められ、乾いた笑いしか出なかった。
どうせ、私の胸は硬いですよ。
しばらくしたら、立派な雄シカを担いだブラウンさんが戻ってきた。
早っ。
その夜は、焼き肉パーティとなった。
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